【ネタバレ注意】【音楽談議】2022/02/05 藤井麻輝最終公演「麻輝/棘」LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)

こんばんは!前回から大分時間が空いてしまいましたが、今年最初に観に行ったライブということで、2022年2月5日(土)に開催された藤井麻輝さんがライブ活動最後の公演と事前より告知されていた「麻輝/棘」、およびそれに付随する藤井さんの活動歴について長々と(!)書かせていただきます。

藤井麻輝さんは1989年、ボーカル遠藤遼一さん、キーボード森岡賢さんと共に結成されたバンド「SOFT BALLET」としてシングル「BODY TO BODY」でALFA RECORDSよりデビュー。

※再結成後活動第二期のライブより「BODY TO BODY」。

SOFT BALLETでは比較的解り易いダンスミュージックやバラードなどを手掛けつつ、本人も踊りながらキーボードを演奏する「陽」の森岡さんに対して、重厚かつダークなインダストリアル~ノイズミュージックを手掛け、当初は不動のキーボーディストという位置づけから、次第にメタルパーカッションをぶっ叩いたり、チェーンソーでドラム缶を切断する音を演奏に加えたり、後にはギターも演奏していた「陰」の藤井さん、そしてその両者による対極的な楽曲の世界観を豊かな低音ボイスで情感たっぷりに歌い上げる遠藤さん、3人の絶妙なトライアングルから成り立つバンドでした。

当時のJ-POP/J-ROCKシーンからは一線を画し、ある種洋楽的と言っても過言ではない日本では独自のサウンドを手掛けながら、オリコンチャートにも入り、かのNHKポップジャム等で普通にテレビにも出演するという、当時圧倒的に個性的でありかつ異彩を放っていたのが、SOFT BALLETというグループでした。

※NHKポップジャムより藤井さん作曲「PILED HIGHER DEEPER」。司会の”モックン”本木雅弘さんが心からノリノリな様子がこれまた貴重な映像。

学生時代、ちょうどシンセサイザーによる作曲、アレンジを始めた頃、勉強がてらYMOやTM NETWORKなどの楽曲を打ち込んで遊んでいた僕にとって、たまたま遅くまで起きていて目にしたTVKテレビで流れたSOFT BALLET「EGO DANCE」のPV、そしてそれまで自分が知るシンセポップとは全く異なる、でも先進的、未来的でカッコいいサウンドに度肝を抜かれ、翌日学校の帰りにCDショップに駆けこんで「EGO DANCE」のシングルを購入したのは今でもはっきりと覚えています。

※当時のPVがなかったので、再結成後活動第二期のライブより。第一期の妖絶な魔界からの伝道師のようだった遠藤さんは、endsでのソロ活動を経てかなりフィジカルで攻めるスタイルに変貌していますが、そんな変化も難なく受け入れてしまう”3人バラバラな感じ"が、このバンドの魅力でもありました。

そして、森岡さん作曲のシングル「EGO DANCE」の直後に発売された3rdアルバム「愛と平和」に収録されていた中で、僕の中で藤井さんが絶対的な存在となったのが、藤井さん作曲の「VIRTUAL WAR」でした。

※こちらも同じく第二期のライブから。結果的に最終披露となったこのアレンジが僕は大好きです。今でも無性に聴きたくなる時があります。こちらは当時シングルの同梱DVDとして商品化されているので、YouTubeの映像や演奏も綺麗です。藤井さんがモッキンバードを弾いている姿が、当時ノイズ、インダストリアルなど近しいジャンルを手掛けていて、恐らくBUCK-TICK今井寿さんやLUNA SEA Jさんなどを通して交流があったであろうと思われるX JAPAN hideさんを彷彿とさせ、微笑ましく会場で見ていた記憶がありました。

ALFAより1st~3rdアルバムをリリース後、ビクターINVITATIONに移籍し、BUCK-TICKを始めM-AGE、BRAIN DRIVEなど当時のゴシック/インダストリアルを手掛けるバンドを集めた非常にレアな環境において、SOFT BALLETは移籍第一弾として、ボーカリスト遠藤さんの存在をあたかも否定するかのような前衛的かつ後々問題作と評される4thアルバム「MILLION MIRRORS」を発表します。

