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1億円の低カロリー

「この鞄にありったけの金を詰めろ!」
パン、と天井にむけて銃を撃つ。銀行の支店長をおどし、金庫から一億円を奪う。裏口から出て、すぐにアジトに戻る。四畳半の畳に鞄の中身をぶちまける。札束の海にダイブして一万円札の水しぶきを浴びる。
「Take Your Marks」
と脳内で聞こえる。
すぐに立ち上がりスタートの姿勢をとる。「プッ」と機械音が鳴り、再度、札束に飛び込む。スタートは上々。第二レーンを先頭で泳ぐ。押し入れにタッチ、クイックターン。バタフライから背泳ぎに移る。
個人メドレーは過酷だ。エネルギーを補給するため、息継ぎのたびに一万円札を食べる。ただ、紙幣のカロリーはたかがしれている。スピードが徐々に落ちてきて、第四レーンから猛追される。なりふり構ってはいられない。平泳ぎではずっと口をあけラストのクロールも一万円札をバキュームのように吸い込む。戦略がはまり、見事にトップでゴールするが、なぜだろう。一億円が消えている。

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