沖縄県座間味島から世界へ

コロナの影響により、様々なスポーツの大会延期や中止が決まっている。
テレビや雑誌などの多くのメディアの目は延期された東京オリンピックに向き、スポーツ欄はオリンピック競技に選ばれているようなメジャースポーツのアスリートが占めている。一方で、メジャーの陰には必ずマイナーが存在する。
マイナーな競技で戦うアスリートは、今何を思うのか。

4月23日、スタンドアップパドルボードという競技で世界で活躍中の奥秋 李果(おくあき りか)選手に、今置かれている状況についてお訊きした。なお、このインタビューはオンライン上で行った。

2019年 ISA world SUP & Paddleboard championships 日本代表として出場した大会で 18kmロングディスタンス部門3位  5kmテクニカル部門3位の成績をおさめた。

ー清水ー
奥秋選手がやられているスタンドアップパドルボード(以下、SUP)は例年プロツアーなども開催されていますが、現在の試合状況はいかがでしょうか。

ー奥秋ー
SUPA(日本スタンドアップパドル協会)という団体が主催している国内大会は、3月初戦から6月末まで中止が決まっています。個人や地域で行っている小さな大会も現在は自粛ということで、開催は中止となっています。6月、7月にあったワールドツアーは中止になり、初戦は現在(4月23日)のところ7月に静岡で開催予定ですが、こちらも正直中止になるのではないか。といったところです。

ー清水ー
奥秋選手の昨年の国際大会の結果から、世界との差を縮めて来ているという実感があると思います。そのような状態での大会の中止について思うことはありますか?

ー奥秋ー
ワールドツアーは6月のフランス大会が初戦だったのですが、フランスでの感染者が増える報道をテレビや新聞で見て、色々な意味で不安でした。ヨーロッパは感染が拡大している地域でもあり、レースよりカラダが大事なのはもちろんなのですが、もし開催となった場合、私の性格上なんとしてでも出場してしまうと思うんですよね。アスリートはレースに出て結果を出すことが求められるので、大会がある以上はここまで支えてくれた人のことを思ったら、出場しないわけにはいかないと思います。ですので、大会が中止となると聞いた時、内心はほっとしました。自身の感染リスクもそうですが、感染が拡大している地域から自分がウィルスを持ってきてしまうリスクもあり、もしそうなってしまったら周りの人にさらなる迷惑をかけてしまいますから。

ー清水ー
様々な方に支えられているアスリートだからこそ、簡単に出場辞退はできない。そういった意味では主催者がアスリートの為を思い、中止にしたのは賢明な判断ですね。現在のモチベーションはなんでしょうか。

ー奥秋ー
現状は先が見えない状況で、大会に対してのモチベーションの維持が中々難しいです。それでも9月のツアー戦に関しては中止という発表は出ていないので。今はそこに向けて練習をしている状況ですね。今年はワールドツアーでランキングを上げていくことを目標にしていたので、その大会自体ができるかわからない状況に不安もありますが、その中でも将来に向けて希望を見つけてトレーニングをしています。

ー清水ー
頼もしい言葉ですね。トレーニングは今までと変わらずできているのでしょうか?

ー奥秋ー
定期的に練習会などを行っていたのですが中止になっています。海にいる時間が減った事によりSUPを漕ぐ時間は確実に減っているので、パフォーマンスが落ちている実感はあります。一人で海に入る場合、今までは他のメンバーと競うスピード練習などをしてきていましたがそれができない為、今はロングディスタンス(長い距離)の練習にシフトしています。この状況をプラスに捉え、今まで冬の時期に中々取り組めなかったフォーム(漕ぐ形を整える)練習を時間をかけてやっています。とにかく今はこれで良いんだと思うようにしています。考えすぎてもキリがないので、あまり(悪いことは)考えすぎないようにしていますね。

ー清水ー
奥秋選手のお話を聞いていると、とても前向きな姿勢というのが伺えます。

ー奥秋ー
はい。私は今のこのタイミニングを、逆にやりたいと思っていた事にチャレンジできるタイミングだと思っています。正直今まではトレーニングというと、カラダをとにかく動かすトレーニングばかりでした。今は頭を使うことをしています。自分のカラダを見つめ直すという意味で、体の仕組みや筋肉を教科書を見て勉強したり、ウクレレで指先の感覚を養ったり。新しい事を勉強し、取り入れることに対して楽しいという視点を持って取り組んでいます。

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世界で戦うアスリートとして座間味島の為にできること


マスクのワークショップの様子 ※緊急事態宣言が発令される以前に撮影

ー清水ー
座間味島での生活に変化はありますか?