実は僕はSOFT BALLETの中でこのアルバムが最も好きなのですが、その中でも最も好きな楽曲が1曲目の「FRACTAL」。6分強に及ぶ楽曲の中、遠藤さんの歌パートが僅か1分もないという衝撃の構成ですが、「ダンス」「インダストリアル」といったジャンルの区分からも解放され、独自の音楽表現が確立されたという意味でも、非常に大好きな楽曲です。

第一期が1989~1995年、第二期が2002~2003年の活動となったSOFT BALLETでしたが、その間には藤井さんはBUCK-TICK今井さんとのユニット「SCHAFT」としてアルバムやリミックスを発表したり、女性ボーカリストを迎えたユニット「She-Shell」として活動する一方、LUNA SEAのRYUICHIこと河村隆一さんのソロアルバムの楽曲を手掛けたり、はたまた浜崎あゆみさんのリミックス、あるいはhideさんが結成した日英米混成バンド「Zilch」のリミックスアルバムにSCHAFTとして参加する等、幅広い活動を行っていました。

Zilchに関しては、1999年に開催されたライブツアーにSCHAFTとしてゲスト参加し、東京公演ではLUNA SEA Jさん他との共演も果たします。

そしてこのZilchの2ndアルバム「SKYJIN」に共に参加したボーカリスト芍薬さんと共に2004年結成、2010年まで活動したのが「睡蓮(SUILEN)」でした。

※2007年発表のSpine。本楽曲を含む1stアルバム「音ヲ孕ム」には、かねてより親交の深いL'Arc~en~Ciel / acid android の yukihiroさんが参加したことでも話題になりました。

その後、東日本大震災を機に一時期音楽活動を休止していた藤井さんが復帰後、2014年より活動を開始したのが、SOFT BALLETのメンバ森岡さんとのユニット「minus(-)」でした。

minus(-)は、藤井さんが森岡さんとのライブありきで、森岡さんが手掛けたEDMを藤井さんがアレンジ、トリートメントを行うという制作スタイルが取られたことから、ある種SOFT BALLET時代と比較してより解り易くなったダンスミュージックが評価を受け、2015年にはLUNA SEAが開催したフェスイベント「LUNATIC FEST.」への出演も果たしています。

※LUNATIC FEST.のminus(-)出演シーン。藤井さんの歌う「B612」が、僕がminus(-)の中で一番好きな曲です。

しかしながら、ニューアルバムのリリースとそれに伴うツアーを直後に控えていた2016年6月3日、森岡賢さんは残念ながら49歳という若さでこの世を去ることとなります。

2016年8月13日に東京・赤坂BRITZにて開催されたライブの最後では、森岡さんが手掛けたSOFT BALLET時代の名曲「AFTER IMAGES」に、SOFT BALLETのボーカルだった遠藤さんがこの日のためだけに新規収録を行ったボーカルトラックが会場に流される形で演奏されました。これにより最初で最後、一曲限りのSOFT BALLETの再結成が実現されたのでした。

その後、minus(-)は事実上藤井さんのソロユニットとして継続しますが、2021年9月19日に東京・EX THEATER ROPPONGIにて開催されたライブをもって活動を終了。

そして、2022年2月5日に開催された「麻輝/棘」をもって、藤井さんのライブ活動が終了することがアナウンスされました。


当日、僕は午後から都内レコーディングスタジオで、MSGEXのM3-2022春合わせ新譜に収録予定の新曲のギター録り立会いがありましたが、いろいろと手を尽くして予定よりも早めに収録を完了させ、渋谷に向かいました。

お昼から何も食べてなかったため、久々のパンチョで腹ごしらえを済ませ、途中、昔良く通っていたSOCCER SHOP KAMOに寄り道したりしながら、会場であるLINE CUBE SHIBUYAに向かいました。

会場であるLINE CUBE SHIBUYAに到着すると、会場外から2列で並び、そのまま入場となりました。会場内にはBUCK-TICKさんとPIERROTのKIRITOさんからの花が飾られていました。

入場後、グッズ販売の列に並ぶもあまりの長さに、これは開演までに間に合わないなと判断し購入を断念。ロビーで時間調整後、座席に向かいました。

座席に向かう途中目にしたステージ上には、2台のドラムセットが設置されている他は何もない状態。後に藤井さんは、この日ギターやキーボードを演奏することはなく、スタンドマイクと共に終始センターを担うことが判明しました。

