大学教員公募についてのお気持ち表明

今年3月20日に第3回連載「あれから1年」を開始してから5か月余り、5月1日にその第3回記事「危ない橋としてのOL」を公表してからは4か月近く。
すっかり間が空いてしまいました。

当初は連載を(全5回くらいで)4月中に完結させる予定でいたのですが、第1回記事の公表後に第2回記事「OLの賛同者名簿と氏名冒用」を書き始めたところ、「この記事は本当に公表してよいのだろうか」と思い悩むようになりました(その理由は第2回記事参照)。
迷い抜いて第2、第3回記事を公表した時にはすでに4月が終わっており、5月に入ると予定していた調査旅行や学会発表、論文執筆に取り組まなければならず、続篇記事執筆の時間も意欲もなくなってしまいました。

なので、予告していた記事「SNS鍵垢と研究者倫理(その2)」などはまだ書くことが出来ずにいます。
いつか書きたいとは思っていますが、いつになるか分かりません。

ただ、最近また研究者による鍵垢での陰口が問題になっていますので、
もしかしたら遠からず記事「SNS鍵垢と研究者倫理(その2)」を書くかも
知れません。
今のところは自分でも本当に分かりません。

今回の記事では、本連載開始当初の計画には全くなかった、大学教員公募の問題について少し書くことにします。
この問題については昨年4月10日、第1回連載の第2回記事「呉座界隈問題と私のTwitter夜逃げ(その2)」で少し書きましたので、その続篇とも言い得るでしょう。

変わらぬ現状への憤り

私は昨年の記事「呉座界隈問題と私のTwitter夜逃げ(その2)」で、この業界の大学教員公募がいかに理不尽かを紹介した。
ちょっとした告発のつもりだったが、とはいえ私の記事で業界の悪しき現状が一変するだろうなどとは期待していなかった。
実際、ろくでもない大学教員公募は今年も出され続けている

某大学の公募では、研究業績一覧の口頭発表欄に「開催場所」や「発表時間」も記入せよと要求された

ここで所謂「開催場所」とは、会場となった大学名などだけでなく、その会場が所在する市区町村名も併記しなければならないという。
開催場所が本郷の「東京大学(東京都文京区)」か駒場の「東京大学(東京都目黒区)」かで、何が変わってくるというのだろうか。

発表時間が15分か20分か30分かなどということは、プログラムにも記載されていないことがある。
プログラムが学会の公式サイトにも残っていなければ、調べようもない。
発表の場で司会から「発表と質疑応答で合計1時間半くらいになるようにしてください。時間配分は発表者にお任せします」と言われることすらある。

以前、「一部大学の教員公募では発表時間で口頭発表を点数化している」という、嘘か実か分からない噂を聞いたことがある。
その場合、1時間の口頭発表には20分のそれの3倍の点数が与えられるのだろうか

あと、1次選考で、しかも指導教員による推薦状を要求するのは本当に止めた方がよい
大学院での指導教員がすでに死去していたり高齢や病気だったりして、推薦状を依頼できない研究者はそもそも応募できなくなる。
また一般論として、大学院で指導教員から深刻なハラスメントを受けた研究者に「指導教員に推薦状を書いてもらえ」と求めるのは余りに酷であり、そんな悪質な指導教員の書いた推薦状が選考に役立つとは考え難い。

だから推薦状の作成資格者は指導教員に限定せず、(一部の大学ですでにそうしているように)「応募者についてよく知る研究者」くらいにすべきだろう。
提出を要求するのも、1次選考でなく2次選考以降にしてほしい。

大学院で指導教員から院生へのハラスメントが後を絶たないのも、この推薦状の
問題が一因であるように思われる。
博士号の取得後も指導教員に推薦状を書いてもらい続けなければならないと
分かっていれば、ハラスメントされても物申すことは難しい。

このように理不尽な公募を出す大学も、公式サイトの受験生向けのページでは「ダイバーシティ」だの「バリアフリー」だのを謳っているのだから、わけが分からない。
学生の多様性などを考慮できる教員は、応募者の多様性などを考慮していない公募方法で選抜できるものなのだろうか。

また全体の傾向として、人文科学系の(つまり自然科学系などの学部がない)大学ほど、ろくでもない公募を出すように見える。
「生を豊かにする人文知」「未来を切り拓く批判精神」みたいな美辞麗句が、聞いて呆れる。

