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BASTARD!!をTRPG側から解説してみた #1(第1~5話)

Netflixにて、『BASTARD!!-暗黒の破壊神-』がアニメ化された。
エロ、グロ、ギャグ、変則的おねショタ、転生魔王ハーレム主人公、古典的ファンタジー世界観と、今からしてみれば「なんだこれは」と言わざるを得ないごった煮の傑作が令和の世に蘇った。

しかし、この作品に関して少し気になる事を聞いた。

当時の洋楽のメタルバンドが各所の元ネタである事も特徴的だが、もう一つ、ファンタジー作品としてTRPG『ダンジョンズ&ドラゴンズ』(以下D&D)の影響が色濃い…どころか、原作連載時点で構図が露骨にD&Dのイラストを意識した物が多かったのだそうだ。

そこでD&Dに対して理解を深めてもらうべく、原作を知っている側の視点からBASTARD!!の各要素を紹介したい。
今回は第1クール、第1話から第5話まで(忍者砦編まで)の内容を紹介する。
なお、自分自身はBASTARD!!は完全に初見である。

なお、今回もD&Dを専門とするVTuber、烏烏烏(うがらす いずく)氏にご協力頂いた。時折D&Dに関する雑談配信を行っているので、気になった方は是非見て頂きたい。

『ダンジョンズ&ドラゴンズ』とは?

『BASTARD!!』の事を知っていれば、この名前を聞いたこともあるかもしれない。

『D&D』とは、1974年にアメリカで誕生し一世を風靡した「ロールプレイング・ゲーム」の元祖である。
盤上の戦争シミュレーションゲームをもとに、プレイヤーが兵士ではなくキャラクター一人一人をプレイするというコンセプトで生み出された。

発売して以来、「指輪物語」など当時流行していたファンタジー小説の波に乗り人気が爆発。
黎明期であったホームコンピューターの世界にも飛び火し、「ウィザードリィ」「ウルティマ」に代表されるコンピューターRPGの誕生のきっかけとなった。
もちろん、こういった系譜がのちの日本の「ドラゴンクエスト」や「ファイナルファンタジー」に繋がったのは言うまでもない。

最初期D&Dの「赤箱」セットを模したジグソーパズル。

現在の版元は『マジック:ザ・ギャザリング』でおなじみのウィザーズ・オブ・ザ・コースト。近年ではD&DとMtGで相互にコラボが行われるようになっている。

今年6月に発売されたMtG「統率者レジェンズ:バルダーズ・ゲートの戦い」のボックス。
「フォーゴトン・レルム」の世界観における「バルダーズ・ゲート」の街を中心としたセット。

第1話「登場」

設定:デミヒューマン

作中ではオークやゴブリンなどの軍勢を「デミヒューマン」(亜人)と呼んでいる。
人に似ていながら異なる存在として、このような表現を他の作品でも行うことがある。

なお、現行のD&D第5版ではヒューマン(人間)も含めヒューマノイド(人型生物)とする表記が一般的である。

クラス(職業):ウィザード

ルーシェに封じられた悪の大魔導士ダーク・シュナイダーが、「いかなる者をも滅ぼす伝説のウィザード」として語られている。

D&Dにおける「ウィザード」とは、学問として魔法を修め、知性をもって魔力を操る者である。
ベーシックおよびアドバンスドD&D第1版(以下AD&D)では、「マジックユーザー」のクラス(職業)がレベル11(TRPGの1レベルは設定上かなり重いものである)以上になった際に贈られる称号として、AD&D第2版では「メイジ」系の選択肢として「ウィザード」が登場している。
第3版以降は独立したクラスとなっている。

なお、かつて世界を征服した伝説のウィザードとして、ダーク・シュナイダーはD&D換算で言えば総じてレベルの高い呪文を使用している。

呪文:ダムド

ダーク・シュナイダーの復活早々にオーガ達を吹き飛ばしたスペル(呪文)。

D&Dで爆発の呪文といえばファイアボールである。
敵将オズボーンをして「わずかな高位魔法使いにしか使えない」としているが、D&Dでは5レベルのマジックユーザー(ウィザード)から使えるようになるので、そこそこ強い魔法使いなら使えることになる(その「そこそこ強い」がどれぐらいいるかは世界観によるが…)。

全体として、こういった道具ではなく自身の力による魔法を単に「魔法(magic)」ではなく「呪文(spell)」とする辺り、D&Dの英語由来の表現が垣間見える。

呪文:ソドム

さらにダーク・シュナイダーはオズボーンがけしかける軍団を一撃で吹き飛ばす。

設定によれば魔力の刃を作り出す呪文だそうだが、初期のD&Dに存在したもので類似したものといえばクレリック用呪文の「ブレード・バリアー」だろうか。
なお、ブレード・バリアーは長時間持続させることもできる。

