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海の向こうには

【歌詞】

海の向こうには まだ知らない輝きがあって
こんな錆びついた閉じ切った町とはきっと違うよね

海の向こうには それが口癖の彼女が言う
君と行きたいの 二人乗りで その自転車で

あふれだす大粒の涙が繋いだ手に はじめまして
初めて君の胸の奥を知れた気がした
止まらないペダルが軋む音 どれくらい持ち堪えれるだろう
それでもただ君と観たい この海岸線を抜けた先

海の向こうまで 辿り着くには短い夜
山沿いのベンチに差し掛かる手前 土砂降りの雨

あふれだす大粒の雨が身体を重くするけれど
僕の背中 寄り掛かる君から伝う体温で
あと少し頑張れそうなんだ
不思議な気持ちになるんだ
これは或る町に住む 二人だけの青春賛歌

あふれだす大粒の涙が繋いだ手に はじめまして
あの時の温もりだけは今も冷めちゃいないよ
車輪は金切り声を上げ 雷鳴 それに呼応してる
それでもただ君と観たい 最悪な峠を越えた先

海の向こう側 泥塗れの彼女が笑う
壊れた自転車は捨てて のんびり各駅で帰ろうか

 中学生の頃にマンガアプリが出始めた。スマホなんて今ほど学生に普及していなかったが、親友の兼川がタッチパネル式の最新型WALKMAN(音楽プレーヤー)を持っていたのを見て、羨ましすぎて誕生日プレゼントか何かで親に買ってもらい、それを使って読んでいた。そこで出会った「惡の華」という漫画が大好きで、押見修造先生の他の作品も買ったり借りたりして読み込んでいた。画集も買った。実写映画も一人で見に行った。

惡の華

※「惡の華」のネタバレが微量アリなので読む予定ある人はご注意ください...


 中学時代の出来事で、今の自分に大きく影響を与えているものの一つがこの漫画との出会いだった。「海の向こうには」はこの物語からほぼ全ての着想を得ている。上の画像のヒロインである仲村さんが、主人公の春日に「こんなクソな町抜け出そうぜ」的なことを言う。これが曲を書く軸になる。

 「海の向こうには」で再現したいものは作品から得た世界観だった。青春の爽やかなイメージの中にも、ひとり一人の心を覗けば暗いコードが鳴っている。沸点ギリギリのまだ落ち着いた怒りがある。具体的な描写の中では、特に自転車を押しながら川沿いを二人歩くシーンと二人乗りで悪天候の中の峠を駆けるシーンの2つが何故か色濃く記憶に残っていた。作品内ではキーワードではない「海」を「遥か遠い場所を目指す」という意味でテーマに設置して、そこから作り込んでいきたいと思った。

 あと「惡の華」の中でメインのヒロインは仲村さんだけど、別の佐伯さんという女の子が超好きで「海の向こうには」ではそっちをイメージして曲を書いた。純粋無垢な、クラスのマドンナって感じの子。だけど物語が進むに連れてちょっと毒っぽくなってしまう。

佐伯さん

... 載せる画像間違えたカモ。

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【物語の解説】

 「海の向こうには」の主人公とヒロインは、自分達の住む町に対して刺激がないだとか、つまらないと思っている。遠くの都会をずっと羨んで、そこに行けば答えが見つかると思っている。特にヒロインの方なんて、口癖になるくらいそう思っている。彼女に「連れてって」と言われたら、単純な主人公は脊髄反射でそうする(男ってみんなバカだから)。

 期待に応えようとする主人公を見て、なんとヒロインは泣き出してしまう。情緒不安定もいいところだ。だけど主人公は主人公で馬鹿なので、ポエミーな気分になって感傷に浸る。この全員痛々しい感じが、十代そのもの過ぎて堪らなく愛しいと思う。いつか必ず手放してしまうから。

 そこから主人公は天気の悪い中めちゃくちゃ頑張って二人乗りの自転車を漕ぎまくる。ヒロインの彼女に海の向こうを見せてあげたいという一心で。
 そして無事に海の向こう側に辿り着くのだ。泥塗れになって、自転車も壊れてしまったが、二人の心はなんだかスッキリしていた。

 今まで刺激がなかったのは、つまらなかったのは、町の所為(せい)じゃなくて今日まで外に出ていかなかった自分達の所為だった。よく考えれば外に出る交通機関がない町なんてないし、いつでも都会に出ようと思えば出れたハズだった。今まで出ようとしなかったのは「思春期の尖り」に由来する「決めつけ」で散々行かない理由を並べていたからだった。だけどそれを打破できたのも「思春期の痛々しさ」があったからだった。この時期って矛盾だらけで本当に無敵だ。

 そこに辿り着くことよりも、行動する過程が大事だったんだね。というお話。自論「思春期」を振り返れば人生のすべての答え又はヒントが見つかると思っている。今はもうあのときの痛々しさを取り戻したいとまで思う日もある。他人に迷惑かけちゃうし、嫌われるけど、あの頃の方が精神的にドラマチックな日々を過ごせていた。

【おしまい】

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 知識は深くないけど、洋楽ポップパンクが好きでYouTubeを漁ってたら下記の動画に出会ってしまった。この動画で最初に流れる箇所が好きすぎて、これを少し暗めにしたのが「海の向こうには」のイントロ。海岸線を踏み歩くようなイメージ。

 この Alex Melton という人は色んな有名アーティストの曲をポップパンクアレンジしている人らしいんだけど、とにかく全部カッコ良い。テレビやCMで絶対に聴いたことのある曲も多いので、よかったら見てみてほしい。サブスクもあったよ。

 世界観を再現するときに他でこだわった部分を紹介したいんだけど、気付きにくいので読んだ上で耳を澄ましてもう一度聴いてみてほしい。

① 2A終わりの間奏で雨音の素材が入ってる
② ギターソロの終盤に雷の音が鳴っている

この2つはミックスのとき臨場感も増すために加えたこだわりだった。「こだわりなら説明し直さなくても聴こえるようにミックスすれば良かったんじゃないか」という意見は、正論すぎるので受け付けていません。

 結構こういう物語を作り込む系の曲の方が、作曲が楽しかったりする。原作を元にイチからお話を組み立てるのが好き。アッパー系の曲は自分の感情をそのまま出せないとライブで爆発しないので心が死んでいるときにしか書けない。だからちょっとだけしんどい。今日(4/2)スタジオで合わせた早いテンポの曲はまさに「ザ・めっちゃしんどいッス!」みたいな曲だった。まあいいんだけど。それも楽しみにしててね。

 ライブバンドも作り込むバンドもどちらも好きだから、いつかこういう楽曲が何かの主題歌になったり、誰かが担当番組やYouTubeのOP/EDなんかに使ってくれたりしたら冥利に尽きるなと思う。

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