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140字小説まとめ Vol.2

Twitterでちまちま書いている140字小説のまとめのVol.2。はじめは、2021年7月~10月にかけて書いた分をひとつの記事にしようと思ったが、あまりに長すぎたので50作ずつに分割することにする。

Vol.3はこちら

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落とし穴

大地震による地盤沈下のせいで日本は穴だらけになった。道を歩いていたら、突然、アスファルトが陥没して地の底に落ちる事故が相次いだ。
「あーーー」
穴に落ちた者は遠ざかる空に絶望し
「あ、ああ…」
地球の中心で無重力を味わい、意外と心地よい浮遊感と引き換えにブラジルへ到達する希望を失う。

さもありなん

「仙台と遠距離してるんだけどさ」
新橋の居酒屋で、アプリでマッチングした女に愚痴を聞かされる。
「彼、浮気してたんだよね。ひどくない」
さもありなん、と頷ぎながら夜を迎え、朝に別れる。
「どんな女?」大学の講義中、友人は聞く。少しだけ考えたあと「エロいTバックはいてた」と僕は答える。

ロック

路上でギターをかき鳴らしていると、おっさんから名刺を渡された。「興味あったら遊びにきてよ」音楽プロダクションの肩書。「はあ、恐縮です」と言いながら僕は名刺をくしゃくしゃに丸めて、ごくん、と飲み込んだ。呆気に取られるおっさんを尻目に、僕はロックを歌い、サビに入る前にトイレへ走った。

しりとり

「ゴリラ」
「ラッパ」
「パセリ」
「陸」
バカめ、それは悪手だ。
「栗」
相手の目の色が変わる。ただ者ではないと察したのだろう。
「リス」
「スリ」
相手がほくそ笑む。
「料理」
なっ、と思ったが俺は慌てない。
「両隣」
「リカバリ」
「リスク管理」
東京ドームの観衆からざわめきが消えた。

ふしぎなキャビネット

ポケットの中にはキャビネットが一つ。叩いてみるたびキャビネットは増える。僕はズボンを脱いで洗濯機に入れる。洗濯槽の中でポケットがぐるぐる叩かれる。蓋を開けるとキャビネットが溢れ出る。二階にいた母親は、突然、迫りくるキャビネットの波に尻餅をつき、尻ポケット中のキャビネットが増える。

ゴールデンナイト

「夜の保健室と同じ理屈でさ、頭に『夜の』を付ければエロくなるようにゴールデンを付けたら特別感が増すと思うんだ」
「タイム、ウィーク。たしかに」
「でも、ゴールデン保険室はエロくない」
はっ、とする。
「つまり、夜とゴールデンの共通因数が…」
友人は大きく頷く。
「エロくて特別な概念だ」

無理ゲー

「過去に戻れる能力、ね」
「はい、その男が主人公で姉を殺した犯人を追うミステリです」
「探偵役は」
「姉です。つまり、かまいたちの夜の小説版です。犯人が見つかるまで、何度も過去に戻ってやり直す話です」
「犯人は」
「もちろん、姉です」
「ふうん…。悪くないけど、それ140字で書けるの?」

ノックの音が

ぎょっとした。
ドンドンドン、と真夜中にノックの音。俺はおそるおそるドアスコープを覗く。
外には、顔を真っ赤にしたおっさん。足はフラフラで今にも倒れそう。
「ただの酔っ払いだ」
「もう、驚かせないでよ」
彼女と笑っていると、ガムテープで縛られた男が叫ぶ。
「出てけよ、俺の部屋だぞ!」

10回クイズ

「なあ、ピザって十回言ってよ」
「ヒジ」
「え。あ、じゃあ、金太郎って…」
「亀をいじめたのは、村の子供たち」
「み、みりん」
「鼻が長いのは像! ねえ、分かったでしょ。私は絶対に騙されない。だから、もうここから出してよ」
鉄格子を思いきり叩くと、女は涙交じりに言った。
「ピザ、ピザ…」