ただ、座席の最前列を潰して横一列に並んでいたスピーカー群を目にして、昔SOFT BALLET時代に雑誌のインタビューか何かで藤井さんが言われていた「音で〇す」状態を今回も作るんだろうなと感じ、少々武者震いがしました。その後、そのスピーカー群がSUPER LOWを奏でるために用意されたものだと知ったのは、ライブ終演後以降のことでした。

ライブは18時半開演より約一時間で12曲、minus(-)が5曲に睡蓮が7曲と、最終公演でもあえてSOFT BALLETやSCHAFT、She-Shellなどの楽曲を披露するサービス精神は皆無でした。

しかしながら、半数以上が睡蓮からの楽曲となったことには、藤井さんなりの拘り、あるいは当時の活動に対する悔いのようなものがあり、やり残したことを最終公演にて成し遂げる、そんな思いがあったのかもしれません。

そういう意味では、いわゆるベスト選曲といったような形ではなくても、藤井さんの楽曲や音楽表現を求めるリスナーに対して、あるいはご自身が手掛けた音楽に対して、非常に「誠実」な選曲だったとの印象を受けました。

2022/2/5 藤井麻輝最終公演「麻輝/棘」SHIBUYA LINE CUBE 18:30-19:30
SET LIST
01.カナシミ
02.内側に向かう
03.それはもはや沈黙として
04.この話の続きを聞きたいか
05.drop
06.左手
07.ツバメ
08.柘榴
09.daylight (E)
10.Spine
11.ヨハネインザダーク
12.夕鶴会

ライブ中は案の定、通常では考えられない音のボリュームと音圧、そして縦横無尽に形を変えながら動き回る照明から溢れんばかりの光。音と光の洪水に終始埋もれているような状態でした。当日の感想はシンプルだけど正にこの表現の通りでした。

11曲目、ヨハネインザダークの後にサポートドラマーの2人がステージを去った後、モニターイヤホンを外し、客席からの拍手に笑みを携えていた藤井さんがこの日最大の音圧感と眩い光の中で最後に歌唱したのが、睡蓮の1stアルバム「音ヲ孕ム」より選曲された「夕鶴会」でした。

演奏の終了直前に藤井さんが一礼をしてステージを去り、演奏が終了した直後に会場中の照明が全点灯。夢現な状況から突然現実に引き戻されるような演出でしたが、寂しさを感じる間もなく終わったという意味では、あえて意図されていた演出だったように思われます。


ライブ中、僕は藤井さんの奏でる「音」に終始圧倒されていました。

そして、最後の夕鶴会を聴いている頃には、強烈な音圧で喉元に終始圧迫感を覚えながら、藤井さんからこう突きつけられているように感じていました。

アイデンティティ。
相対評価と絶対評価。
自己防衛と自己表現。

俺は最後まで自分のやりたい表現に拘り、全うした。

お前が本当にやりたい表現とは、いったい何だ?

これはライブが終わって数日経った今もなお、僕の頭の中を終始駆け巡っています。

とても辛く苦しいけれど、限られた時間の中で活動する身としては、遅かれ早かれいずれは自分自身で決断しなければならない問題。

最後に一ミュージシャン、一表現者としての行為を全うした素晴らしい姿、強烈な音と光の空間に身を委ねた記憶と共に、問い掛けられた課題は重く、僕の心の中に「棘」として突き刺さり、これからも一生忘れることなく残り続けていくことと思われます。

藤井さん、ミュージシャンの大先輩であり憧れの存在として、本当にありがとうございました。

これからも音楽活動自体は継続されるとのことですので、新たな楽曲の発表を心よりお待ちしています。


ということで、MSGEXのGAKUでした!


追伸.2002年、東京・外苑西通り沿いにある青山ビクタースタジオにおいて、藤井さん立会いの下で行われた、藤井さん作曲のSOFT BALLETの楽曲「Ascent」のFCメンバー限定コーラス収録に、僕も参加させて頂きました。

当日は女性の参加者の方々が圧倒的に多い中、張り切って声を出させて頂いていたので、僕の声を聴いたことがある方には割とわかりやすい状態になっていると思います。

藤井さんには「こいつうるせぇ!(憤怒)」って思われてたかもしれませんが(苦笑)。


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