就職先としての公務員

はじめに

 この記事では私の職種を就職先として見たときにどのような特性を持っているかについて書きます。
 この職種は国家や県庁だけでなく、市町村や特別区、国家専門職などがあります。行政以外にも、立法府の衆参議員事務局職員や司法府の裁判所職員もあります。技術職などもありますが、ここではいわゆる一般職(事務職)について書きます。
あらかじめ断っておくと、私の職種を具体的に書くつもりはありません。

 私の周りではこの職種になっておきながら、職種の特性を理解していないために、「仕事にモチベが持てない」といった類の愚痴をこぼしながら仕事をしている人もいます。これはベテラン職員でも新採用職員でも言えることで、私はいつも「なぜ就職活動の時点で気づかなかったのか」とか思います。この職種は転職が難しい(らしい)ですが、ならば最初からどういった職種なのか理解してから就職するべきです。けれども、そうできないのは、就活生に対して、職種の正確な情報が伝わっていないからでしょう。
 私自身も、学生時代には就職説明会に足を運びました。最初から、説明会では当たり障りのないことしか聞くことができないと思っていました。だから私は現在の職種に対して、期待していたのはワークライフバランスを確保できることのみでした。
 しかし実際に就職してみると、やはり学生の志望意欲を減少させるような情報は説明会では得られないのだと思うことはあります。部署によってはワークライフバランスなんて二の次ということもあります。業務説明会等で得られるこの職種のメリットに対して、ペイできないようなデメリットがあります。また、説明会で実際にお話しをする担当職員にも色々と都合があることも知りました。
 そこで、一公僕である私が実情を説明することで、学生諸君の一助になると思いました。
 あらかじめ断っておきますが、私自身の職種はわからないように書きますし、国家公務員法99条に抵触するようなことも書きません。そうは言っても、現職の方が見れば、あどのような仕事をしているのかある程度察しがつく思いますが。

就職先としての公務員の利点

・公益のために働くことができる
 この職種での仕事は「国民のために働く」ことです。例えば、民間企業は基本的には利益が出ないとわかればそのサービスを世の中に提供しません(NPOとか社会派企業はともかくとして)。会社の利益を増加させることが会社員には求められます。
 ですが、この職種は経費は税金から出ていますから、国民にとって必要なことが制度として存在している限り、そのサービスを国民へ提供できます。普通であれば「そんなこと1円にもならないからやらないよ」などと言われるようなことでもできます。これは、時に職員の業務効率に悪影響を及ぼすこともありますが、それについてはデメリットの項目で書きます。
 所属する組織や部署の役割や必要な知識、職員としての経験を積んでいくと利用者にとってどういったサービスが適しているかとか、自分が何をすればその人のためになるのかとか考えて仕事をできるようになります。中立の立場である公僕であるため、できないことや与えるべきでない情報などもありますが、その中で上手く国民とお話をして、良い方向に進めていけるようになると「誰かの助けになる仕事をしている」と実感できること増えます。
 このような観点で自分の仕事に意義を見出していけることがこの職種の最大の利点です。月並みなことですが、少なくともまともに職務に取り組み、前向きに働いていれば「自分が公益のために働いている」と実感できます。
 対内的な部署であったり、国民の関心が薄い内容に関する仕事をする部署であったりすると、こういったことは実感できないこともありますが。

・ワークライフバランスを確保できる
  これはどの組織に属するか(つまり、国や県や市区町村など)によって、又はどの部署に属するかによって変わってきますが、おおむねワークライフバランスを確保することができます。特に新卒から数年間は定時になれば帰ろうと思えば帰る頃が容易です。総合職だとまた変わってくると思いますが、一般職と総合職では性質が違いますので・・・。まあ一般職であっても、管理職になって出世をしていくとワークライフバランスなんて望めないのですが。そういうのが嫌であればヒラ職員のままでいるのもいいかもしれません(組織からは歓迎されないでしょうが)。実際にこの職種で働いていると、管理職をやりたがらない職員はそこそこいます。
 組織や部署によっては、繁忙期があるので時期によっては残業を余儀なくされることも珍しくはないです。また、直属の上司が定時に帰らせてくれない(レアなケースではあるが)場合には定時以降に様子を伺いながら帰宅することになるというのも無くはないです。
 しかし概ね定時で帰れます。もし新卒~5年目で定時に帰れないのであれば、余程多忙な部署に配属されていない限り、少し工夫した方が良いです。
 世の中には定時に帰る方法というものがあるのでそれを参考にすれば、この職種ではほぼほぼ定時帰宅はできます。