門前仲町の日常

「あ、どうぞ」
お婆さんがいたので、男は立ち上がる。
「は?」お婆さんは眉間にしわを寄せる「あたし、まだ若いんだけど」中指を立てる。
「は? こっちは善意でやってるんだけど」男も中指を立てる。一触即発の空気に、誰かが車内非常ボタンを押す。午前八時。東西線は、今日もふいに停車する。

緑色の思い出

公園で遊んでいると、誰かの思い出が飛んできた。「食べてごらん」とパパが言うのでピンク色のそれを口に運ぶ。
「苦い」
思わず目をつぶる。
「じゃあ、あまり、いい思い出じゃ、ないんだね…」
とだんだんと声が遠くなり、目を開けると緑色の思い出が風に流されていた。苦くないと、いいんだけど。

仕事はできる男

「どうして、旦那さんを殺したんですか」
推理を終え、老年の巡査長が犯人の女に問う。
「遺産、ですか?」
首を振る。
「不倫?」
首を振る。
「DV?」
女は首を振り、答えようとしたが「あ、溜まった不満が爆発した感じだ?」と刑事は笑いながら言う。彼が出世しない理由を部下はなんとなく悟る。

JR東海

「京都、行こう」
CMの影響か、五歳の息子がそればかり言うようになった。いただきますの代わりに「京都行こう」。おやすみなさいの返事も「京都行こう」。
親として注意はしたいのだが、息子が締めも完璧に真似るせいでなかなか言い出せない。
「じぇいあーる、とうかいっ」
なんという、心地よさ。

スポーツを始める理由

ああ、そんな…、と膝から崩れ落ちる。気になっていた同僚がインスタにゴルフの写真を上げている。若い女がゴルフを始める理由は一つ。男ができたのだ。
嫉妬で狂いそうだったが、翌週にはフットサル。その翌週も『#ボルダリング初挑戦』と投稿していてほっとした。
どうやら、出会いに必死のようだ。

東京特許許可局

ついに、東京特許許可局もフルリモートになった。
当然、窓口業務は廃止。特許の出願人はWebから申し込み、国産のクラウト型会議システムによる質疑応答で審査される運用に変わった。
ただ、問題は2つある。多くの行政機関ではリモート化が浸透していないことと、東京特許許可局など存在しないことだ。

モーニングルーティン

起床。用を足す。顔を洗う。歯を磨く。牛乳を飲む。テレビを見る。タバコを吸う。服を脱ぐ。汗拭きシートで体を拭く。寝癖を直す。タバコを吸う。ワックスを付ける。家を出る。電車に乗る。会社に着く。コンビニに行く。タバコを吸う。オフィスに入る。同僚が悲鳴を上げる。
「なんで、全裸!?」

トゥーン(前編)

「お疲れ」
空を歩いてたら、突然、男がフォン。不審に思いながらもラボると「いままでありがとう」と違う女からフィード。戸惑っていると「お疲れ様」と一気に人がグルってきて地上に降りた。
どうやら世間にはバレていたらしい。俺がスマホの発案者だということを(照れくさいんで、過去へトゥーン)

トゥーン(後編)

「過去へトゥーンって何?」
昨日のツイートに同僚がケチをつける。
「いや、知らんけど」
「どいうこと?」
ため息が出る。
「あのさ、これ未来の話やん。三十年前の人にリプの意味聞いたって分からんやろ。それと同じったい。スマホがなくなる頃には過去へトゥーンできると」
「え、生まれは博多?」

腐ったジントニック

一年前に賞味期限の切れたライムジュースで作ったジントニックを嗅いだが、存外に普通で、変な味もしなかったので、その夜、はじめて自宅に招いた女に飲ませたら女は「暑い」と言って服を脱ぎ出したら話が早いのになあ、と腐ったジントニックを飲みながら書いている、と呟いた知人が、翌日、死んだ。

風が吹けば

風が吹けば砂が舞い上がり、砂が目に入り、目が悪くなる人が増え、メガネをかける女が増える。女は忘れっぽい生き物だから、メガネを家に取りに戻って「遅刻~」と転校初日から走って登校していると曲がり角で俺とぶつかり「どこ見て歩いてんのよ!」とフラグが立ち、なんやかんやあって桶屋が儲かる。

