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5月:とある猫の悠々散歩 wrote by @ChiiTaKap


客人たちよ、風都町を楽しめ。
僭越ながら、ガイドは吾輩が努めよう。

■猫:風都町の土地神。
■先代:猫の飼い主。風都町先代の土地神。
□女子高生:女子高生。
□おじさん:東区の老舗定食屋の三代目。
□おばさん:老舗定食屋の名物おばさん。
■黒猫:西区周辺を縄張りにしてる野良猫。
■白猫:西区の名家に飼われている血統書付きの猫。
□巫女:代替わりしたばかりの新米。
□妖1,2,3:八十八夜に現れる霜の妖怪。

回想シーン(遊山)
先代:風都はいい土地だ
猫:にゃあ
先代:子どもたちに、私はなにか残せるのだろうか
猫:にゃあ
先代:そうか、風都にはお前がいてくれるか
猫:にゃあ!
先代:可愛い我が子よ、私に残る最期の力。お前に託そう
猫:にゃあ?
先代:ふふふ……頼んだよ、凪
猫:にゃあ?
先代:……
猫:にゃあ……にゃあ!!

回想シーン(昔の北区)
猫:吾輩は猫である。名前は誰も知らない
猫:吾輩の朝は早い。日も登りきらぬ内から、町へ出向くのだ
妖1:ウオオオ……
猫:今朝も湧いておる。風が冷たいのお
妖2:ヒュオオオ
猫:どれ、飯の種がとれなくなるのは困るのでな
妖3:ウオオオ!
猫:今宵は八十八夜。別れ霜と参ろうか

7時頃(南区:登校路)
猫:時は移りゆく
猫:五つの月の恒例行事もなくなり、平和な世の中だ
女子高生:あ、猫ちゃんだ
猫:にゃあ
女子高生:可愛い!!
猫:吾輩も丸くなったものだ。昔であれば、このような娘っ子に撫でさせることなどなかったというのに
女子高生:人懐っこいね
猫:あ、そこいい
女子高生:うりうり、気持ちいいの?
猫:ふにゃあぁ
猫:あやつらが言っていた、天にも上る心地とはこのことか!
女子高生:あ、ヤバイ遅刻しちゃう!またね、猫ちゃん
猫:ふにゃ?
猫:ふう、最近の娘っ子は手練よのう
猫:さて、飯でもタカリに行くか

9時頃(東区:駅前通り)
おばさん:あら、タマちゃん!今日も来てくれたの
猫:タマではないが、来てやったぞ
おばさん:アンタ!タマちゃんのご飯!
おじさん:あいよ
おばさん:ちょーっと待っててね
猫:焦らずともよいぞ
おじさん:ほらよ
おばさん:東区の招き猫だからね、タマちゃんは。ゴールデンウィークもお陰様だったから、今日は特別よ
猫:マグロが入っているではないか!
猫:景気がよくて何よりだ!いただきます!
おじさん:今年も何事もなく、過ごせますように……
おばさん:お願いね、タマちゃん……
猫:ぷはー!願いは聞き入れたぞ、二人とも
猫:安心せよ。吾輩が風都にいる限り、何事も起こさせぬ
猫:主との約束だからの
おばさん:今日もいい食べっぷり。幸先が良さそうだね!
おじさん:そうだな
猫:にゃん!

13時頃(西区:科戸大通り)
猫:バカ共はどこにおるかな?
黒猫:先輩!先輩、こっちです!
猫:おお、黒助そこにおったか
黒猫:先輩、黒助はやめてくださいって何回言わせるんですか
猫:すまんな。して、なんといったか?
黒猫:プリンですよ!
猫:何度聞いても似合わぬ名よの。黒助に改名せい
白猫:あら、長老来てらしたんですか
猫:今日も綺麗だの、白玉
白猫:ありがとうございます
猫:それにしても、西区は相も変わらず盛況しておるな
黒猫:そりゃあ、風都町の観光名所ですからね!
猫:ごーるでんうぃーくとやらの影響か、いつにもまして人が多いのう
白猫:ええ、触られ続けてそろそろ嫌になってきましたわ
黒猫:まあな
猫:ここは落ち着かんな。場所を変えよう
白猫:はい
黒猫:どこに行くんですか?
猫:決まっておろう。始まりの桜だ

(西区:科戸時計台)
白猫:時計台は落ち着きますね
黒猫:そうだな〜
猫:風都の中でも、ここは特別だからの
白猫:そうなんですか?
猫:主が植えた桜だ。ここには悪いものも寄り付かぬ
黒猫:そういえば、先輩がいつも話してる主って、どこにいるんですか?
猫:主はもうおらぬ。この町に名前が付けられた頃だったかの、主が眠りについたのは
白猫:プリン!
黒猫:そうだったんですね、スミマセン!
猫:よい、昔のことだ。それに主の姿はなくなってしまったが、吾輩の中に主は生き続けておる
白猫:長老……
黒猫:先輩……
猫:湿っぽくなってしまったな、吾輩も歳をとったものよ
時計塔が17時の鐘を鳴らす
黒猫:この音は……
猫:もうこんな時間か。吾輩はそろそろ遊山に帰るとしよう
黒猫:あ、はい!お疲れ様です
白猫:お気をつけて
猫:お主らもな

18時頃(北区:遊山)
猫:平和だ……
猫:主よ、風都は平和です
猫:貴方様が愛した風都を、吾輩は守れているでしょうか?
猫:貴方様がいらっしゃらぬ風都は、吾輩には少し寂しいです
猫:主……
猫:にゃあ……

夢の中
先代:なんだ、寂しいのか?
猫:にゃあ
先代:お前は本当に寂しがりやだな
猫:にゃあ
先代:私はいつまでも、お前と共にある
先代:お前の中に、私は在り続けるよ
先代:凪……

5時頃(北区:遊山)
巫女:神様、神様?
猫:ふわあ。なんだ、お主か
巫女:お主か、じゃないですよ。掃除したいんで、どいてもらえますか
猫:ここが一番温いのだ
巫女:ちょっと、丸まらないでくださいよ
猫:どいてほしければ、鰹節を供えるのだな
巫女:もう、ワガママ猫め
猫:神に向かって、なんという口の聞き方。これは、先代の小百合に言いつけねばの
巫女:あーあー!お母さんには言わないで!
猫:お主の心がけ次第よの
巫女:はぁ……放課後まで待っててくださいね
猫:仕方ないのう。吾輩が戻るまでに用意しておくのだぞ
巫女:はいはい、行ってらっしゃいませ
猫:うむ

11時頃(東区:シャッター街)
観光客:うーん、あれ?ここ、どこだろう……
猫:にゃん
猫:道に迷ってしまったのか
観光客:あ、猫ちゃんだ。ねえ、科戸大通りってどこにあるか、猫ちゃん知ってる?
猫:にゃあ
観光客:って無理だよね……はぁ、どうしよう
猫:にゃあ
観光客:どうしたの、猫ちゃん
猫:にゃあ!
観光客:もしかして、ついてこいって言ってるのかな
猫:にゃあ
観光客:……悩んでても仕方ないよね。猫ちゃん、信じます!
猫:見過ごすわけにはいかぬからな
猫:客人よ、風都を楽しめ
猫:この町を守るのが吾輩の使命
猫:僭越ながら、ガイドは吾輩が務めよう

関連台本

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