誰が為の歴史改変

 高架下での戦い。
 その決着は一瞬だった。倉持恵の抜き放った一閃が弾丸を切り裂き、魂魄兵装もろとも敵を両断する。
 鮮血が吹き上がる――倉持廻は身構えたが、そうはならなかった。

「やってくれたな狗。だが、覚えておけ」

 代わりに吹き出したのは光。白く淡い、神秘的な輝き。敵の男は粒子と化す身体に頓着することなく言葉を続ける。

「我らクロノスは、無限。すべては……」

 捨て台詞を言い終えぬうちに、男は一切の痕跡を残さずして消滅した。そんな敵の散りように、恵は苦笑する。

「覚えとけって言われても……さっきの奴の顔、思い出せる?」

 廻は首を振った。さっきまでそこに誰かいた――はずだ。だが、顔はおろか性別すら思い出せない。
 いや、そもそも。本当にいたのか?

「これが、時間旅行者が元の時代に帰る、ということ」

 恵が言う。喫茶店のテラス席に座り、スプーンで黒蜜きなこパフェをつつきながら、ため息。向かいに座る廻は疑問符を浮かべた。

「これがって、なにが?」

 恵は無視して話を続ける。

「本来この時代に存在しない私たちは、存在のアンカーたる魂魄兵装を喪失すれば、いないものに戻り、歴史は修正される。……きっと、私がこんな話をしてるってことは今し方誰かを斬ったんだろうねぇ」
「斬ったって、誰を?」
「クロノスの連中とか? いわゆる時間テロリスト。時間旅行に伴う一時的な歴史改変じゃない、恒久的歴史改変を目論む危険な奴ら」
「……ん? でもそれ、おかしくないか? だって時間旅行者が元の時代に帰れば、歴史は元に戻るんだろ?」

 なら、歴史改変のしようがない。
 悩ましげな顔で恵は首肯する。

「そのはず、なんだけどねえ。クロノスの連中どころか、時空保安局の局長たちでさえ『できる』って確信してる。だからこそ、私はここにいるわけで」

 時空保安官はそこで言葉を区切る。道路側。銃口がこちらに向いていた。

「久しいな、狗」

 銃弾が放たれる。

【続く】

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