神田松之丞改メ神田伯山襲名披露興行を観てきた

もう1週間ちかく経ってしまいましたが、2月18日に新宿末広亭にて神田松之丞改め神田伯山襲名披露興行を観てきました。2月11日に真打ち昇進とともに神田伯山という大名跡をつぐことになった松之丞さん(もう今は伯山さんですが)、襲名前から彼の舞台のチケットはなかなか取れないという状況になっていたので、襲名披露興行も観ることは無理かな、と思っていたのです。でも、18日仕事帰りにTwitterをみていたら、末広亭さんのツイートで「立見だったら今からでも入れますよ」というのを見かけ、慌てて、新宿で途中下車して末広亭に向かったのでした。で、どうにか間に合いまして、入場することができ、無事、真打ち昇進、伯山襲名の口上に立ち会えた訳です。

私が彼を知ったのは、3年前に始まったTBSラジオの番組「問わず語りの松之丞」を偶然に聴いてまして、彼の話芸の面白さに夢中になり、それからは毎週彼のラジオ番組を聴くようになったのです。その時既に「チケットの取れない講談師」という方だったのですが、それでもまだ演芸好きの方の中では有名、っていう印象でした。でもこの3年の間にさらに知名度はあがり、テレビにも出るようになり、ますますチケットが取れない講談師という状況に拍車がかかった訳です。

私は松之丞さん時代に2回ほど生の舞台での講談を観ることができたのですが、迫力と熱量にとにかく圧倒された、という印象でした。でも、もともと落語家をめざしていたこともあって、枕の話とかもとても面白いんですね。その後、シリアスな展開の講談になるとスッとスイッチが入り、面白いギャグをついさっきまで言ってた人とは別人と思うくらいに空気を変えてしまう方だな、と思ったのです。

ちょっと説明が長くなりましたが、彼の真打ち昇進、伯山襲名は講談の世界ではもちろん演芸の世界でも喜ばしく大きなニュースとして伝えられたので、これは襲名披露の熱が落ちつくまでは、伯山さんの舞台を生でみるのは無理だろうとはなから諦めていたのです。そこで18日に末広亭さんのツイートをみた訳ですから、これは行かない手はない!と思いかけつけました。

途中入場でしたので、既に5番目の出番の方から観ることができたのですが、それでも寄席でみる演芸の醍醐味を味わえることができて良かったです。伯山さんの姉弟子の方である阿久鯉さん、落語家の桂文治さん、春風亭柳橋さん、三遊亭小遊三さんの席を観て、そしてお中入りの後に披露口上がはじまったのです。この披露興行では日替わりゲストの方がいらっしゃってたのですが、18日は桂文珍師匠。飄々とした面白味のある口上を披露されていました。三本締めをやって、その後は文珍師匠の噺へ。関東の落語とはまた色が違う、シュールで不思議だけれど、締めるところは締めるという素晴らしい噺をきかせてくれました。

そして伯山さんの師匠の神田松鯉さんの講談へ。人間国宝でもある松鯉さんですが、とても物腰の柔らかくそして包容力のある語り口での講談を披露してくれました。とにかく愛弟子の伯山さんの襲名披露が嬉しいというのも感じとれた気がします。

曲芸のボンボンブラザースさんの出番をはさんで(これも円熟の芸で良かった!)トリはいよいよ神田伯山の講談に。

ギャグをおりまぜた笑わせる枕にはじまって会場をどっとわかせた後、今日話すのはなんだろう?と思ったら、赤穂義士伝より「南部坂雪の別れ」。伯山さんが「赤穂義士伝は、『忠義、愛国』の話と言われていますが、実は『別れ』の話なんです」とはじめ、その瞬間にさっきまで笑いにつつまれていた末広亭は急にシーンと静まりだしたのです。大石内蔵助と瑤泉院(浅野内匠頭の正室、阿久里)の最後の対面の話でして、討ち入りに向かう前日に瑤泉院に会いに行った内蔵助が、討ち入りを成功させるために主君の奥方に辛い思いをして嘘をつく、そして今生の別れとなる、赤穂義士伝でももっとも重要なシーンとなる話でした。話の語り部、登場人物の演じ分けどれも役が憑依したかのような迫力に私を含めた客席の人たちはどんどんひきこまれ、シーンとしていました。天才といわれている伯山さんですが、稽古、観察、寄席や独演会で培った経験値を全て咀嚼したんだろう、その全てが凝縮された一席でした。

松之丞時代に観た時は、迫力のほうを強く感じましたが、久しぶりに、そして伯山になった彼の講談は抑揚も素晴らしく、そして色気も増して、大きな進化をとげ、今後の講談界、演芸、寄席を引っ張る人だなと、改めて実感しました。
今後の彼の活躍にますます目が話せない、と思いました。

最後はスタンディングオベーションで終わりとなり、お客さんが退場しはじめたその時、楽屋から三本締めをしているのがきこえ、末広亭をでたお客さんも一緒に三本締めをして、夜の新宿を後にしたのでした。3時間立ちっぱなしだったけど、とても贅沢な時間を味わえて良かった。

伯山襲名披露興行は4月の初めまで続きます。
私も寄席の魅力にはまりましたので、神田伯山さんの舞台だけでなくいろんな芸を観にいきたいと思いました。
少々長文になりましたが、おつきあいくださいましてありがとうございました。


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