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診断士 豪一郎の『社長っ、共に経営を語ろう!』①

出るも地獄、残るも地獄

翻訳会社社長、そして中小企業診断士という二足のわらじを履く簗田(やなだ)豪一郎。経営者と中小企業診断士の両方の視点を備えている点が、強みである。さて、本日の訪問先は、T市の自動車部品メーカーO製作所(年間売上高100億円、従業員数約200名)。同社のT社長との二人だけの面談である。

『出るも地獄、残るも地獄』

面談の前日に視聴したテレビ番組で、某自動車部品メーカーの社長が発したこのフレーズが、豪一郎の耳から離れない。業界の現状がみごとに表現されている。長引く円高と国内の不況、それに伴う自動車メーカーの海外への生産シフト。自動車部品メーカーの経営者たちは、決断を迫られている。

元請け企業を追って、海外へ進出しても、受注に繋がる保証は無い。当然、現地部品メーカーとの熾烈な闘いが待ち受けている。一方、国内生産のみに固執すれば、受注減は確実である。T社長との面談を通して、O製作所が置かれている状況が徐々に明らかになってきた。テレビ番組で視聴した状況が、そのまま展開されている形だ。O製作所の顧客は、大手自動車メーカーT社の一次サプライヤーR工業。R工業は、O製作所の売上の実に9割を占めている。

さて、O製作所が抱える問題は、深刻である。R工業は中期経営計画に基づき、海外調達率の具体的な数値目標を掲げ、一層の海外シフトを発表した。そして、2012年初頭、新興国の工業団地へ連れていく下請け企業の選別を行った。残念ながら、O製作所はその選に漏れ、今後4年間で段階的に発注量を減らされるとの通告を受けたのである。本日の面談の目的は、O製作所が置かれた状況の把握に加え、O製作所が『目指す姿』の明確化である。『目指す姿』の明確化なしには戦略策定はできない。『目指す姿』と現状とのギャップを埋める数々の施策こそが、経営改善の具体的な項目となるのである。

面談は続く。

が、T社長の話からは、O製作所の『目指す姿』が一向に見えてこない。『目指す姿』の明確化の前に、クリアすべき問題点がいくつもありそうだ。さらに、数々の問題の根源となる企業体質が見え隠れする。

診断士でありながら、経営者でもある豪一郎は、経営者が抱える孤独を身を持って知っている。一方で、今の豪一郎には、T社長の背負う重責を推し量ることはできない。豪一郎は、T社長の想いを、そして、彼の夢を全て引き出し、共有する覚悟であった。

つづく


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