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しゃべるピアノ

宮崎県の方言では「すべる」を「しゃべる」という。
雨でしゃべりやすくなった道、しゃべりどめの大学という具合だ。かわりに、しゃべるは「かたる」というので、地元でこの方言を意識することはないが困ったことがひとつある。宮崎には、全国的にも有名な音楽大学があり、県外からの進学者が殺到しているのだ。
「あのピアノ、ようしゃべらん?」
と地元の同級生にきかれ、言葉を失う学生がそこかしこにいた。
ピアノがすべるとは、鍵盤のタッチが軽くて流れるように弾ける、というピアノをたしなむ人にとっては一般的な用語だ。しかし、県外の学生はそのままの意味で受け取ってしまい「私には、ピアノの声が聞こえない……」と宮崎県民のあまりの感性の豊かさに自信を失い、中退する者が続出した、というのは、すまない、さすがに嘘だ。そのような事例はない。また、ピアノがすべるという表現もないし、すべるを「しゃべる」と言い換える方言もない。そして、宮崎に音大はない。

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