・給与の安定性
 これはコロナ流行で顕著になった利点ですね。下手に民間企業に行くよりも、この職種になれば生活に悪影響が出るほど給料が減らされることはないです。コロナで民間企業がボーナス無しとか言ってる時期に、ボーナス支給だけでなく普通に昇給してましたからね。でもピークを過ぎたころに支援金とかいって給料から引かれることはあります。東日本大震災の時はそうでした。

就職先としての公務員の欠点

・非効率に付き合わされる
 この職種は民間企業が持っている利潤最大化とか費用最小化とか、そういった原理が働かないです。でもこの仕事は正確性とか公平性とかを担保するために、内容を精査して内部で話し合いをして検討する必要があります。これ自体は非常に重要です。ただでさえ国民様の血税で食べている身ですから、国民様にご迷惑をかけることは許されません。間違っていたのでキャッシュバックとかサービス券あげますとか、そんなことはできないですから。
 でも、そのための「正確性を担保するための事務処理」を隠れ蓑にして、原理原則を辿っていくと全くの無駄ともいえる仕事をしている場面があります。
 そういった場合に、私も「これって○○という点で無意味であり、非効率だからやる意味ありませんよね?」とか、若い頃は言ったりしました。でも、直属の上司はその非効率に気づいていたのか、「それはどうだけど、今までそうやってきたから、そのままでいいよ」という反応です。
 なぜこうなるかというと、この職種は正確性や公平性を担保する必要がありますが、「どうすれば適正な事務処理ができるかなんて毎回考えるより前例に従えば概ね間違いはない」と考えがちだからなんですね。
 まあ、それなりの正当性があって行われている慣習もあります。それは継続すべきでしょう。でも、時代の流れに沿って不要になるものもあります。
 ですが、その事務処理の持つ意味も考えずにただ盲目に前例に従った前任者がいると、その無駄で非効率な事務処理に後任者が付き合わされることはあります。これは意外と多いです。
 こういったことを許せずに、一々上司とバトルするような方にはこの職種は向いていません。
 もちろんある程度出世したいのであれば、こういった非効率に気づいている必要はあるでしょうけど、そこそこ偉くなるまでは文句を言ったりはなかなかできないです。だから、非効率に気づいても平気でいられる無責任さか、又はそれを我慢する胆力が必要です。こういうとき、二重思考ができるときっと役に立つでしょう。
 これは逆に利用することもできます。ずっとヒラ職員のままでいるのであれば、むしろ盲目的に前例に従っていればほとんど頭を使わなくても定年まで勤め上げることができます。多分、若者から見たら相当「つまらない大人」に見えると思いますが、割り切れば楽に生きていけます。私は嫌ですけどね。
 余談ですが、この職種は管理職になると残業代がでなくなる場合があるので、非効率で仕事ができなくて業務時間内に終わらずに残業するヒラ職員の方が、仕事が多くて業務時間内に終わらずに残業する管理職より給料が高いなんてこともあります。仕事ができなくて上昇志向がない方がこの職種においては得ってわけですね。

・イマイチ仕事が出来ない上司のケツ拭きをさせられる・能力があるほど損をする 
 使えない上司というのは民間企業にもいると思いますが、この職種は特異なものがあると思います。というのも、一時期は公務員になりやすい時期というのがありました。今現在、採用されるとそういった時期に採用された職員がちょうど上司やベテラン職員になっていることがあります。
 組織で揉まれて最低限の能力が身についている方が多いですが、それでも「こんなんでよく採用試験に通ったな」という職員はいます。そういう職員が上司にいると悲惨です。
 私は採用から数年でこういった上司に当たりました。毎日ひたすらその職員のケツ拭きをしつつ、自分の職務もこなさなければならず、仕事に行きたくなくなりました。その後も他部署との連携時に、「あ、この人はダメだな」という職員をちらほら見かけます。
 こういった職員を内包しながらも部署が機能しているのは、その部署の誰かがその人の分まで働いているからだと知りました。そして、能力があるほどその役割を担うことになると知りました。仕事を要領よくこなして、自分なりの効率化ができるとひたすら仕事が増えていきます。でも、ケツを拭いてもらっている上司が、そんな尽力者よりも高い給料を貰っていることは珍しくありません。能力があるために損をするわけです。しかも、この職種は能力があっても、ゆっくりと昇進するしかないので、最終的に大出世をするとしても、しばらくの間は損をし続けることになります。これは離職率が高まっていることの原因の一つだと思います。
 この職種はただ使えない、仕事ができないというだけで損をすることはありません。大きな過誤を起こすと懲戒とか謹慎処分が下されて、減給になったりすることはありますが、それも滅多にないです。実力主義で給料を決めるべきという風潮は民間企業では高まっていくでしょうが、この職種でそれが実現されることはないと思います。あるとしても民間企業に続く形で実現するでしょうから、恐らく相当先のことでしょう。

