4月:季節を巡らせる妖 wrote by @mt2_omochi
季節が巡るのは自然の摂理であるが、
風都町には土地神よりチカラを与えられ、
季節を調停する役割を持つ妖の兄弟がいる。
「さてさて、今年もいっちょ、
あっと言わせてやりますか!」
──春を司る妖が
町に春の風を巡らせていく話。
■花信(カシン):春を呼ぶ妖
(春の風「花信風」より)
■朔(サク):冬を呼ぶ妖(冬の風「朔風」より)
□OL1,2
□学生(男女問わず)
□ニュースキャスター(男女問わず)
□母と娘
【北区:遊山】
朔
──ぃ、おい、起きろ──
花信
んんー、あと5分……。
朔
──起きろ、この寝坊助が!
花信
いったぁ!? なんだなんだ!!
朔
おら、さっさとシャキッとしろ。
季節交代の時間だぞ。
花信
なんだよ朔兄ぃかよ~。
もっと優しく起こしてって毎年……、
え、朔兄ぃ、なんでそんなにボロボロなんだよ!?
だ、誰にやられたんだ!
朔
あー、いや、大したことじゃない。
冬の間に色々あったんだ、気にすんな。
花信
いろいろって……。
朔
気にするくらいならさっさと交代してくれ。
俺はもうねむいんだ……。
花信
わ、分かった。
今日からは俺が風都町を見て回るから、朔兄ぃはゆっくり休んでくれ!
朔
ふ、年々頼りがいのある男になるな。
……後は頼んだぞ、兄弟。
花信
ああ、任せてくれ兄弟!
……。
さて、そんじゃあいっちょ、春を届けに行きますかっと!
△風の音
【東区:繁華街】
花信
うーん、気分がいい。
風になるのも爽快で、なにより便利なんだが、やはり己の足で地を踏みしめるというのがいいな。
それにしても、さっきの露店は興味深かったなあ……!
ここはいつ来ても人が多いし、毎年新しい店が出来てて飽きない。
でも、ここには緑が少ない。
俺が出来る仕事は少ないんだよなあ。
……、お? なんだ、花壇ができてら。
へえ、時ツ風のチビたちが育ててる花壇ねえ。
ほれ、せっかく可愛がってもらってんだろう?
俺のチカラもやるから、キレイに咲けよ!
△温かみのある効果音
花信
よしよし、こんなもんだろ。
あんまり与えすぎても毒だからな。
さて、東区は大体みて回ったし、次に行くとするか!
△風の音
OL1
きゃ! 今のすごい風だったねえ。
OL2
これが春一番ってやつなのかしら……?
【南区:時ツ風学院】
花信
そのまま学院まで来てみたはいいが、まだ入学式ってやつの前だったか。
だーれもいないんだもんなあ、つまらん!
おっと、なんだ誰かいるじゃないか。
こんなところで何してるんだ?
花信
ほーん。
さては、受験とかいうのに向けて早くから勉強しているんだな?
うんうん、感心、感心。
勉学に励む優秀なキミには、サクラサクためのチカラをやろう。
ははっ、何事も捉え方次第だからな。
キミの今後が華やかに彩られるように……。
△温かみのある音
花信
よし、ここも異常なしっと。
次に行くとするかあ。
△風の音
学生
うわ、風つよ……。
まったく……あれ、窓閉まってる……?
【西区:科戸時計台】
花信
うーん、遊山(ゆさん)からの眺めも最高だが、この時計塔から通りを見下ろすのも気分がいい。
あの桜が満開になったのを、ここから見下げて飲む酒が美味いんだよなあ。
ん? あのやけに存在感のある猫は……。
げえっ! 化け猫の神様じゃねえか!
しかもこっちに向かってきてやがる……。
気づかれてない内に退散退散!
△風の音
花信
上手く撒けたか?
うし、どうせだし、このまま雄風神社(ゆうふうじんじゃ)まで向かってみるか。
△風の音
花信
……、ここの空気はいつでも気持ちがいいもんだ。
風が上手く抜けるよう作られているから、悪しき気配が残らない。
いつでも神聖な空間を保っている。
あの猫とここの神から寵を受ける存在であれば、息苦しさを感じることなどまずないだろう……。
問題なさそうだが、せっかくだ。
俺のチカラも少しだけ残していこう。
△温かみのある音
花信
よっし! 町内、特に異常なし!
そしたら、いっかい祠に帰るとするかねえ。
……今年も、いい春になりそうだ。
【東区:桜の広場】
ニュースキャスター
続いてのニュースです。
今年も科戸大通りの桜が満開を迎え、多くの人々の目を楽しませています──。
娘
おかあさん、みてみて!
さくら、きれいだよー!
母
ああ、こらこら、走らないの!
……それにしても、本当に綺麗ねえ。
花信
──ああ、そうだろう。
今年も俺が手塩にかけて育てたからな!
まあ、こいつは元々のパワーが桁違いなのもあるが……。
花信
……、いい眺めだ。
これを兄弟と一緒に眺められないのが、心残りだが。
まあいい。
永く生きてりゃ、驚きの展開だってひとつふたつあるだろうさ。
まずは、夏に手綱を渡すまで、春の刻(とき)を見守るとするかねえ。
関連台本
12月:四季果ツル月 wrote by @mt2_omochi|おもち|note(ノート)
5月:とある猫の悠々散歩 wrote by @ChiiTaKap|おもち|note(ノート)
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