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<コラム>野球と挨拶

NPB球団で仕事をさせていただいて、まずカルチャーショックを受けたのは挨拶だった。球場で会った関係者、選手に挨拶をすると一様に「したっ!」という挨拶が返ってくる。

試合前なのに。

NPBの試合開始時刻は大抵が午後。試合後のタイミングで挨拶をしたならまだしも試合前にすれ違ったタイミングで「したっ!」というのはなんだかしっくりこない。このチームだけなのかと思ったらビジターの選手も同じ挨拶をしていたのでNPB全体の常識のようにも感じた。

「したっ!」が「お疲れ様でした。」の略なのはわかる。長年野球界に関わっていれば「したっ!」という挨拶自体には慣れてはいるが、試合前なら「お疲れ様です」の略に聞こえる、「シャース!」なのではないか……と少しだけモヤッとする。

みんな元気に挨拶してくれるものの、試合前なのに過去形の挨拶なのが気になりすぎて一度チームスタッフに聞いてみた。返ってきたのは、きっと「練習お疲れ様でした」の「したっ!」なのではないか? との答えだった。

つまり練習後〜試合前は「練習お疲れ様でした」の「したっ!」。試合後は「試合お疲れ様でした」の「したっ!」ということになる。「したっ!」という”短縮挨拶”にそんなに長い意味が込められているのかと思うと、なんだか奥が深いとも思えてきた。

変化の中でも変わらない挨拶

最近では投球制限や坊主の廃止などアマチュア界を始め、野球界でも改革が目に見えてきている。その中で、挨拶だけは今も変わらず大多数のチームで短縮したものが飛び交っている。高校野球の強豪校で試合時に「お願いします」「ありがとうございました」と略さず挨拶をする高校も出てきたが、まだまだマイノリティなのが現状。

お笑い芸人のティモンディやとにかく明るい安村が出身高校の独特な挨拶や話し方をネタにしているし、バスケットボール漫画「スラムダンク」でも試合時の挨拶は略した挨拶が記載されている。ここで少し気になるのが、スポーツ界の”短縮挨拶”に変化が訪れることはあるのだろうか? 

意外と万能? 短縮挨拶

よく考えれてみれば「シャース!」も「したっ!」も万能な挨拶だ。
「します」が付く現在形の言葉は「シャース!」、「ました」が付く過去形の言葉は「したっ!」「ございます」は「ザス!」(と聞こえる)常に行動にスピード感を求められるスポーツ界では、最短の挨拶で使い勝手が良いのかもしれない。

一方で社会に出て短縮挨拶を使う機会は少ない。将来スポーツを引退後、社会に出た時を考えると学生スポーツの段階から短縮しない挨拶を身につけるのは大事なのではないかという考え方もある。元気に大きな声を出す挨拶以外にそこまで考えて挨拶の指導をしている指導者がどのくらいいるのかは未知数だが。

これだけ勝手に考察しているが、きっと選手たちはそんなことを考えてはいないし、実際、短縮バージョンでも笑顔で元気に交わす挨拶は気持ちが良いものだ。

挨拶は万国共通のコミュニケーション。言葉の意味よりも態度や声のトーンが大事なんだろう。今後、時代とともに変わっていくスポーツ界、野球界で挨拶も変化していくことがあるのか気にしていきたい。












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