呪文:バルヴォルト

続いてオズボーンが放った雷撃の呪文。

D&Dで雷撃といえばライトニング・ボルトである。
ファイアボール同様5レベルから使用可能になり、ファイアボール同様優秀な範囲攻撃呪文として活躍する。

(これは余談になるが、初代ファイナルファンタジーにおいて、レベル3呪文として敵全体に攻撃できるファイラとファイガを覚えるようになるのもこのファイアボールとライトニング・ボルトが由来である。)

呪文:ベノン

顔を傷つけられたダーク・シュナイダーが怒りのままにオズボーンを消し去った。

爆発・爆炎のような描写だが、設定上敵を塵になる程に分解する呪文という事から、ディスインテグレイトの呪文が由来かもしれない。
ベーシック時代のD&Dでは魔法がかかっていなければ何でも問答無用で破壊できるという恐ろしい呪文である。

第3話でダーク・シュナイダーのオリジナルの呪文である事が言及されたが、D&Dでも「ターシャズ・ヒディアス・ラフター」「ビグビーズ・ハンド」など、高名な魔法使い達が開発したという設定で、名前入りの呪文がいくつか存在する。

呪文:チャーム

第1話ラスト、ダーク・シュナイダーに恋心を感じてしまったヨーコが一言:「私にチャームの呪文使ったの?」
チャームとはすなわち「魅了」。魅了の呪文はD&Dでも鉄板である。
「チャーム・パースン」(対人用)、「チャーム・モンスター」(汎用)など、対象となる生物の種類によって使用可能になるレベルが変わる。

第2話「暴走」

モンスター:ヒドラ

ギリシャ神話由来の怪物として、ヒドラが何かは説明するまでもないだろう。(原語寄りのヒュドラ、英語読みのハイドラとも)

原典やD&Dでは水棲の怪物として描かれているが、BASTARD!!においてはドラゴンのように火を吐く怪物になっている。

クラス:クレリック

メタ=リカーナの王や家臣たちは防御や治癒の呪文を扱う「クレリック」、すなわち僧侶であると説明されている。

今でこそ一般的なイメージとなったが、神に仕える神官が防御や治癒の呪文を扱うというのも、現代のファンタジーにおいてはD&Dが影響を与えた部分も大きい。

呪文:ガンズン=ロウ

ダーク・シュナイダーがジオと他の家臣を分断する際に使った炎の壁の呪文。

D&Dではウォール・オヴ・ファイアーがこれに相当する。単純な一枚の壁だけでなく、形や位置は比較的自由に選択できるので、様々な場面で活躍するだろう。

呪文:ストライ=バー(アンチマジックシェル)

ダーク・シュナイダーの電撃に対し、ジオは光の盾で攻撃を防いだ。

こういった魔法による防御手段はD&Dにおいても数多く存在するが、ダーク・シュナイダーは実際にD&Dにある呪文名「アンチマジック・シェル」と呼んでいた。

D&Dの前身となるミニチュアゲーム「チェインメイル」からD&D第3版まで登場するこの呪文は、「アンチマジック」の名の通り魔法が機能しなくなる領域を展開する。
なお、どちらかというとクレリック側ではなくウィザード系が使用できる呪文である。

クラス:モンク

そしてそのジオは対魔法領域内でも肉弾戦ができるモンクだという。

「モンク」も英語で僧侶の類を表す語だが、D&Dをはじめとするファンタジーの文脈では少々意味が異なる。

D&Dでは、モンクは少林寺拳法のように心身を鍛え、武術を修める拳法家のクラスである。
魔法とは異なる内なる「気」を操り、徒手空拳でも武器に並ぶ程の攻撃力を持つ他、卓越した運動能力を持つ。
カンフー映画などだけでなく、「北斗の拳」などもイメージするとわかりやすいだろう。

ちなみに、版によっては、モンクはクレリックの派生職ないしバリエーションとして登場しているため、ジオが「クレリックにしてモンク」なのもそういった繋がりなのかもしれない。