微かな変化の兆し

とはいえ、この業界にも変化の兆しが全くないわけではない。

今年、人文社会科学系の(自然科学系の学部が1つしかない)某大学の人文科学系某学部から出た公募の1次選考は完全オンライン(郵送不要)で、しかも履歴書などはすべて書式自由(日本語横書き指定のみ)、他者からの推薦状不要だった。
この業界であんなにも素晴らしい任期なし教員公募を、私は10年以上求職活動していて見たことがなかった。
あまり期待はしていないけれど、今後ああいう公募が増えていってほしい。

また今年6月、大学が公募などの研究者履歴紹介でresearchmapを利用するように希望する有村慎一(東京大学 大学院農学生命科学研究科 准教授)のTWを、宮川剛(藤田医科大学 総合医科学研究所 システム医科学 教授)が一般社団法人国立大学協会の会長・副会長(4名の学長)との意見交換で紹介し、「とてもポジティブな感じ」の反応を得たという。

私からすれば雲の上の世界なので想像するしかないが、大学の学長くらいになると、地べたを這う若手研究者が公募の応募書類作りにどのくらい疲弊させられているかを把握していないのでないだろうか。
そしてもし把握すれば、よりよい人材を選抜するためにも、業務改善を現場に指示してくれるかも知れない。
なので、国大協の会長や副会長たちに直接訴え掛けるのは非常な良策だったろう。

元TWの有村も、勤務する東大の業務改善窓口に正式提案したという。

なお宮川は3年前の2019年4月、西村玲氏の自殺が新聞報道された後、『西村玲遺稿拾遺』を紹介する私のTWを引用RTしていた。
なので今年6月の国大協との意見交換でも、もしかしたら西村氏のことが胸中にあったのかも知れない。

2019年1月30日
https://twitter.com/mshin0621/status/1090607196201639942

また、そもそもresearchmapを2009年に新井紀子(国立情報学研究所 情報社会相関研究系 教授)が開発したのも、若手研究者の負担軽減を考えてのことだったという。

ちなみに、researchmapを利用しているのはほぼ日本国内の研究者だけなので、
海外の研究者からの応募も考慮すると書式は完全自由にすべきだろう、
という声もある。
https://twitter.com/wndrm4478/status/1541386125721444352

私としては、こうやって行動に移してくれる見知らぬ人たちがいるというだけでも、感謝しきれないくらいに有り難い。
この世は私が思っているほどにはクソではないのかも知れないな、という気にもなってくる。

地獄を変えようとしない人たち

他方でつくづく思うのは、数理論理学や細胞生物学や実験心理学を専門とし、すでにテニュア研究職にある(つまりもう求職活動をする必要がない)研究者たちが、不特定多数の若手研究者を「すべての大学が異なるフォーマットで応募書類を求めてくるという地獄」から救い出そうと行動してくれている時に、人文系のテニュアあり研究者は何をしてくれているのだろうか、ということだ。

2019年、日本学術会議が推薦した会員候補者105人のうち、第1部(人文社会科学系)の6人は首相から任命されなかった。
この問題が同年10月1日に報道されると、同月末までに234もの学協会や大学などから抗議声明や改善要望書が出されたことになっている。
その後、翌年1月25日現在で数字は265まで増えたことになっている。

日本学術会議記者会見資料「学協会声明一覧
(令和3年1月28日)

「ことになっている」というのは、学会の執行部が総会の議を経ずに出した
声明や要望書なども算入されているため。

それだけ機敏に対応できるのであれば、もう10年以上も放置されている「すべての大学が異なるフォーマットで応募書類を求めてくるという地獄」について、人文系の学会は何かしてくれてもよいのでないだろうか
その地獄に苦しんだ若手研究者が自殺までしたことを、どうか忘れないでほしい。

最後に念のため、誤解のないように言っておくと、(他の人はどうだか知らないが少なくとも)私は決して「如何なる場合でも大学指定の独自書式で履歴書や業績一覧などを書きたくない」とまでは思っていない。
大学教員の公募で、もし先方から

「選考の結果、あなたを採用することに内々定しました。
つきましては、応募時に自由書式で提出された履歴書や業績一覧などを、本学指定の独自書式で書き直し(再)提出してください。
その(再)提出を以て、正式に採用内定を出します」

と言われたら、たとえその独自書式がネ申ワードやネ申エクセルだろうと、書類が合計10頁や20頁になろうと、私は喜んで書き直して(再)提出するだろう。
そうでなく、(どうせ1人しか採用しないのに)応募者全員に最初から独自書式で履歴書や業績一覧などを書かせるのは止めてほしい、と言っているだけだ。
何故、そのくらいのことも理解されないのだろうか。

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