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ダブルデッカーのバチバチ

 (…)バスはけだるい午後を突っ切っていく。(…)毛をつけた魔法の杖のように、木の枝が屋根をかすめていく。ときどき、低く垂れている若葉と小枝の塊が近づいてくると、男の子は期待に胸を躍らせた。優しく、勝ち誇るようなバチバチという音がそれに続き、バスは——もし声があるなら——「俺は巨人なんだぞ」と叫ぶ。バス停の屋根には、瓶や折れた傘、つぶれたアルミ缶。それらはしかるべき墓地のない、さまよえる魂だった。(…)

「マレー素描集『子ども』」(アルフィアン・サアット)

  ダブルデッカーの2階に座ると時折聞こえるバチバチを捉えた、アルフィアン・サアットの秀逸な一編。


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