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建築物省エネ法をなぜ急がねばならないのか(2) 住宅は今の技術でゼロエネルギーにできる。

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 脱炭素に向けて「建物のゼロエネルギー化はできる」のか、そんなことは夢のまた夢ではないかと言われるかもしれないが、結論から先に言おう。現代の技術でそういう家は費用は多少増えるが、確実に実現できるものである。

さて、その前にZEH(ゼッチ)と言われる建物の説明をしておく必要がある。ZEHはゼロエネルギーハウスの略である。Googleで検索すると、経産省のホームページでネットゼロエネルギーハウスと出てくる。(もともと、このゼッチということは経産省が作ったものだ。)このネットという意味は、作るエネルギーと使うエネルギーの量が同じということ。完全に電力会社からの電線を外してしまうオフグリッドではない。作った電気は自分で使い、余ったら売る。使う電気が足らない時は電力会社から買う。その電気のプラスマイナスがゼロになるものが、トータルでゼロになるという意味である。電線につながってやりとりがあるのがZEHである。ここでは、一つの家で使うエネルギーをできるだけ減らす。その上でエネルギーを作ることが求められる。家庭レベルでエネルギーを作ることができるのはほとんどの場合、太陽光発電なので、この家は太陽光発電をつけることになる。余った電気を売り、使う電気を買うことが前提となっているので、蓄電池に関しては、この時点では必要ない。また、省エネルギーには2種類あって、建物の断熱性能をあげる建物それ自体の省エネルギーと建物以外の家電などの電気製品を使う省エネルギーの2種類がある。建物それ自体の省エネルギーは建物が熱を逃がさないようにするための断熱性能が良くなれば良くなる程進む。ZEH(ゼッチ)が成立するには、建物の断熱性能をあげ、そこで使うエネルギーを減らし、家電などの使うエネルギーを減らし、太陽光発電などのエネルギーを作ることが必要だ。今までエネルギー関連だとして経産省が管轄していた。(建物のことでありながら、国交省ではなかったのである。)2020年3省合同の会議ののあり方検討会で調整を行った結果、国交省の省エネルギー基準の一つランクアップしたグレードをZEH基準(強化外皮基準)と呼ぶと決めた。その省エネ率は国交省の断熱基準の20%と定められている。その上で戸建ての60%の住戸に太陽光発電を導入すると方針を明確にした。国交省のいうZEH(レベル)の建物は、あくまで20%削減の断熱性能で、エネルギーがゼロではない家の可能性が出てくる。ややこしいのである。

経産省の今までのZEH=作るエネルギーと使うエネルギーが同じ建物
国交省のZEH基準=等級5=建物の省エネルギーレベルは2025年義務化基準
             の20%削減の建物の性能

 これから話すゼロエネルギーは、外皮の基準ではなく、リアルなバランスの話である。エネルギーの話とは別に「日本の家は寒い。」という問題がある。ヒートショックという言葉をご存知だろうか。入浴するために冬暖かいリビングから寒い洗面室で脱衣をする。その時に血圧が上がってしまう。さらに寒い浴室に入り、血圧の上昇が続く。最後に浴槽に入って、血圧が急降下、意識が混濁して溺死に至ったり、転倒したりする現象で年間19000人の人が亡くなっているというデータがある。そこまで極端でなくても、国交省の定める基準(等級4)だと、就寝時に暖房を切って翌朝の室温が10℃以下になってしまう。これらは住んでいる人の健康と大いに関係がある。建物の断熱性能を「等級6」まで上げていくと、翌朝の気温は13~15℃を下回らなくなり、家のどこの室温も一定になってくる。

ゼロエネルギーハウスを作る場合、省エネと創エネのバランスは家を作る人に委ねられている。断熱性能は低くても、大陽光発電をたくさん載せて、エネルギーをたくさん作る、あるいはできるだけ断熱性能をあげ省エネルギーを徹底させ、太陽光を少しだけ載せても良い。色々なやり方はあるが、コストパフォーマンス、住人の健康を考えていくと、下記のようなバランスが最適と思われる。

断熱性能 等級6+太陽光発電5kW  → 朝の温度が15℃。ヒートショックのリスクが低い。

あり方検討会では、等級6にするために等級4からの余計にかかる費用を70万円であることを示した。東京から九州までの6地域においては、等級4のサッシをアルミのペアガラスから、樹脂サッシのペアガラスに、断熱材の性能をあげるだけで実現できる。

現在、太陽光発電5kWは工事費込みで100万円~150万円程度である。合わせて、220万円。この金額は住宅をギリギリで建てる人から考えると大きい。ここに幾ばくかの国の支援、あるいは金融上の政策の変更などがあることが望ましい。

より良い快適性を求めるなら、等級7にして、太陽光発電を減らしていっても良い。また、これから先、自動車がEV(電気自動車)になるなら、そのバッテリーに充電をして暮らせばオフグリッドにすることも可能になる。

さて、以上は新築の戸建ての話だ。すでに建っている建物に関しても高断熱化して、エネルギーを減らす必要がある。また、既にあるマンションやアパートなどもどう断熱性能を上げていくかは国の大きな課題である。現在、議論がそこにあまり及んでいないというのが、実際のところだ。いろんな意味で、ここで立ち止まるべきではないのである。

家を高断熱高気密に改良していくことによって、脱炭素化における様々なリスクを減らせる。いくつか指摘しておきたい。

1)連携統合における系統の負荷が減らせる。
日本列島全体の高圧線網の話である。脱炭素化を進めるとエネルギーが電気に集中する。その結果、系統に負担が増え、そのための高圧線の敷設費が増えるが、住宅が自給に近い状態になれば、系統への負担が減る。そのための費用を住宅への支援に回すことができるようになる。

2)冬の夜のピークカットが期待できる。
現在、電力のピークは冬の夜だ。今年もさまざまな地域で電力が逼迫し、綱渡りの状態が続く。人が寒いと感じ、エアコンのスイッチを入れるとインバータ制御のため、瞬間的に電力需要が急増する。住宅の断熱性能が上がれば、寒くなる時とスイッチを入れる時期がずれるので、電力の逼迫が起きにくくなる。

3)災害などのレジリエンスが高くなる。
災害などでエネルギー供給がなくなった場合でも、温度が下がりにくい環境であることが求められる。避難所などは住宅ではないが、学校の体育館などでもこのように断熱性能を上げることが求められる。

4)国際安全保障
日本は化石燃料を世界中から集めている。今後、世界の情勢が変わっていく中で、輸送のリスクが高まる可能性がある。日本の3分の1のエネルギーを使っている建物の断熱性能を上げることでリスクを減らすことができる。

以上のことから、建物のゼロエネルギー化は現在の技術で可能だし、それを進める建築物省エネルギー法を改正していくことは温暖化対策に直結するのである。


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