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欠けたパーツ

朝のオムレツにナイフを入れる
六回
一回は蛇のため
二回はパーティ好きな女のため
三回は愚かな男のため
残りの三回は
すべての人類のため

テーブルは
アフリカの地図
あるいは上海の居留地
椅子にすわる私の頭蓋骨
不規則なパズル
欠けている数枚
そこに人類の進歩が
人類の安息があると言う
テーブルも切られて
六方向にたおれる
朝日に立つ樹の影のように
砂にもどる塔のように
祖先の墓のように
二千年前の城壁のひとつのように
きみが祈願して
名を書いた柱のように
誕生を祝った欅のように
なにも言わずに
脚を失いたおれた

俎板の上
野菜の根の絡み
肉の筋のすきま
刀が撹拌する
野菜市場と精肉工場で
探すしあわせ
三つに分けた人類
つくる人と食べる人と飢える人
美しい曲線で
爆弾のリズミカルな破線で
ピアノのキーボードの動きで
切断する

洗ったばかりの白いシーツに
写しとる
死体の欲望と
波が砕ける海岸線
穴だらけの寝室
欠けている地球
表れるのは
わたしが愛していた
女性の緑の眼
バナナの葉に並んだカラフルな食事
あなたを最後に包んだ白木綿

静寂の地で
遠い人々の叫びは
音にならない
絶望でたおれる子供の表情は
風にならない

染めたばかりの国旗のような
ケーキを切り分ける
歴史にそって
食事の後
真っ白いクリームを塗る
そしてキス
人類の美しさをほおばる
老女がひとり
オリーブ色の眼球をつまんで
海の底へ去る

鳥が
海面から飛びだし
最初の声をひびかせる
それはまもなくだろうか

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