<コラム>独立リーグで夢を追う練習生たち
プロ野球独立リーグに関わって15年目になる。アナウンスのボランティアから始まって今はリーグの公式記録員、時にはチームで実況を担当させてもらうこともある。
お手伝いをさせていただく中で、初年度からいろいろな選手を見てきた。夢叶ってNPBへ入団できた選手、夢叶わず引退する選手、怪我に泣かされる選手……。
NPBの選手との差はわずかに見えてもチーム事情やタイミングなどの要因で、選手としての旬の時期にドラフト指名まで至らない選手も。
独立リーグは裏方とチームの距離が近い。その理由のひとつとして選手が運営の一部を手伝うからだ。スポンサーバナーの貼り出しや試合後の球場の清掃などを選手が担当する。
たまにweb記事などで、過酷な環境の中でも夢を追いかけ頑張る独立リーガーにスポットを当てたものを見かけるが、更にマイナーな独立リーグの『練習生』の存在をご存知だろうか。今回は私が今まで近くで見てきた独立リーグの練習生について書いていく。
独立リーグの選手をとりまく環境とは
独立リーグは2005年に四国アイランドリーグ(現在は四国アイランドリーグplus)が発足してから、BCリーグ(現在はルートインBCリーグ)、関西独立リーグが発足し、北海道ベースボールリーグ、2022年始動の新リーグ、日本海オセアンリーグ、九州アジアプロ野球リーグ、沖縄の琉球ブルーオーシャンズとリーグ・チームの数も増え、日本最高峰のNPB球団でのプレーを夢見る選手には夢を追いやすい環境が整ってきている。
とはいえ、独立リーグでプレーをする環境は依然過酷だ。リーグやチームによって契約内容は変わるが、給料が出るのはシーズン中だけ、オフシーズンはスポンサーの会社でアルバイトをして生活費を稼ぐ。
地元出身者なら実家から通うこともできるが、それ以外の選手は球団からの家賃補助がない場合、他の選手とルームシェアすることも少なくない。中にはシーズン中も給料はなくアルバイトをしながら野球をしなければならないリーグや球団もある。球団には栄養士がいるわけでもなく、栄養管理も自分でしなければならないため、体づくりがままならない選手もいるのが現状だ。
独立リーグの練習生とは
独立リーグの選手の環境は大変だが先述したのは登録選手のことで、登録外の練習生となると更に環境は過酷だ。基本的に給料は出ないし、練習に参加しながら登録選手を狙う。それでもシーズン中に登録されるという保証はない。みんな一縷の望みにかけて練習生として球団に所属する。
練習生には入団の時期などの関係で登録から漏れてしまった選手や、怪我をした選手、登録選手まではまだ実力が届かない選手などがいる。ケガで練習生にならざるをえなかった選手にはモチベーションを保つのも大変な環境かもしれない。
登録選手とは違いさらに過酷な環境の練習生はシーズン中どんな毎日を過ごしているのだろうか。例としてルートインBCリーグの群馬ダイヤモンドペガサスの場合を取り上げてみる。
ペガサスでは練習生に給料は出ない。チームの練習日には練習に参加し、それ以外の日は球団の親会社などでアルバイトをする。公式戦の試合日は試合前の練習に参加後、運営の手伝いをこなす。シーズン中もアルバイトをしながら練習に参加し、登録選手の枠を狙うが、実際は生活に手一杯で野球に集中するのも大変な環境だ。
練習生の仕事とは
ペガサスの練習生が担当する業務は試合中のボールボーイやBSO、試合の一球速報配信を主に担当し、時にはMCのお手伝いをする事もある。
練習生の中には学生野球時代、チームの中心選手で裏方の仕事をしたことのない選手もいる。戸惑いながらもこなす選手、やってられないという思いが顔に出てしまう選手、待遇に耐えられずにシーズン途中に気づいたらいなくなっている選手、様々な選手がいる。
裏方の仕事をしていると、必然的に登録選手ではそこまで関わらない、ボランティアスタッフや球団のスタッフとより密にやり取りをする場面が増える。練習生とはいえ運営を手伝っている間は同じスタッフだ。ボランティアや球団スタッフの方も一緒に働きやすい、または連携が取りにくいと思う練習生がいるのは事実だ。
「あの選手はダメだ」という話は聞かないが、「あの選手は頑張っていた」、「良かったね」なんて話を聞いたりすることもあるし、自然と頑張っている選手はみんな応援する気持ちが生まれてくる。意外と練習生の仕事ぶりは見られているのだ。
歴代の練習生の今は?
歴代の練習生でもボランティアスタッフから評判が良かった選手が何人かいる。そんな練習生たちのその先は、登録選手を勝ち取った選手がほとんどだ。
ペガサスで登録選手になれなくても他球団に移籍後、登録選手になりレギュラーを勝ち取ったり、引退後も球団スタッフとしてチームに残った選手、中にはyoutubeで人気の野球チームで活躍中の選手も。
その中に、ペガサス現役選手で荻野恭大という選手がいる。144km右腕として地元から高卒で2017年に入団すると初年度からクローザーとして活躍し、2018年には群馬ダイヤモンドペガサスの独立リーグ日本一に大きく貢献した。
その翌年、肘の手術を受け、2019年はリハビリのため練習生となった。リハビリをしながら公式戦では一球速報の配信を担当することも多かった彼は、持ち前のコミュニケーション能力の高さで裏方スタッフともうまく連携をとっていた。時折、球団職員なのかと思うほどの安心感すら感じさせることもあった。
翌年の2020年、荻野選手はリハビリを終えチームに復帰するとなんと手術前よりも球速が上がるほどの好調ぶりを見せ、昨年2021年のルートインBCリーグ優勝の年にもセットアッパーとして活躍した。
肘をケガして野球ができない中チームメイトが試合で活躍するのを目の前で見ながらそれを配信する。きっと悔しく感じることもあっただろうと察せるが、荻野選手は一度もそんな素振りを見せることなく、練習生として担当した仕事はきっちりとこなしていた。今でも一球速報の配信でわからないことがあるとみんな彼に質問しにいくほどだ。
なぜ練習生から活躍できたのか?
荻野選手をはじめ、練習生から登録選手になった選手たちを見てきて感じたのは、みんな裏方の仕事を嫌がることなくきっちりこなし、むしろ楽しんでいるようにすら見えたことだ。
決して練習生の仕事をきちんとするから登録選手になるわけではないと思う。でも練習生の仕事も嫌がらず、怠らずきちんとこなす姿勢や、自分がその時置かれている状況を理解し、俯瞰で自分を見る分析力などが野球にも通じる部分があるのかもしれない。
個人的に思うのは、NPBでも二軍にいる新人選手はドラフト順位に関係なく試合中、BSOやチャートを担当することがある。独立リーグ、NPBとか関係なく裏方の仕事を任されたからには、選手はこなして然るべきなのではないだろうか。
2022年も群馬ダイヤモンドペガサスは16人の新入団選手を迎え、その内3人は練習生。昨年同様、シーズン中も登録選手27枠を競い、登録選手、練習生の入れ替えが激しく行われることが予想される。どんな選手が登録選手を勝ち取るのか密かな楽しみにして、注目していこうと思う。
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