『よい移民』が突きつけるもの
よい移民
『よい移民』とは
Amazonの履歴を見ると2019年の年末に買ったまま、最初の数ページを読んだきり「積ん読」になっていた『よい移民』を読んだ。
イギリスで2016年に出版され2019年夏に日本語訳が発売された、イギリスに住む21人の有色人種の『普遍的な経験』を集めたエッセイ集だ。
もう少し内容について本書からいくつか引用をしながら補足する。
「編者まえがき」のなかで、イギリスでは「普遍的な経験」は白人の経験をさし、有色人(Peopleオブカラー)は「やることなすことすべてに人種が関わる」という。
「有色の人種であるとはどういうことなのか、その実情を伝える本をつくらねばならないと感じ」たという。
そして本書に集まったのは、普遍的な経験は白人のものとされているイギリスに住む移民(とその子孫)の21人の「普遍的な経験」が書かれている。
登場するは、アフリカ・中東・アジアをルーツにもつ「イギリス人」である。(BAME=Black,Asian,Minority Ethnicの頭文字)
「編者まえがき」は以下のように締めくくられている。
月並みの感想
書評・レビューについてはAmazonのカスタマーレビューやインターネットの記事にゆずる。
というのも、僕自身は日本人として生まれ日本以外での生活をしたことがないこと、またこれまでの生活においても外国人と関わる経験は限られていた。あわせて「移民」に関して体系的な知識もないため、この本を一読して浮かぶ言葉といえばAmazonのカスタマーレビューにあるようなものになってしまう。
話しは逸れるが日本における「移民問題」をについて考えるあたっては、本書と同じく2019年に出版された「ふたつの日本 「移民国家」の建前と現実」が助けになるだろう。
著者が以下に書くように日本の過去からの文脈、データを示しながら全体像の把握したのち「外国人労働者」の受け入れに関して掘り下げていく。
しかし、『よい 移民」ではデータや文脈の提示ではなく21人の体験が提示される。そのためこれをもって「問題」として考えたり、安易に自身に照らし合わせて考えようとすると、本書の"凄み"を正しく捉えることはできない。
発売までの経緯や背景
「移民」に関する本は売れない▶クラウドファンディング
本書で描かれている内容に共感できる体験がない者や、知識を有していない者の理解の助けなるのは、本書の発売までの経緯を知ることだ。
「訳者あとがき」に詳細があるが、この本が発売されるまでの経緯や発売時期の社会的背景は知っておきたい。
「アジア系」イギリス人作家のニケシュ・シュクラはこれまでの自身の行動・成果などはイギリス社会では「有色人」であるという人種に還元されて考えられてしまうという経験をしてきた。
そうした自身と同じような経験をした人たちの「普遍的な経験」を本にしたいと考えた。
しかし「移民」や「人種」に関する本は大手では「売れ筋ではない」と敬遠されるという。
そこで2015年シュクラが本書の企画を持ち込んだは気鋭の出版社で、企画を発売前にウェブサイトに公開し、クラウドファンディングなどの手法を使って出版費用を集めて出版をしている。そして、本書も同様に企画が公開されると3日で目標額に達したという。(クラウドファンディング成功のうえらには「ハリーポッター」のJ・K・ローリングの後押しがある)
ブレグジット
またそうして出版された本が話題になったのは、2016年の「ブレグジット」もあるという。
「ブレグジット」の争点は増え続けていた「移民」であった。多くの移民がイギリスに流入していた時期で、外国人に対する排斥や嫌悪が噴出していた。そうたい状況に「うんざり」していた読者層に響いたという。
「時事問題・議論・包括」ということで語られるのはなく、人生そのものである
本書が突きつけるもの
上記の背景をもって話題となった本であるため、読者としては描かれる内容を「日本では知らなかった問題」として受け止めるだろう。
また2022年の現在においては、アジア人へのヘイト、コロナ後の世界、ウク
ライナでの戦争などに結びつけて「問題」を考えるだろう。
一方で、そうした態度に本書は至るところで「人生」を突きつける。
安易に「自分ごと化」させない
本書が読み物として優れている点は、こうした描写から読者が「問題」を安易に「自分自身の問題」に置き換えようさせない点である。
本書では21人が「問題を提起」しているのではなく「普遍的な経験」と「議論ではなく人生」を提示することで、読者が「問題」として処理することを拒んでいるのだ。
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