呪文の触媒

ジオ「いかにダーク・シュナイダーとて、呪文の触媒なしではそんなに多くの呪文は使えまい。」

D&Dにおいて、呪文それぞれを使用するのに必要な「構成要素」のルールが存在する。その基本となるのが以下の3種類だ。

  • 音声:ダーク・シュナイダーの詠唱などのように、特定の音声を発する必要があるもの。

  • 動作:手の動きなどの動作。

  • 物質:特定の物体を使用、消費するなど、触媒となる物体。杖などで代用できることもある。

第3話「誘拐」

超能力

アビゲイルやシーラによれば、破壊神アンスラサクスは「超能力」を持つという。

D&Dにおいても、予知や念動力など、超能力(サイオニック)が作中の要素として登場する。
こういった能力はまさにアンスラサクスのような異形の存在が持っている事も多い。

モンスター:ワイバーン

ガラが前足を持たないドラゴン=ワイバーンに乗っていた。

西洋の紋章を由来とするこの手のドラゴンは、今でこそファンタジー作品でもある程度鉄板となったが、原作連載当時の読者である烏烏烏氏いわく、当時の日本のファンタジー作品ではあまり馴染みがなかったとされる。

モンスター:ポケットドラゴン

ガラが飼っている小さなドラゴンだが、D&D通りならこれはドラゴンの幼体である可能性は低い。

BASTARD!!は概ね無印(およびベーシック)D&Dを由来としているため、当時の「The Creature Catalogue (AC9 モンスターマニュアル)」に収録された「ポケットドラゴン」が由来と思われる。

同書ではブレスを使用できない代わりに牙に毒を持つとされている。
また、ドラゴンながら温厚で、ガラがペットとして飼っていたのもうなずける。

こういった使い魔などに向いたミニチュアドラゴン系のモンスターとして、のちの版では「スードゥドラゴン」という生物が登場している。
こちらは牙ではなく尻尾に毒がある。

第4話「突入」

呪文:アンセム(マジックミサイル)

上から迫る忍者を撃ち落としたダーク・シュナイダー。ジオは光の攻撃をこう呼んでいたが、これもD&Dの呪文に存在する。

設定上はD&D通り魔力の弾を発射しているようだが、BASTARD!!のアニメでは衝撃波を作り出しているようにも見える。

ヒットするために何らかの判定が必要になる他の呪文と異なり、マジック・ミサイルはほとんどの版で必ず有効打になるという特徴がある。
ただし、ジオの「急所を外さない」という発言がある事から、BASTARD!!でもこの部分は残っているようだ。

ちなみにダーク・シュナイダーの使用呪文にしては珍しく、1レベルのマジックユーザー(ウィザード)でも使用できるとても基本的な呪文である。しかし、その必中という性質から、様々な版でレベルを問わず数々のウィザード達がお世話になっている。

MtG『フォーゴトン・レルム探訪』より《マジック・ミサイル》、PINDURSKIによる

設定:「もっと殺傷力のある暗黒呪文もたっぷり用意してあるんだろうな」

ダーク・シュナイダーに対し騎士団長がこう言及していたが、これはD&Dの「呪文スロット」制に由来するものだろう。

このシステムでは基本的に呪文のレベル(『ファイナルファンタジー』で言うところのファイア、ファイラ、ファイガのような段階)に対し、一日あたりの使用回数が設定されている

この仕様は『ウィザードリィ』や初代『ファイナルファンタジー』(ファミコン版とピクセルリマスターのみ)などの回数制のモデルとなっている。

さらに、ベーシックD&D当時のルールでは一日の始めに各スロットに対して使う呪文を暗記して選択する仕様であり、呪文を「用意する」など、消費制のアイテムのような感覚で語られることがあるのはこの影響だろう。

ジャック・ヴァンスの小説の設定を元に生み出されたこのシステムだが、のちにラリー・ニーヴンの『The Magic Goes Away(魔法の国が消えていく)』がより扱いやすい「マナ」の概念を生み出したことにより、この呪文スロット制はD&D固有と言って差し支えない物になった。

BASTARD!!以外にも『ゴブリンスレイヤー』など、魔法の余力を「魔力」や「マナ」ではなく、回数で表現している作品があれば、D&Dを意識していると言っていいだろう。

モンスター:スライム

捕まえたヨーコにガラが拷問のためにスライムをけしかける。

日本ではドラゴンクエストの鳥山明のデザインのおかげですっかり寒天のようなぷるぷる感がお馴染みとなったが、BASTARD!!ではスライムの原義である「粘体」に忠実な、ネバネバした怪物である。

こういったスライムはあまり自力で動けず、こちらに気づかない獲物が歩いてくるのを待つ、ダンジョンのトラップとしての役割が強い。

しかし、流石に「服だけを溶かす」部分はお色気のための演出だろう。

モンスター:鈴木土下座ェ門

BASTARD!!をご存じなくとも、この存在はご存じかもしれない。

もはや伝説と化したビホルダー鈴木土下座ェ門が登場した。
(事情に関しては割愛する。詳しくない方は適当にGoogleか何かで検索してほしい。)

