ぼちぼち銀河MV
柴田聡子さんの「ぼちぼち銀河」という楽曲のMVを、釣部東京で演出/制作させて頂きました。
セットは全部プラレールで、映像も全てプラレールにアクションカメラをくっつけて撮影という、タカラトミーが協賛してるのかと思いきや別に全然そんなことはない驚きのビデオです。
プラレールを使用した理由は色々あるのですが、ひとつは個人的に柴田さんから受けた印象「エッジとゆるさと一筋縄ではいかないぞ感」みたいな所から、「かわいいモノでカッコいいを目指す」「変なアングル・変な視点」という屈折した試みや、ゆるめの雰囲気が合うのではないか、と思った事。
もう一つは、10年前に作った奇作、「フジヤマさん業の仕事」で一度美術にプラレールを使っていて、当時もカメラを乗せてドリーとして使ってみたかったのですが、機材の都合で実現出来ず、時が経ち色んなアクションカメラが小型軽量化され安価になったので今ならできるのでは、と。
あと普通にプラレールとかトミカとか好き、ということ。
歌う柴田さんをプラレールで取り囲み、同時に複数台のカメラを走らせて撮影。ミラーボールを置いて、ぼちぼち銀河鉄道だぜ!となったのが事の始まりです。
・構想
最初に、プラレールとCGソフトは相性が良く、正しい寸法のモデルがあればかなり実物に近いルックと動きをシミュレーションできるなと思いました。
セットデザインもC4D上で作業でき、必要なパーツ数の割り出しや、カメラワーク、アングル共にシミュレーションしたプリビズを制作できるので、これをガイドに実物を制作するというフローは作りやすそう、となりました。
・カメラ選定
早速カメラをどうしようかなと選定したところ、一つ目の躓きポイントが。橋脚(黄色いやつ)の高さに収まるカメラが意外と少ない事が判明。
はじめは「GoProで全部いけるやろ」と思っていたところ、GoProの寸法は48.6×66.3×28.4mmと意外とデカい。あと重い。
全然だめじゃん。
もう実物で橋脚を通れるか確認した方が早いな、と橋脚とレールと電車を持ってヨドバシカメラのアクションカメラ売り場へ。
プラレールを売り場に持ち込んでカメラに当てて寸法の確認してる姿のあまりのヤバさに店員さんからは完全にマークされてました。ごめんなさい。でもそうするしかなかったんです。
で、その中で一番小さかったのがこちら。insta360 GO2
サイズは52.9mm×23.6mm×20.7mm。
恐らく現状のアクションカメラの中で一番小さいのでは。これだと橋脚を楽に通り抜けられました
加えてこのinsta360 GO2は独自のinsta360 studioというソフトによる後処理のブレ補正がかなり強力で、結果的に今回はGoPro HERO10とinsta360 GO2の二種類のカメラを使用したのですが、絵の滑らかさはGO2の方が勝りました。
しかしこいつには致命的な欠点があり、後々我々を悩ませます。
それと、カメラの台車に丁度良いものは無いかなと調べているとこんな商品を発見しました。
なんてカメラを載せやすそうなんだ!撮影の休憩時間にみんなで回転寿司ごっこもできるしこんなの最高だな!と即購入。これの裏に重りをつけると重心も低くなり非常にカメラが安定しました。
本番はバタバタしすぎてみんなで回転寿司ごっこが出来なかった事だけとても悔やまれます。本当にやりたかった。本当に。
・セットデザイン
一方でセットデザインとライティング含めたルックデベロップメントを進行。こちらはあまり心配無さそうだったので、実際に撮影テストへ。
歌詞の「引き寄せ合うひかり」というところから何となく銀河系っぽいイメージ。中央の柴田さんが恒星でそれらの周りをみんながグルグル回っている、という裏設定。
橋脚パーツもたくさん連なるとなんだかメタボリズム建築的な雰囲気が出てグッドだったので思い切ってモノクロに。
セットに必要なパーツ数はCG上で数えれば良いので、割り出した数を注文。
ついでにどこで購入するのが安いのか調べたところ、プラレールは中古でもあまり値崩れしない事が判明。どうやらプラレールは相場が下がらない「金」のような存在のようです。(その場合この世界のプラレールの総数が一定の量に決まってないといけませんね)
そしてヨドバシカメラが謎に一番安く、メルカリなどの中古品よりヨドバシ.comで新品注文の方が定価より安く大量に買えそうでした。ヨドバシすごい。
はたしてこんな在庫があるのか半信半疑で注文してみたところ、無事注文完了。しかも到着は一日後。ヨドバシはどれだけ大量のプラレール在庫を保有してるんだと恐ろしくなりました。
しかし、注文完了した翌日、案の定注文エラーでキャンセル扱いの連絡が。
やはりこんな狂った在庫は抱えてないよなと思い確認したところクレジットカードが不正利用扱いで止まってました。そっちかよ。
確かに普段扇風機とか延長コードとかしか買ってない小市民がいきなり業者のような発注をかけたので「そんなわけない」と判断されました。残念ながらこの世はそんなわけもあるんです。
カード会社に本人であることと正気であることを連絡し不正利用制限を解除してもらったのち再度注文。(結果的に今回カードが三回不正利用扱いで止まりました。カード会社はちゃんと仕事をされてます。これは京都風嫌味じゃないですよ。)
すると翌日無事発送完了との連絡が。
