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短い架空のお話

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短くて、奇妙な妄想にも似た架空のお話
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#短編小説

世界が動かなくなった日

無性に本が読みたくなって、最寄りの本屋へと立ち寄ることにした。
そこは、昔ながらのハタキを手に持った、いかにもな頑固おじいさんと、優しげなおばあさんの老夫婦が営んでいる本屋であり僕がいつも、本を買う時にお世話になっている場所であった。

いつもの如くお目当の本を手にレジに並ぶと老夫婦が二人揃ってニッコリとして「いらっしゃいませ」と口にした。
「これを」と僕が言うと。
「いらっしゃいませ」
「いらっ

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穴の中

今まで気づかなかったのが謎ではあるが、部屋の隅っこに穴が開いていた。
穴は卓球の球ほどの大きさで、穴は僕を誘惑しているようであった。
遠目から見ると黒く塗り潰された円にも見えるが、近づくとその闇は僕を吸い込んでしまいそうなほど大きく感じた。
僕は穴を覗きたい衝動にかられた。かき立てられてゆくその感情が抑えきれなくなった時に僕は気付くとその闇に瞳を近づけていたのだ。

穴の中には僕の部屋があった。正

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