さてこの「「「元ネタ」」」となるビホルダーだが、D&Dでは数少ないオリジナル成分の強い生物である(ゆえに訴訟が起きた訳だが)。しかしそれゆえに現在ではドラゴンと並ぶD&Dの看板モンスターとして知られている。

その外見は中央の大きな一つ目と10の眼柄(先に眼球のついた触手のような部位)、土下座ェ門はこれに人の手足を取り付けたものとなっている。
原典では中央の目が対魔法領域、残りの目が分解や念動力などの各種光線(魔法扱い)を放つ。

ダーク・シュナイダーのダムドですら歯が立たなかった土下座ェ門の「結界」は、この対魔法領域が由来なのかもしれない。

鈴木土下座ェ門の強さの格は不明だが、ビホルダーは知能が極めて高く、盗賊ギルドを仕切っている個体が存在するなど、かなり強大な存在とされている。しかし、鈴木土下座ェ門はそれとはかなり間が

呪文:メイス

呪文で石の扉を開けるダーク・シュナイダー。

これはノックに相当する呪文だろう。
3レベルから使用できる低レベル呪文なので、ダーク・シュナイダーは戦力になるダムドなどの高レベル呪文をあまり消費せずに扉を突破できる手段として使用したのだろう。

アイテム:炎の魔剣

シーラが触れてしまった炎の魔剣。こういった武器はD&Dでは「フレイムタン」(炎の舌)と呼ばれる。決してフレイムたんではない。
ファイナルファンタジーでも各種作品にこのような名前の武器が登場するため、それで知っている方も多いだろう。

モンスター:イーフリート

そしてそのフレイムタンには火の魔神、イーフリートが封じ込められていた。

イーフリート(イフリート)というのは中東の伝承に登場する火の精霊の一種というのはご存じかもしれない。
D&Dではそれが元でか基本的に中東風の装束に身を包んだ鬼のような風貌であり、BASTARD!!のコウモリの翼を持つ筋骨隆々な姿はむしろバロールなどのような悪魔系を彷彿とさせる。

第5話「決着」

設定:元素界

ガラが魔法の源を説明する際、「4つの元素界」について言及されている。

地(土)・水・火・風(大気)の4つの元素というのは古代ギリシャやインドなど広く見られ、現在でもファンタジー方面では広く親しまれているが、D&Dではさらに精霊が暮らす、純粋な元素に満ちた元素界という概念を世界観に組み込んでいる。

呪文:ヘリオン

ダーク・シュナイダーを焼き尽くさんと、炎の柱へと変化するイーフリート。

ダーク・シュナイダーでも使用できない、火の精霊だからこその技と説明されているため、明確にD&Dの呪文をモデルとしているのではないのかもしれない。

呪文:エグ・ゾーダス(設定:ゲヘナ)

対してダーク・シュナイダーは地獄の炎を呼び、ヘリオンの炎を巻き込んでイーフリートを打ち倒した。

ここで注目したいのは呪文の詠唱。「ゲヘナの火」とあるが、D&Dの設定においてもこのゲヘナが存在する。

D&Dにおけるゲヘナとは、一般的な物質界(マテリアル・プレーン)とは異なる、「中立・悪」と「秩序・悪」の哲学的属性(アライメント、Fateや女神転生に登場する物のモデルとなっている)の中間を司る世界である。

重力が常に地面に対し斜め45度を向いた、各地に火山の多い世界で、他の世界から逃げ出した下級の悪魔が隠れ住んでいることが多い。

呪文:メガデス

ダークシュナイダーは風と地の元素同士を融合させ、ガラの砦ごと破壊しつくした。

D&Dには特に元素同士が強い反応を起こすような設定はないため、この辺りはバトル漫画的なオリジナル要素だろう。

あとがき

ひとまず序章~ガラ編の解説が完了した。とりあえず第13話まで続けたいとは思っているが、モチベーション不足で完結しない可能性も

なお、前回Amazon Primeの「ヴォクス・マキナの伝説」の解説などの際から、D&Dを取り巻く環境は少しずつ快方に向かっている。

これまでのホビージャパンに代わり、マジック:ザ・ギャザリングの日本展開を受け持っていたウィザーズの日本支部がD&Dも担当することが正式に発表された(詳細は未定)。

しかし、現在のD&Dはネット上での露出も少なく、知名度が伸び悩んでいる状態だと筆者は考えている。
D&Dのこれからのためにも、私はこういった解説などでD&Dの事を伝えていきたい所存である。


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