し、あわせ

そのことに気づいてはいけない。
それを求めてさまよう人々の中で、
それをすでに持っていることに気づいてしまったら、
もう歩いては行けなくなってしまうから。
もう進まなくて良いのだと思ってしまうから。

つまり、それは暖かな毒である。
僕の体を暖めながら、じんわりと心を侵して殺してゆく。
そのやさしさと温もりの中で、僕は段々と動けなくなる。

でも、果たして人々は本当にその毒を求めて歩いているのだろうか。
実はもうみんな持っていて、気付かないふりをしているだけなんじゃないだろうか。
僕だけがそのことに気がついて、毒を毒として受け取って、じわじわと死んでいくのなら、
いっそ心だけでなく、体まで蝕んで死に至らしめる毒ならよかったのに。
どうか人々がその毒の在り処に、気付いてしまいませんように。

その毒が如何に僕を満たし、そして死に誘っているのかを知ることが不幸であると思ったことはない。
なぜならその毒の名前は、

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