10年前にラブドールを買った話

 ハルミデザインズのラブドールを買ってしまった。今思えば、なぜあんな不気味な人形を買ってしまったのかは判らない。
 あの時の自分はどうかしていた。生物としての一生に一度あるかないかの最大レベルの発情期だったのかもしれない。とにかくあの時の自分は買う事が正しいもの思い買ったのだ。
 コスプレ用の制服、ブルマ、スクール水着、ロングウィッグ、ショートウィッグ、下着類も買った。ドールと合わせて凡そ10万円の出費だったか…。しかしソックスを買うのは忘れてしまった。


問題なのは我家は家族三人暮らしにて、あまり大きい家でもないこと。
親が長期旅行に行っている間に注文し、押入れの奥に隠したはいいが、人間サイズなもので完全に隠しきれるものではない。積極的に押入れをあら捜しされたら、直ぐにバレてしまうだろう。

 とんだ恥をさらしうるリスクを背負った人生に突入してしまった。いつバレるか判らない不安な日々を過ごしながら、せめて買値の元を取らなければと、夜な夜な不気味な人形を愛撫してみる日々。


 気付けば何年か経ち、私はひょんな事から警察に逮捕される。押入れ等を家宅捜索されるが、その時、警察は見て見ぬ振りをしてくれたのか、それともギリギリのこところで見つからなかったのか判らないが、とにかくラブドールの件にはスルーし、私に手錠をかけ警察署に連れていった。(警察の一件は下らない誤解と勘違いなので詳しい事は割愛する。)
 私は2週間の取調べを受け、なんやかんやと釈放はされるのだが、その間わたしは押入れに隠されたラブドールがどうなったのか気が気ではなかった。長期の留守であり、親が部屋を調べてキモイ人形を発見するかもしれないのだから怖い怖い。
 こんなハラハラどきどきする羽目になるなら、さっさと処分しておけばと何度も考えたが、いざ元の生活に戻っても親は気付かなかったのか、見て見ぬ振りをしてくれたのか判らないが、いつもの日々に戻ってしまった。

 そんな折に経済的な問題で我一家は引っ越しすることに。これを機会に今度こそ処分しようと思ったものの、まだ元をとっている気がしなかった私はうっかり引っ越し先へと連れて行ってしまった。

 実はこの頃には妙な愛着が湧き、もはや捨てられなくなっていたのだ。長年、バレたくない恐怖感と共に過ごした吊橋効果的な作用かもしれない。とにかく不気味な人形を躊躇なく抱ける様になっていた。

 私はその後独立しつつ、引っ越す事になるが、忙しさもあり、ダッチワイフ(ラブドール)を連れて行くのを忘れていた。
 ダッチワイフを保管している部屋の鍵は掛かってはいないので、いつか親戚の誰かがあら捜しして見つける恐れがある。しかし取りに行くにも面倒な距離にて、私は一週間あれこれ悩み眠れぬ夜を過ごして結局、親族にバレる恐怖に打ち勝つ事が出来ずに取りに戻った。

 真夏の汗ばむ季節、実家に戻り、カツラさえ被っていないボーズ頭のダッチワイフを見るに、私はプロフェッショナルになっていたと気付く。なぜだか、ありに思えてしまう。

 危機意識を共に過ごした相手。吊橋効果が究極まで高まっていた。
 それなにり満足いくプレイができたと思う。

 とはいえ、まだまだ値段的に元がとれたとはいえない。
 発情期故か、やはり年に一回、あるかないか程度にしか用事はなく、本当に魔が差したときにしか世話になっていないからだ。
 基本的には妄想オナニーしている方が効率的である。よって元を取るには、あと20年くらい必要かもしれない。

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