俺があいつであいつが関取で:第7回カクタノ140字小説コンテスト投稿

俺があいつで、あいつが関取になった。三叉路でぶつかった衝撃で三人の人格が入れ替わった。
あれから十年――俺は、年老いたあいつの人生を引き継ぎ、刑事として定年まで勤めた。あいつも相撲の道で生きる覚悟を決め、ついに横綱に昇進した。関取は、過去に犯した俺の罪のせいでいまも刑務所にいる。

イメージ過剰

「強迫性障害の一種です」あさっての方を見ながら医者は言う「女優業は休んだ方がいいですな」
言われるまでも…、と怒鳴りそうになるがぐっと飲み込む。
「ここにカメラはないんだから」医者はため息をつく。「透明感のある自分を演じる必要はないんです。そういうとこですよ。透明人間になったのは」

日常

「凄いね。毎日、小説投稿。よくアイデア出てくるね」
「簡単だよ。大半は、実際に見たことを書いてるだけ」
「え、だって…」女は眉をひそめて「半分はオチで人が死んでない?」
「あはは。それは作り話だよ」
「でも、もう半分は宇宙人が出てくるんだけど…」女は後ずさる。「いつからバレてたの?」

電池

「午前七時頃、走行中のトラックから火が出て、荷台に積まれていた大量の、で、電池が、炎上しました。火はすぐに消し止められ、けが人はいませんでした。トラックの荷台にはドラム缶が、ろ、六缶、積まれていて、ぶっ、な、中には、ぷ、ぷぷ、は、廃棄する、で、で、でんち…」

伝説の木の下

僕の高校には伝説がある。校庭の木の下で告白したカップルは永遠に結ばれる――と。しかし、校舎の改築でその木は撤去された。
「いたぞ、あそこだ!」
「捕まえろ」
おかげで僕は全校生徒から追われ、屋上の避雷針に括りつけられた。それから、生徒は僕のことを「屋上の木下」と呼ぶ。そして、伝説へ。

14小節

「あるところに三人の怪人がいました。彼らの名前はベソー。ドレドベ。ドーソベーラ。さて」
「ショパンのノクターン、変ホ長調」と問題の途中で曲名を答える。
「正解。第2小節から3小節の主旋律でしたね」
ふん、楽勝だと思っていたら
「では第14小節の怪人は?」
唾を飲む。ヤ〇ハの試験は狂気だ。

27日の金曜日

「逃げて!」
私は悲鳴を上げる。しかし、アイスホッケーのマスクをつけた男は歩みを止めない。
「やだ、だめ…」
のそ、のそ、と大柄な男が近づく。右手には凶器が握られている。
「なにしてるの、早く!」
しかし、私の声は届かない。もうダメだ。いまに、あなたの背後にいる男が斧を振り降ろす。

忍者学校

昼休み。下駄箱を開けて上履きに履き替える。
「痛ッ」
足の裏に激痛。見ると、上履きの中にマキビシ…。
くそ、と思っていると後ろから風切り音が聞こえ、とっさに首を傾ける。手裏剣が二枚、下駄箱に突き刺さる。僕はすぐに先生に泣きつき、その日の帰りの会は先生が職員室に籠城する騒ぎとなった。

ゴリラ営業

「金額、もう少し下げられないかな」
「いやあ、これ以上は厳しいですね…」
「ウホッ、ウホホ」
僕は思い切って聞いた。
「ぶっちゃけ、予算いくらですか?」
「…3000」
「ウホ」
「分かりました。それなら…」
と交渉は無事にまとまった。やはり、ゴリラを営業同行させて良かった。強気でいける。

いつでも探している

「いつでも探しているよ」
カラオケで熱唱する。
「向かいのホーム、路地裏の窓。こんなとこにいるはずもないのに…」
歌い終わると周りから拍手を浴びた。
「元カノでも思い出したのか」
「そんなんじゃないよ。ただ、ほんとに、消えちゃったなと思って…」
「誰が」
唇が震えた。
「ウォーリー」