ー奥秋ー
現在の不安はトレーニングというより、私たちが住む座間味島での感染拡大のリスクです。島も4月から、ホテルやダイビングショップなど、ほとんどのお店が営業を自粛しています。そのような中でもちょくちょく観光のお客さんが島を訪れているんです。400人ほどの小さな島で、1人で住んでいる人はほとんどいなく、場所によってはお風呂やキッチン、トイレが共用なので一度感染者が出てしまうと感染リスクは高いです。診療所は島に一つしかなく、しかも高齢者がとても多い島なのでそこも不安です。なので、島の人たちも今はなるべく沖縄本島には行かないようにしています。

ー清水ー
それは不安ですね。そのような状況で今奥秋さんができることってなんでしょうか。

ー奥秋ー
少しでも島の人たちの力になれたらと、今はマスクを作っています。島に元々住んでいる人はマスクをつける習慣がないんですよね。観光客が大量に買って行ってしまったというのもあるのですが、マスクをつけている人がほとんどいないんです。自分たちのペースを大事に、伸び伸び生活しているという意味では島の良いところでもあるのですが、少し危機感がないのかな?と思うところでもあります。

ー清水ー
私の祖母も人口300人くらいの島に住んでいるので、伸び伸びした雰囲気は想像できます。笑

ー奥秋ー
島のおじいちゃん、おばあちゃんはテレビを見ないんです。スマフォも持っていない。だから、なんで船が止まるのか。お客さんが少ないのか。ということなども知らなかったですし、実際に感染者が周りにいないのでコロナの怖さがわからないんだと思います。私1人の力でそういった人たちの意識を変えるのは難しいですね。ですが、今は感染者を絶対に出さないという思いで島全体が一つにまとまってきているとは思います。

ー清水ー
アスリートとして活動する上でお金は大事だと思いますが、収入面はどうなっているのでしょうか?

ー奥秋ー
現在はホテル、レストラン、マリンツアーが併設されている会社で、主にSUPやカヤックなどのガイドツアーとして働かせてもらっています。現状はお客さんがほとんど来なくなってしまっていますが、だからと言って何もしないというわけではなく、スタッフ同士でアイディアを出し合いながら今できる事や求められている事を考え提供しています。オンラインでの物品販売や、あとは島民の為に広島風のお好み焼きを作って販売しています。島では食べられるところがなく意外と好評です(笑)
また、アスリートの私にしかできないこととして、島の人の運動不足を解消できればと、ヨガと筋トレを複合させたエクササイズを提供できないか企画しています。カラダを動かすことは免疫力向上にもつながりますし、私自身の自己を見つめ直すタイミングという意味で、トレーニングなどで身に付けた知識や技術を少しでもアウトプットして周りの人に還元できればと思っています。

ー清水ー
最後に、インタビューを通しとても前向きな印象を受けました。その原動力とはなんでしょうか?

ー奥秋ー
正直、レースがなくなった当初はどうすればいいんだろう、という思いでした。本来は4月に東京に戻る予定だったのですが、それもなくなり・・・。でも、世界レベルの人のSNSを見ると、もっと厳しい状況の人はいるしまだ自分は自由にできている方だと思ったんです。だからこそできる事をやっていかないと。と思っています。
トレーニングという意味では、先ほども話していますが自分のカラダを見つめ直すいいきっかけになっていると思います。今まで以上に自分の体と対話できるタイミングですので、今が世界との差を縮める機会だとも思っています。

とにかく今は将来に対して、諦めないでできる事をやっています。どんな状況であったにせよ、いざ大会が再開し結果を求められたときに、その結果に対しての責任は自分にあります。なので、あの時期があったからこそ結果が出なかった。ダメになったと思いたくないし思われたくもない。逆に、あの時があって諦めず前を向き続けた事により結果が出た。という未来にしたい。

正直、アスリートとして1人でやっていたらこの状況に甘えてたかもしれないです。でも今は支えてくれる周りの人や島の人たちがいます。その人たちへの恩返しとして今できる事を続けています。

ヨガレッスンの様子

ーインタビューを終えてー
島の人の為にと企画していたヨガのレッスンが、5月よりスタートしたという。三密を避け、屋外で実施するヨガレッスンはとても気持ちの良いものになるであろう。
コロナだからと悲観したって何も始まらない。未来は決まっていないからこそ、将来後悔しないように今できることを全力でやろうとしている彼女の考え方は、アスリートのみならずこの時代を生きる全ての人に必要な考え方だと感じた。

奥秋選手のSNSはこちら↓↓↓

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