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24時間テレビの寄付金着服

 


事件のあらまし

 鳥取市にある日本海テレビというローカルテレビ局は、日本テレビ系列なのだそうだ。同局で経営戦略局長という御大層な肩書の53歳の男性が、24時間テレビへの寄付金と会社の売上金とを合わせて1,118万円を十年間にわたって着服(横領)したことがわかったとして同局が2023年11月28日に公表した。本人は前日の27日に懲戒解雇されている。

 チャリティー番組に寄せられた善意の寄付をネコババするとは言語道断なのだが、この事案は考えれば考えるほど不可解なことがある。不可解というのは公表された情報が少ないせいもあるのだが、会社としてガバナンスであるとか、内部統制の仕組みであるとか、あまりに不備であることが想定されて俄かには信じがたいほどなのである。

寄付金の着服(横領)

 新聞報道によると、犯人である経営戦略局長は経理事務を管掌していて、会社の金庫の鍵を管理する立場だったという。寄付金については会社の金庫から持ち出して、自分の銀行口座に入金するという方法で私腹を肥やしたという。飲食代やスロットに使ったとみられている。

 会社の金庫の鍵を管理する立場と言っても通常は一番エライ局長さんが鍵を保管することはなく、部下の課長が保管しているものだ。なおかつ、鍵だけでは開かないダイヤルキー付きの金庫を使うものであり、暗証番号を知っている特定の人間が課長から鍵を預かって開ける実務が一般的だ。

 現金で寄せられた寄付金は一時的に金庫に保管するものかも知れないが、募金を締め切ったら大急ぎで経理担当者たちが金額を数えて、すぐ銀行に預けるのが、これまた普通の実務のはずである。金庫から持ち出して、着服したにせよ、どういうタイミングで行ったのか不思議である。

会社資金の着服(横領)

 さらに不思議なのは、同テレビ局の売上金など会社の資金を着服したという話で実は、こちらの方が金額が多い。24時間テレビへの寄付金の着服額は264万6020円で、対して会社資金の着服額は853万6555円と公表されている。ここでテレビ局の売上金とは広告収入で、これは普通、現金ではなくクライアントから銀行口座に振り込まれる。

 それをどうやって横領したのか不思議なのだが、おそらく、銀行に登録された社長の印判も犯人が預かっており、それを使って書類を作成して、会社の口座から自分の口座にお金を移す(振り込む)ことを行ったのだろう。そうすると、寄付金の横領も売上金の横領も、部下に事務作業を命じたとしか思えないのである。

 しかも、寄付金にしろ、売上金などにしろ、きちんと端数まで横領された金額が把握されたのだから部下たちは会社の帳簿をそれなりに記録して来たのだろう。寄付金については金庫に入れた金額と日テレに送った金額とのギャップが何らかの記録として残り、会社資金については架空の伝票や架空の請求書などが残ったはずだ。

マネジメント・オーバーライド

 本件は、監査や内部統制の術語として「マネジメント・オーバーライド」と呼ばれるケースに該当するのだろう。これは、「経営者が悪ノリして」不当な目的のために内部統制を無視ないし、無効にならしめることを意味する。 この場合は経営戦略局長だが、権限を有する役員や管理職によって、独断専行で行われる不正のことを指し、関係者の共謀と並んで内部統制が無効化されるリスクが最も大きい。

 この不正を明るみに出すことは難しく、考えられるきっかけとしては、部下による内部告発と外部による監査の二つがある。寄付された現金を金庫から着服しただけならともかく、銀行口座にある会社の資金まで着服したとなると部下に指示したとしか思えないが、それを告発する部下はいなかったのだろう。

 おそらく、この犯人はパワハラ気質の持ち主なのだろう。部下たちも部下たちだが、せっかく鳥取市で有数の世間体と待遇のよい会社に勤めているのに、最悪、職を失うリスクを冒して正義を貫くのは勇気がいる。しかも、十年も続いて来たのなら何を今更だろう。更に犯人は部下たちをよく飲みに連れて行ったらしい。暗黙の口止めを兼ねていたはずだ。

 そして不正行為を十年も続けてこられたのは外部から監査を受ける機会がなかったせいでもある。日本海テレビは株式を上場しておらず、資本金は2億円である。これは金融商品取引法によっても、会社法によっても公認会計士による会計監査を受ける義務がないことを意味する。

悪事の結末・・・

 公認会計士による会計監査を受ける義務はない日本海テレビではあるが、このたび税務調査を受けることになった。資本金2億円となると地元の税務署ではなくて広島国税局の管轄となる。山陰・山陽の広域を調査対象にするため少なくとも過去十年間は調査を受けなかったから油断したのだろう。

 だが、国税局が来ればたちまち悪事は露見する。現金や預金の帳簿を精査するのは税務調査や会計監査のイロハのイである。犯人の経営戦略局長は慌てて、国税局による調査でバレるより先に、会社に会社資金の着服を告白したのが11月9日のこと。寄付金の着服については、しらばっくれたものの社内調査でバレたらしい。部下だって積極的に社内調査に協力したはずだ。

 もちろん、謝って済む話ではない。社内調査を経て、27日に懲戒解雇になったのは前述の通り。さらに、会長が引責辞任し、社長も3ヶ月の報酬返上処分となることが公表された。いちおう、これで幕が引かれるのだが…。

テレビ局という不思議な組織

 日本海テレビは従業員約100名の企業だそうだ。入社の応募先は総務人事部となっているから総務人事部長と次長と総務課長と人事課長がいるのだろう。当然、経理部もあって経理部長と次長と経理課長もいるのだろう。それら事務部門を総括していたのが、経営戦略局長だったのだろう。しかも、役員ではなく管理職だから、更に局長を管掌する役員がいるのだろう。

 無駄にポストが多いよなぁ〜と感じるのは筆者だけだろうか? しかも事務部門を統括するのが職務だと思われる部局の名称が「経営戦略局」? 思い切り失礼なことを書くが、ローカルな報道やバラエティ以外のコンテンツは在京キー局である日本テレビから配信されるものだろう。業務計画はともかく経営戦略なんて要らないだろう。何を気取った名前をつけているんだ?

 まあ、申し訳ないけれど利権化しているテレビ電波を専有する殿様商売でリスク管理や内部統制が出来ていないのが実態なのだろう。その点、ここまで酷くはないだろうが、在京キー局だって似たりよったりのところはあるようだ。キー局の間でのビジネス上の競争はあるものの、世間を批判はするが批判を受けないのでは組織内部が腐朽化しても不思議はない。


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