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建築物省エネ法をなぜ急がなねばならないのか(1)

署名活動実施中。署名はこちらのアドレスから。https://chng.it/PsR8jvqwft

今国会に提出される予定で準備されていた法案が「検討中」になってしまった。これは結構な問題だと思う。日本の脱炭素の本気度が透けて見えてしまうからである。「実際、やるやるって言っても、やる気ないんじゃない」というレベル。色々なところにヒヤリングをすると秋の臨時国会に出し、決めたロードマップ通りには進みます。という答えが返ってくるが、本当にそんなにのんびりしていていいの?というのが、筆者の実感である。


 地球温暖化に向けて、2020年11月に「2050年までに脱炭素社会の実現」が発表された。これはそれまでの低炭素社会よりもさらに踏み込んだ表現である。アメリカではバイデンが当選し、脱炭素を宣言する前だったので、先進国日本としてはなんとか格好がついた感じである。アメリカに言われてから、初めてやるということで本当に良かったと思う。

低炭素社会では、二酸化炭素の削減は80%だったので、それを100%にするというのだから、大変意欲的な目標だ。そのための中間目標は2030年 26%削減としたものが、2021年4月にこの目標が2030年に46%削減に引き上げられた。これに対して、それをさらに50%に引き上げるという政府の方針も付け加えた。この基本方針を受けて、国のエネルギー基本計画が更新される。エネルギー基本計画を立てるのは経産省。所轄は資源エネルギー庁である。

全体が26%から46%に引き上げられたので、様々な産業の分野で、それぞれがどのくらいの目標で下げるかも引き上げられた。筆者の関わる住宅・建築(削減の分野別には業務という、用語が違うだけ)の分野は、なんと目標が40%削減から66%削減に引き上げられた。

 一方、建築を所管する国交省は今まで、温暖化に積極的にコミットすることはなかったように見えたが、再エネタスクフォース(再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース)で問題を指摘、国交省、経産省、環境省の3省が合同で参画するあり方検討会(脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会)をへて、建築の省エネルギーに対して大きく方向転換を図り、今国会の法案にするべく、多大な努力をしてきたところである。この法案は建築の省エネルギーばかりではなく、脱炭素に向け効果の高い木材の利用を促すもので、非常に積極的な法案である。ただ、実際の目標の設定は新築の戸建て建物の省エネの義務化を2025年に行い、2030年までにZEHレベル(建物の省エネルギー性能を2025年の義務化水準のの20%削減。※1)を義務付け、太陽光発電を戸建ての新築の60%に載せるというものである。現行の全く義務化のない状態からは格段の進歩とは言えるが、同時並行で進められていた(だから仕方ないのだけれど)エネルギー基本計画とは、全く整合していない。2050年の目標に対してはロードマップが作られたことは評価するとして、中身はもっと前倒しにしなくてはならないものだらけなのである。国交省の案は、以前からの少しずつ積み上げるものからバックキャスティングする案に脱皮しつつあるが、まだ、2050年の脱炭素という前提にたったバックキャスティングというレベルでは不十分である。現実的にできる最大限と説明されたが、その話もわかる。そりゃそうだろう。でも、これをさらに引き上げる努力と議論が求められているのが、事実である。
※1
ロードマップの黄色いラインの最後に「遅くとも義務化基準をZEHレベル(強化外皮)基準&BEI=0.8に引き上げ」とある。これは、義務化基準よりも1ランク上の基準で断熱基準よりも20%削減のこと。この設定はユルイ。筆者は2030年にはこれを50%にして、全ての建物に太陽光発電を載せないといけない、すなわちリアルなゼロエネルギーハウスにすべきと主張した。それが世界標準である。

ロードマップはこちら。

これでは2030年に66%削減は無理なのです。

委員会に出てわかったことだが、それぞれはちゃんとやっていても、全体のギャップがあることはよくあることだ。でも、それを放置しないで調整することが、政府に求められていることである。「経産省と国交省は別組織ですから、ずれててもしょうがない」というのはうちわの事情であって、国としてはどうなっているのか、ちゃんとしなくてはいけない。そのためにはまずは、法案を成立させ、その先の議論をするべきなのである。


再エネタスクフォースというのは、規制点検のための会議で、会議自体がYouTubeに録画されている。第5回は建物の省エネルギー、脱炭素化に向けての規制についての回である。

現在、日本の建築が置かれている状況を東京大学の前真之さんが20分で解説している。ぜひこれを見られたい。36分ぐらいから見ていただければ、超圧縮型のこの問題に対する説明として最適な動画を見ることができる。

【LIVE配信】第5回 再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース

https://www.youtube.com/watch?v=3tsyOZo0upk

なんと異例の49000回以上(2022年1月23日現在)の再生である。

さて、なぜ建築の省エネが今求められるか簡単に解説しておこう。

簡単である。日本のエネルギーの3分の1は建築物で使われているからである。日本の温暖化対策はよくエネルギーを作る側で議論されるが、実は使う側での議論も重要だ。でも、それが省庁の縦割りにはまってしまい、あまりちゃんとなされていない。作る側だけではなく、使う側がどうやって減らしていくかを考えないと、今のままで脱炭素化をするのは、至難の業である。エネルギーを減らして、どうしても使うものを再生可能エネルギーにするというのが、基本的な方法だ。ましてや目標を引き上げ、実現可能かどうかということをやろうとしているのだから、できるだけいろんな分野(実はほとんど全ての分野)で進めていかなくてはならないのである。

そして、建物に関しての技術はほぼ確立されていて、あとはその情報をどう行き渡らせるか。どうやって、建物に関わる人の背中を押せるかというところまで来ているのだ。

再生可能エネルギーを増やすための洋上風力発電という技術は、2030年以降に実用化が考えられている。全体で2030年までに46%削減するという目標から見れば、実は間に合っていないのである。石炭火力の問題もそう。2050年に脱炭素ということは、天然ガスも石炭火力も使えない。というか、使わないということだ。それに向けて、使う側の省エネルギーへの意識を向けることが大事なのである。そのためにも、目玉法案としてぜひ取り上げて欲しいものだ。

公開取材も参考にどうぞ。
https://www.facebook.com/events/4632427180123272


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