・将来的には人員が不足して一人当たりの事務量が増加する(主に男)
 最初に断っておきたいが、決して性差別的な意図をもって記事を書いてはいない。ただ事実を書いているだけであるということをご理解いただきたい。
 予備校で公務員試験勉強をしていると、講師のレジュメにデータが出てきたりしますが、この職種の職員は削減するという方向性になっています。
 新自由主義(ネオリベ)的な思想が国民(とりわけ現与党支持者)に浸透しているのか、この職種の職員は減っていきます。この流れは変わらず、しばらくの間、当局は職員を削減し続けるだろうというのが現職員の認識です。
 新自由主義(ネオリベ)によって民間委託を進めるとしても、公務として行うべき仕事は消えません。そういった仕事が減らず、むしろ増えているとしてもこの流れに沿って職員は減り続けるでしょう。良くて人数据え置きで、最悪、仕事は増えるが人員は減るという状態です。しかも(決して育休制度を批判する意図は全くないが)育児休業制度などは一丁前に充実させるのでさらに人員は足りなくなるということもあり得ます。。
 現代では、今までは公務として行われてきた職務が民間へ委託されるようになってきましたが、どうしても委託できない仕事はあります。
 ここで、当局としてどうしたいかという点から考えると、当局は「政治的な判断に逆らわず職員数は減らしたいが、適正な事務処理のために減らせない事務処理はあるのでどうにか処理してほしい。さらに、昨今の育児問題もあるから育休は十分に確保したい。それに、女性の社会進出を後押しする姿勢も見せたい。」といったところだと私は考えています。。
 つまり、仕事が減る保証はないのに職員は減り続ける上、育児休暇の実績は出したいからその分独身の職員が働けということですね。
 こんな激務を強いられるのはキャリア官僚だけだろうと思うかもしれませんが、部署によっては一般職採用であっても長時間残業を強いられます。問題にならないのは、残業の上限を超えないようにサビ残をしたり、休日出勤をしていて、残業として報告されていないからです。

総括

 以上が就職先としての公務員の利点と欠点です。もっと書きたいこともありますが、この辺にしておきます。
 この職種を選ぶ上で重要になるのは、欠点として挙げた事項をもってしても、利点で上げた給与や雇用の安定性の高さがペイできると思えるかどうかでしょう。これを考える際は、勤続年数を重ねたり管理職になると欠点が次第に重くなることを考慮すべきです。
 この先、優秀な学生ほどこの職種を敬遠するようになると思います。これは最高学府の新卒が官僚を目指さなくなっていることからもわかるでしょう。
 人が足りないなかで、安定はしているものの決して高くない給料で、勤続年数が増す毎に仕事量は増えていきます。職員数は減るのに組織の人事は優秀な学生を選り好みできず、「採用後に上手く教育できるかどうか」という不確実な点で採用するしかないというのは、いくらOJTといえどこれは破綻しています。それで使えない職員がいれば、仕事ができる比較的優秀な職員が負担を被る。時には部署を超えて負担がやってくることもあります。それでも給料は仕事の量に従って増えるわけではないです。
 はっきりいって、この職種は労働者をなめています。能力主義のかけらもなく、ひたすら年長者に高い給料を支払っているだけです。真面目に頑張る人ほど、他の職員のエゴに押しつぶされていきます。そんな中では、上手く交渉したり、危険を回避していく能力がないと、最悪自殺することだってあります。建前で身を守りつつ、原理原則を使って同僚を責めたり、性根の腐った同僚の嘘を見破って濡れ衣を着せられるのを回避したりと、日常的に心理戦をしないと「定時に帰れて安定している公務員」にはなれません。これに成れずに、同僚に嫌がらせみたいな仕事(もちろん原理原則による、後に責任を問われないような)をさせられてPTSDになる職員もいます。
 それでもやっていけると思うのであれば、予備校に通って試験勉強をして、頑張って就職してください。
 運が良ければワークライフバランスを確保できる暇な部署に配属されることもあるし、負担を押し付ける側になったりしてのらりくらりと定年まで勤めることもできますから。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?