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円安効果が出ない理由

 本来、円安は国の競争力を引き上げ、景気を上向かせ、賃金上昇やこれ以上の円安を止めることに繋がるのですが・・・
ここ最近は、底なしの円安感を匂わせる報道が多くなっています。

どうして、円安効果が出ないのでしょうか?

答えは製造業の供給網が瓦解し、非製造業は付加価値に見合う価格帯を構築できていない

からだと思います。
※)あるいは、まだ円安水準ではない、という可能性もあります。

さて、非製造業の付加価値構築については、別の機会があればお話するとして、今回は製造業の衰退についてお話します。

マクロ的に見て、製造業というのは、国内に中間層を形成する主軸産業になります。
つまり、製造業の弱体化=中間層の没落を意味するわけです。
もちろん、一部勝ち組の製造業は存在しており、そちらは上層を形成することになります。
※)キーエンスなんかは代表例になるでしょう。

No.1とかオンリーワンを目指すべきだというお話もあるにはあるのですが・・・それは、企業単位のお話です。

国レベルで考えた場合、製造業というのは全産業の中で縁の下の力持ちに該当する分野です。
身の回りを見渡してもらえばわかりますが・・・
スマホ、パソコン、エアコン、照明、冷蔵庫、キッチン、床、壁、天井、自動車、バイク、自転車等々。
製造業がものづくりを行なわなかったら、何一つ揃わないです。
基本、ありふれたもの、日常に良くあるものを作るのが製造業のベースなのです。

つまり、国家レベルで考えた場合には、付加価値の高い製造から付加価値の低い製造まで、フルラインナップで供給網が構築されていないといけないのです。
※)円高で海外製品を買えば済むという発想もありますが、コロナや戦争で、グローバリズムが脆弱であることが白日の下にさらされました。
国単位で考える場合、フルラインナップで一定量は賄えないと厳しいということを各国が理解し始めたのです。

ところが、モノづくりの町として有名な大田区や東大阪市の衰退ぶりを見てみると、相当に深刻だということが分かります。
ここ30年ぐらいの間で、製造業が半分に減ったと言われています。

生き残っているところは、他社より多少高効率であるとか、特殊なものに特化しているとか、自社製品を開発したとか、大手企業とのパイプが太いところです。
つまり、付加価値の低い製造を請け負ってくれていた縁の下の力持ち分野の町工場が激減したということです。

その結果として、付加価値の低いパーツを輸入に頼るようになってきているわけです。
円高基調に合わせて産業構造がシフトしてきたわけです。

そこに、円安が訪れた。
中国との関係性悪化から、調達が難しくなった。

結果、構成部品の仕入れが困難になったり、価格が高騰したりするようになりました。
せっかくの円安基調なのですが、これまで国内供給網をズタズタに破壊してきたものだから、日本国内では供給してくれる会社がいない。
今更、付加価値の低い案件に設備投資してもなあということで、どこも二の足を踏む状態です。

その結果、円安という追い風を生かしきれずにいる。

これが、今の日本の状態です。
30年かけて破壊したものをすぐに回復させるのは無理でしょう。

ということで、手っ取り早く、日銀が金利を引き上げることで、円安を抑え、円高基調にすべきたという論が台頭してくるわけです。

金利引き上げで、ある程度の効果は期待できると思います。

でも、日本経済はどうなるでしょうか?

ここで金利を引き上げれば、景気は悪化し、再開発ブームの終焉が早まる可能性があります。

下記にもありますが、

建築土木関連が圧倒的に有効求人倍率が高いのです。

理由は簡単で、元々、老朽化や耐震強度基準の見直し等で建替え需要が高まっていたところに、金融緩和による低金利時代が重なったことで、空前の再開発ブームになったからです。
このため、都心部に人が集中し、需要が増大。好景気循環が生まれました。
大阪と比べると東京の好景気っぷりは段違いです。
そこに、度重なる激甚災害からの復興需要や、東京五輪まで加わったのですから、建築土木業界が人手不足になるのは当たり前なのです。

ただ、再開発もかなり進みました。
大阪でも万博・IR・モノレールを除けば、さほどの大事業は聞こえてきません。
金利に関わらず、2030年以降、再開発ブームは縮小するのではないでしょうか?
可能性があるとすれば、マンションの老朽化に伴う高層化での建て直し需要でしょうね。
この辺り、法改正で容積率UP等の規制緩和があれば一斉に動きが出る可能性もあります。
その反面、人口減が影響し、思ったほどのブームにはならない可能性もありますが・・・

いずれにせよ、金利の引き上げで、建築ブームに冷や水が浴びせられるのは間違いがないです。
そして、住宅ローン破綻が増えるでしょう。
企業の融資焦げ付きも考えられます。
信用保証協会や、金融機関のBS棄損が進むと考えられますので、しばらくの間は、貸し渋りや貸しはがしが横行し、想定以上に倒産件数が増えると思われます。
そうなると、失業者や、生活保護受給世帯が増えます。
失業から始まる住宅ローン破綻も深刻化することになり、事態の鎮静化には時間がかかると思われます。

以上のことから、

日銀が金利を上昇させると・・・

一時的に円高に振れることになりますが、
消費者物価への還元は限定的にとどまり、不況への突入から庶民生活は厳しくなると想定されます。

景気が冷え込み、企業業績が悪化し、失業者が増えますと、日本のファンダメンタルズはボロボロになりますので、

円安へまっしぐら

となります。

何のことはありません。

日銀が金利を引き上げると時間をかけて円安になるだけです。

最終的にはスタグフレーションに陥るでしょう。

人口減少社会で、通貨を安定させるのは、外貨を稼ぐ力を構築しておかねばなりません。
資源大国であれば、資源の輸出で何とかできますが、資源がない日本では、そんなことは期待できません。
※)海底資源を低コストで採掘出来れば話は別ですが・・・

人口が減少しても外貨を稼げる可能性があるのは、IT産業金融業になります。
ところが、これらの産業は、受け皿が小さすぎますので、雇用人数が伸びません。
ある程度の人数を雇用可能なのは、製造業になってきます。

結果、国レベルで動くべきなのは、緩やかな円安にとどめつつ、日本製造業を復活させることになるわけです。

米国が製造業への国内回帰に舵を切った理由は、安全保障と雇用の拡大が大きな理由とされています。
ですが、近年、別の副次効果が指摘されています。
それは、ものづくりは現場が大事だということです。
ハーバード・ビジネス・スクールやコロラド大学の研究で、開発拠点と製造拠点を近隣に配置し、相互交流を行なうことで、

イノベーションの発現確率が飛躍的に高まった

という研究結果が報告されたからです。
日本も製造拠点が海外移転して以降、めっきりイノベーションが減りました。

円安は庶民生活に打撃を与え続けています。
それは事実です。
事実なんですが、ここは短期的視点ではなく長期的視点で、国策が遂行されることを望みます。

しがないオッサンにサポートが頂けるとは、思ってはおりませんが、万が一、サポートして頂くようなことがあれば、研究用書籍の購入費に充当させて頂きます。