白い煙

「コロナに感染したら、特別休暇がもらえる会社もあるみたいだな」
喫煙所で、同僚が遠い目をする。
「時給換算したら、コンビニバイトよりも賃金が低い弊社もあるけどな」
ふう、と僕は煙を吐き出す。
「ホワイト企業って、真っ白すぎて、俺たちには見えないのかな」
笑いすぎて、涙と、咳が出た。

ペーパーレスの罠

「明日の打ち合わせだけどさ、資料って何部、印刷したらいいと思う?」
いやいや、と同僚に苦言を呈す。
「お客さんには、事前にメールで送付してるじゃん。スクリーンにも投影するし、0でいいでしょ」
「そうだな。ちなみに、この質問から、あなたの経験人数が分かります」
「ちょっと待て」

ブロッコリー

ひょんなことから、ブロッコリーに命を狙われた。緑の大群に追われる。夜の街を逃げまどう。
「こっちよ!」
路地の先にハイエース。ブロッコリーの追撃をかわし、死に物狂いで車に飛び込む。
「ふふふ」
運転席を見て、背筋が凍る。
「お前は…」
笑い声が大きくなる。
「ご明察。カリフラワーよ」

名医

「機内にお医者様はいらっしゃいますか」
私は席を立ち、突然、昏睡したという男を診る。原因は明白だったので、対処療法ですぐに意識は回復した。
「あなたは命の恩人です」男に感激される。「なんて名医だ!」
「それほどでも…」あまりの賞賛に気持ちよくなる。「ちなみに、余命は一ヵ月ですんで」

#ハッシュタグ小説

#このタグを見た人はハッシュタグだけで140字小説を書けというネタが浮かんだがいざ書き始めると読点も句点も使えないことを知り途方に暮れながらも懸命に物語を書いてたらタグは最大100文字と知って絶望した

「…で、結局どうしたの?」
肩をすくめる。
「叙述トリックに逃げたよ。ごらんの有様さ」

シュミレーション

「バイト決まったけど、接客初めてだから不安なんだよな」
「じゃあ、練習するか。俺、客な」
「え?」
「シュミレーションだよ。いまから俺が客するから、店員として応対してみろよ。ウィーン」
「う、うぃん?」
「自動ドアだろ。あの、予約してないんすけど、四人入れますか」
「え、いや…、え?」

自己PR

「では、自己PRをして下さい」
「はい。院では人工知能の研究をしており、御社のAI事業と合致した専門性を有しています。また、必殺技として流星群が使えます」
ん、と面接官は眉を寄せるが「威力は130で、タイプ一致のため…」とカイリューは続ける。優秀ではあるが、人である前に、彼はドラゴンだ。

ルーツ

宮部みゆきの『レベル7』で夜を忘れ、『ブギーポップは笑わない』で目が回り『クレヨン王国の十二か月』で不思議な旅に出て『おしいれのぼうけん』で小便を漏らしながら『ぐりとぐら』のカステラに憧れた、32年。
ずいぶん、歳を取ったものだ。

そう、呟いた翌日。姉からLINE。
「あんた、36でしょ」

人脈自慢

彼氏と花見。いい人だが、人脈の広さをアピールしてくるのがたまに傷だ。
「昨日の雨で、ほとんど桜散ってるね」
「あー、任せて。知り合いに頼んでみっから」
彼氏は電話をかけ「来てくれるって」と笑う。
「誰が」
「ん」髪をかき上げながら「はなさかじいさんだけど?」
ドヤ顔が、鼻につく。

ふゆのしたく

「ロン。メンピン三色、ドラドラ」
東一局からリスが跳満。振り込んだハリネズミは苦悶の表情でドングリを渡します。
次局。捨配から、熊が大物手を狙っていることに皆は気付きます。
「ロン、発のみ」
鹿が安手で上がり、熊の咆哮が木々を揺らします。冬の食料をかけた麻雀。森の動物たちは必死です。