なんで発送できちゃうんだよ、と再度ヨドバシに恐怖。日本中のヨドバシから集まって来ているのだろうか。
なんやかんやで到着したプラレールで撮影テストのための仮組とテスト撮影。
・ブレと光量とバッテリーの闘い
GO2は2688*2688pxの魚眼画角で撮影したものを歪ませてクロップして16:9にする、というちょっと変則的なもので画質が少し怪しいか?と思ったのと、少しマイナーカメラなのでGoProほどレンタル個数が揃えられないような気がしたので、橋脚を通らないカメラはGoProにするという判断をしました。
早速撮影したものを確認したところ、両機共に許容を超えた謎のガタつきが発生。アクションカメラってクロスバイクとかにつけても滑らかに撮れるんじゃないの????と焦り。
調べたところアクションカメラはどうしてもセンサーサイズの影響で暗部に弱く、シャッタースピードを自動で落としてしまい、そこにソフトウェアのブレ補正がかかる事で奇妙なガタつきが発生する事が判明しました。
これの左上のような状態。
しかし今回は背景をなるべく暗く落としたかったので、シャッタースピードを1/100~1/200くらいでマニュアル撮影できるように照明側を調整する事に。isoを上げると画質が下がるので、このあたりのバランス調整も苦労しました。
夜間や暗いシーンの撮影はアクションカメラは本当に向いていない。
アクションカメラは陽気なパリピが青天の下使用するように設計されており、自分たちのような人間が薄暗い所で使用する物じゃないんだなと急にやさぐれました。
そしてもう一つ悩みが発生。GO2に関しては機体があまりに小さいためか撮影開始すると約3分ほどで熱暴走し収録が終了する事が判明。この収録時間はパリピに対しても短すぎるのでは。楽曲は約4分なのでもちろん足りません。
当初は「1曲まるごと同時に8台ほどのカメラを走らせて収録」を何セットか繰り返し、取れ高を編集する想定だったのですが、そんな雑な収録はバッテリー都合上不可能という事が判明したので、CGプリビズとカメラテストで収録した映像を使用し再度詰めたプリビズを制作。
プリビズを元にパート毎のカットリストを制作し、閉じ込めた柴田さんがあんまり何度も何度も歌わなくて済むようになるべく効率よく撮影できるよう準備。
そしていよいよ本番。
ちなみにGoProは収録を開始すると遠隔ではプレビューが見れないという男前すぎる仕様のせいで撮影中ちゃんとした絵が撮れているどうかがわかりませんでした。祈る事しかできない。なので、撮影のインターバルの都度取れ高をPCに取り込み確認、という事になりました。これ、もうちょっと何とかならんかね~と思います。今回カメラ周りの問題が無限に出てきて本番まで落ち着く事がありませんでした。
・撮影本番
本番は渡邉日南子さんのキラキラ衣装と舞人さんによるキラキラメイクを纏い、ミラーボールの下これ以上ないくらいキラキラしている柴田さん。
ずっとプリビズの3D仮想柴田さんを見ていたので、実際に鎮座して頂いたところ「ほんものだ!」という当たり前すぎる感想が出ました。
ほんものの柴田さんはやっぱりほんものなので歌う姿も非常にカッコよくてプレビュを見ながらガッツポーズをしました。
ちなみにラストカットだけ電車の走り出しのタイミングを遠隔で操作したくて、何か方法が無いかと調べてみたところ単四電池をセットするとBluetoothでスマホを使って操作できる単三電池になるという驚異のアイテムを発見。こちらを使用してプラレールをラジコン化しました。
これ、なんかもっと色々な遊びに使えそうなガジェットだなと思いました。操作も無料アプリでとても簡単。
合計15回くらい?歌って頂きひたすら撮影。
終了後に「大変でしたか?」とお聞きした所「そんなに大変じゃない方でした」とのお返事。心強い。
というわけで撮影は無事終了しました。
ご協力頂いた皆さん本当に本当にありがとうございました。
ちなみに柴田さんのMVはどれも素敵なのですが個人的に大好きなのが「結婚しました」動きと流れがたいへん気持ちよく、美しい。
あと「ニューポニーテール」
俺もこんな風になりてえよ、と思います。
今回は柴田さんを狭い所に閉じ込めてしまったので、いつか縦横無尽に動き回る柴田さんも撮影してみたいな、と完成した後思いました。
・プリビズと平行させた実写制作
他にも書ききれないくらい色々な困難があったのですが、割愛。
CG上のシミュレーションを現実で再現していくという工程は大変ではありつつも、指標を先に作る事で現実での作業が非常に進めやすかったです。
映像の中でCGは一切使用しなかったのですが、今回のような形でCGと現実を行き来させながらのフローが自分的にかなりしっくり来たので今後も積極的に導入する事になりそうです。
あとCGと現実の境界みたいな所が個人的に興味があるのでその辺をもっと曖昧にして行ければなと思います。実写の方の映像にCG上で作ったカメラワークで出た絵を合成したり、もしくはその逆をしたり、あるいは実物のセットを3DスキャンしてCG上に持って行ったり、なんか色々こねくり回せそう。
ちなみにこの撮影で使用したプラレールを同時期に制作した「観測:中村佳穂」でも使用しています。使いまわしではないですよ。ユニバースです。
これの話はまたあらためて。
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