読書記:ザ・ムーン(ジョージ秋山 サンコミックス)

ジョージ秋山は、「浮浪雲」等、社会課題をテーマにした漫画を数多く輩出している(ちなみに「浮浪雲」は大学受験問題で取り上げられたこともある)。
「ザ・ムーン」もさまざまな社会課題を示し、そのストーリーはある意味救いのない締めくくりとも言える作品である。
その主たる内容も考察に値する点が多数あるが、この作品で私が常に気になるのは、登場人物の中で「糞虫」という存在である。
「糞虫」はストーリーの中ではあくまで脇役である。
彼の活躍が注目点ではなく、彼の生き方が、現代風に言えば、究極のペイフォワード(恩送り)型ということである。
彼の貢献(主人公たる少年少々達を護衛する)が彼に直接リターンすることがないばかりか、むしろ罰として表現される(主人である魔魔男爵から受ける褒美は土下座の状態でゴルフクラブで叩かれることである。
魔魔男爵、彼はとてつもない大富豪で、この「ザ・ムーン」というとてつもないテクノロジーの塊でありながら使い勝手が最高に悪い巨大ロボットを金にまかせて作った男である。
糞虫が魔魔男爵の前に現れると常になされるやりとり、

魔魔男爵「お前はなんだ?!」
糞虫「はーっ、糞にございます」
魔魔男爵「糞とは何だ?!」
糞虫「はーっ、この世で一番汚いものにございます」
その後、魔魔男爵は土下座している糞虫の背中をゴルフクラブで打ち付ける。
糞虫は「ありがとうございます」とこたえる。

が、糞虫の人となりをあらわしている。
糞虫は基本姿勢が土下座であり、戦っている敵の前でも土下座の姿勢から攻撃をするスタイルである。

糞虫の貢献は大変なものであるにまかかわらず、報酬はゴルフクラブで叩かれることである。
ギブアンドテイクといったものは存在しない、自らを極めて低く位置付ける生き方なのである。
これほどのペイフォワードがあろうかという話であるが、実は自他同一的真実がここにあるのではないかと考えている。

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