誤解

「くそ…」というひとり言が「臭いならそう言えよ!」
怒声に変わった。部屋の掃除をしていたら、突然、同棲中の彼が声を荒げた。
「な、なにが」
「気付いてんだよ」彼は泣きそうな顔で「さりげなく、ファブリーズを俺にかけんなよ!」
「誤解よ…」私はしどろもどろに「よく見て。これ、リセッシュ」

時限爆弾

時限爆弾のタイマーが残り一分を切った。動悸が止まらない。起爆装置から二本のリード線。赤か、青か。
三十秒。赤い線を切る。爆発はしない。ほっとするが、タイマーも止まらない。
バカな。青い線も切る。十秒。そんな、止まらない。八、七…。
「騙したな!」
遠く離れたビルから、大勢の笑い声。

値引きの理由

「店長、呼んでこい!」
メンズのネイルサロンに客の怒声が響く。
「なんかミスった?」
バックヤードで従業員に聞くが、首を振る。
「でも、お会計してたら、一割、まけろって…」
「なんだそれ。よし、ガツンと言ってくる」
「あ、気を付けて…」従業員は怯えた声で「その人、小指がないです」

剣道

剣道の技の発声にルールはない。「メーン」でも「キエエエ」でも何でもいいが、どこまでセーフなのか気になった。
「ンラダバ」
と試合で面を打つ。一本。ま、当然だろう。
「バンクァイ」
一本。
「ウロォアソウル」
一本。
「チョッギプリィィィ」
審判員が協議。なるほど、トゲピーはもめるようだ。

特濃相対性理論

光速で移動するロケットに、賞味期限が三日の牛乳を載せて宇宙へ飛ばした。
三日後、ロケットは帰還した。相対的に、牛乳は0.3日しか経っていないので、まだ新鮮のはず。
しかし…、驚くべきことが起きた!
容器の中から液体は消失していたのだ。新発見だ。
相対性理論において、牛乳はバターになる。

エレベーター

夜。八階建てのマンションのオートロックを開ける。エレベーターに乗り最上階を押す。途中、五階で止まる。誰もいない。不審に思いながらも閉じるボタンを押す。恐怖に気付いたときには、エレベーターは上昇している。
残りは六、七、八。確率は三分の一。五階で△のボタンを押した人がどこかにいる。

三月のフローリング

引越しの荷出しが終わり、空っぽの部屋で彼女と交わる。フローリングの冷たさなどすぐに忘れる。一時のお別れにむけて何度もしてしまう。
空港へ向かう。二人で保安検査場の列に並び、僕だけが入口へ進む。遠い人混みに何度も手を振る。
東京で、数年が経つ。三月の床の冷たさを、ときどき思い出す。

オレダレ詐欺

「あ、母さん。俺だけど」
「はい」
「いま自分を見失っててさ。会社なんかやめて、世界中を旅して自分が何者なのか、何をしたいのかを知りたいんだ。ただ、それにはお金がなくて…」
「まあ、落ち着いて。一度、家に帰ってきなさい」
「俺って、誰だろう…」
詐欺であってくれ、と母親は頭を抱えた。

なぞなぞ尋問

「フライパンはパンでも、食べられないん、だよな?」
「え…、ああ、そうだね」
「上が洪水で、お風呂だとしたら、下は大火事だよな?」
「う、うん」
「パパイヤは父さんだから嫌いなんだよな?」
「だと、思うよ」
言いながら、手汗が出てくる。浮気がばれたのだろうか。何かに誘導されている。

膝のおっさん

ジョギング中、前のめりに転ぶ。たぶん、小学生ぶりに膝を擦りむく。
「よう」
ぎょっとした。傷口から話しかけてくる者がいた。
「お前、大きくなったなあ」
豆粒ほどのおっさんが微笑み「じゃ、仕事戻る」とすぐに引っ込んだ。
ばい菌と闘っているのだろうか。おりゃっ、という声が膝から聞こえた。


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