商業登記の内製化で考える専門家との役割分担

はじめに

 今日7月4日は司法書士試験の日ということで、商業登記に関する話を書いてみたいと思います。
 会社において、役員の変更や定款目的の変更など、登記すべき事項に異動が生じた場合、法務局へ商業登記の申請をする必要があります。
 大抵の会社では司法書士の先生に依頼して代理申請してもらうことが多いと思いますが、当然、代理申請でなく本人申請をすることも可能であり、そのことについて考えたことを書きます(以下、こうした登記の本人申請を、登記の内製化といいます)。

登記の内製化は可能か

 私自身はといえば、一応司法書士試験にも合格しているため、ある程度の範囲は専門家に依頼せず内製で処理することもありますが、登記の内製化は一部の例外的な場合を除きおすすめできず、基本は司法書士の先生に依頼する方がよいと考えています。
 ちなみに、私は司法書士試験には合格しているものの、登録もしていないただの会社員ですので、別に司法書士業界の利益のためのポジショントークではありません。
 ただし、本人申請は、申請不備により法務局側の業務の負荷となってるようですので、円滑な登記行政(ひいては登記完了が早期に完了することによるその他の申請者の利益)のためには代理人申請が増えることが望ましいと考えています。
 以下、登記の内製化によるメリットとデメリットについて述べたいと思います。

登記の内製化のメリット

①司法書士報酬の節約になる
 内製化のための一番の目的はこれだと思いますが、本人申請であれば司法書士報酬は当然不要になります。登録免許税は本人申請か代理人申請かにかかわらず変わりはありません。
 登記の申請の担当部署は、法務部門や総務部門であったり会社によってまちまちだと思いますが、そうした間接部門は利益を生まないため(一般論としての話で、色々議論のあるところですが、ここではその話には踏み込みません)、とりわけコストの削減に資する施策は歓迎されると思います。

②担当部署の成果としてアピールできる
 また、登記の内製化により業務の専門性を上司・他部署といった社内に向けてアピールすることができるでしょう。
 法務部はその業務の専門性と性質から、契約書のレビューの巧拙などのアウトプットのクオリティが他部署に伝わりにくいですが、それと比較して登記手続については、ミスなく完遂できれば分かりやすい成果となります。

代理人申請のメリット(と登記の内製化のデメリット)

①業務の手間の削減と確実性
 言うまでもなく、内製で対応するとなるとすべての手続を自力で行わなければならないですが、司法書士の先生に登記申請を依頼すれば、社内の担当者はその間はその他の業務に時間と労力をかけることができます。
 正直商業登記における司法書士報酬は、弁護士、税理士に支払う報酬と比較してかなり安いです。とりわけ小規模な会社で、経営者かそれに準ずる高い職位の方が数万円程度で業務を丸投げできるのであれば、その時間他の業務を行った方が投資効果は大きいでしょう。
 当然、専門家に依頼する方がミスもなく確実です。
 登記申請については、昨今は法務局のHPの書式や案内も充実しており、また本人申請を補助するサービスもあり、以前に比べてハードルは下がってきているといえます。

 一方、これは登記に限らず訴訟や税務といった専門的業務にも同様のことが言えますが、社内の担当者にとって、専門家の判断を仰ぐ最大のメリットは、リスクの転嫁にあると考えます。
 こうした専門的業務については、誤って処理した場合の影響が大きく、担当部門にとっては重い責任となるでしょう。
 許認可に基づいたビジネスを行っている場合、役員の異動等があると変更届を提出する必要があり、登記の完了を起点として様々な手続が発生します。そのため、登記の補正による完了遅れは後工程に波及してしまいます。
ましてや、実体法における解釈・処理が誤っており補正による治癒ができずに取下げとなると、その是正には大変な時間と労力が必要となります。

 依頼した専門家に過誤があった場合は、その選任の責任が問われることになりますが、内製で処理してミスがあった場合は、結果に対する責任をすべて負うことになり、また専門家への依頼の要否を検討する判断能力も不十分であるという誹りも免れないでしょう。

 登記の話に戻り、これは結構地味なメリットなんですが、司法書士の先生に頼んだ場合、登録免許税を立替納付してくれることが社内担当者にとってはありがたかったりします。
 登録免許税の納付は、書面申請の場合は、収入印紙を購入し貼付することなりますが、そのための社内手続が結構面倒です(会社にもよると思いますが)。出金伝票を起票して上司のハンコをもらって、経理部に提出して現金を受領して、印紙を購入して貼付して、領収書を経理部に提出して経費精算をする…と手間がかかりますが、代理人申請の場合は司法書士報酬と登録免許税を合算したものを請求書に基づき振り込むだけなのでラクです。

まとめ 社内担当者の役割は何か

 以上のとおり、登記を含め専門的な業務については、基本は専門家にお任せするのがよいと考えます。
 では、専門家に依頼して丸投げするだけの社内の担当者っていらなくない?ということになりそうです。外部の専門家は報酬が高いのでやむなく「安かろう悪かろう」という役割として社内の担当者を考えるのであれば、専門性では外部の専門家に劣る以上、会社では価値を提供できていないということになるでしょう。

 この点は、上記のメリット②と裏腹ですが、社内と外部専門家の役割分担をどう考えるか、社内における担当部員の役割として目指すところによるのではないかと考えます。
 例えば、登記であれば、申請の要否を判断する、専門家に依頼するための内容を整除して過不足なく専門家に伝達する、申請からバックキャストをしたスケジュールのアレンジなどは社内の担当者でなければできないことであり、そうした業務をミスなく行えることが社内担当者の提供する価値ということになるでしょう。

 外部の専門家ではない社内担当者はどのような価値を提供して、これから生き残りを図らなければならないのか、登記の内製化というテーマを機に、改めて考えていかなければならないと思いました。おわり。


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