2017年受賞者 Veikko Ilmari Kuivalaの訃報に寄せて


訃報が飛び込んできたので、先に書こうと思っていた歴代のMestaripelimanniの方々や、「結婚式とペリマンニ音楽」についての記事を保留して、この方について書いてみようと思います。

2017年、カウスティネン民俗音楽祭史上最多となる、6名の音楽家がMestaripelimanniの称号を授与されました。

その内の一人が、スプーンズpuulusikatの演奏家として唯一のMestaripelimanniであり、第一人者でもある、ヴェイッコ・イルマリ・クイヴァラVeikko Ilmari Kuivalaです。

ヴェイッコは、1929年8月12日、現在のロシア連邦レニングラード州の都市ヴィボルグVyborgで生を受けました。

銀行員、消防署長、スポーツ・マッサージ・セラピスト、製紙会社、造船所、船乗りなど、さまざまな職業に就いたヴェイッコですが、船乗りとしてノルウェー沖を航海中、船の船長からスプーンズの演奏を習ったそうです。

スプーンを打楽器として用いる文化は他にもあり、特にアイルランドの伝統音楽で有名ですが、フィンランドにあっては、ロシアから持ち込まれた文化でした。

[アイルランドのスプーンズ]

[ロシア流のスプーンズ]

ロシア流では、多くて5つ、一般的には2つか3つのスプーンを用いて演奏します。

ヴェイッコは最初、金属製のスプーンで演奏していましたが、仲間からもっと柔らかい音を求められたため、木製のスプーンに替えたそうです。

ヴェイッコの演奏するスプーンズはリズムが正確で、演奏されている曲を繊細に解釈し、寄り添う才能がありました。

曲を解釈し、そのメロディに寄り添う才能が重視される、という点においては、アイルランドの伝統音楽で伴奏者に求められる「Following the tune」の精神に通じるものがありますね。

スプーンズの奏者としてよく知られるようになったヴェイッコは、より演奏に向いたスプーンの開発や製作を行い、若い世代へ、その演奏方法を広めることにも尽力しました。カウスティネン民俗音楽祭でも、お馴染みの顔だったそうです。

そんなヴェイッコですが、2021年7月8日、8月にイルマヨキで開催される予定の南オストロボスニア競技大会への参加を目前にしながら、リエトLietoの自宅で、突然ではありながらも、穏やかに、91年の生涯を閉じました。

私自身、彼の演奏を直接目にしたことはありませんが、パンデミックの影響で、カウスティネン民俗音楽祭がオンラインでも開催されることになり、数々の動画が遺されたことは、ある意味幸運なことかもしれません。

車椅子に座り、若い世代の音楽家たちとアイコンタクトを取りながら、微笑を浮かべ、軽快なリズムを刻む姿とその音楽を、ぜひお楽しみください。

心からお悔やみを申し上げます。そして、天国でも末永く、お仲間と楽しく音楽を続けていかれることを願っています。

(注: よく名前が出てくるアンッティ・パーラネンAntti Paalanenは、同じくペリマンニであり、1989年から96年にかけ、フィンランド・ペリマンニ選手権The Finnish pelimanni championship ダイアトニック・アコーディオン( https://shop.taniguchi-gakki.jp/products/list.php?category_id=26 )部門において、4度の優勝を飾り、1999年にオーストリアで開催されたダイアトニック・アコーディオン世界選手権The diatonic accordion world championshipsで2位入賞を果たした人物です。)

(了)

参考資料:

Uudet mestarit valittu, Hannu Sahalle festivaaliplaketti
10.07.2017

Antti Paalanen BIOGRAPHY

https://www.anttipaalanen.com/21

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