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村田雨月の幸せ

※この記事は、映画「ギヴン」の登場人物村田雨月に対する想いを綴ったものです。映画のネタバレが有ります。

村田雨月に幸せになって欲しかったと思う。
映画を観て、同じように思った人は多いのではないだろうか。
秋彦を振り返った時の泣き顔は本当に悲しそうで、秋彦と別れることがとても辛くて痛いのだと伝わってきた。それなのに、雨月は結局その感情のままに秋彦を引き留めることはしなかった。
それが雨月の優しさなんだろうが、見てる側としてはどうしてももどかしく感じてしまう。
もっと早く素直に感情を伝えられていれば別の未来があったのではないかと。

しかし、雨月がもし自分の感情に素直になり秋彦に想いを伝えたとして、本当に2人は幸せになれたのだろうか?

相性の良い恋人


回想によると、2人は恋人時代とても上手くやれていたと思う。
紅葉の中で笑う雨月を見た時、彼はこんな無邪気な顔で笑えるのかと素直に驚いた。
人間の村田雨月にとって、秋彦はおそらく最高のパートナーだった。一緒にいると暖かくて幸せで、簡単に言えば相性がとても良い。


マグカップのシーンなんかは個人的にぐっときた。
これは私の持論だが、その人のダメな部分を、ダメと感じずに受け入れてくれる人が、その人にとっての相性のいい相手だと思う。
貰ったプレゼントを拒絶して壊すというのは、一般的に相手を傷つけ、怒らす行動だろう。
雨月は人一倍強い感受性を持つゆえに、そういう行動をしてしまう不安定さがある。そういう行動をされて、怒るどころか笑って片付けてくれる秋彦だから、雨月は安心して隣にいれたのではないだろうか。

人間であること、天才であること


ただ、天才の村田雨月にとっては、それこそが問題だったのだろう。
ただの人間である村田雨月を引き出してしまう秋彦は、天才の村田雨月の邪魔だった。
雨月は、秋彦を愛するのと同じように音楽を愛し、そして音楽に愛されていた。
音楽を捨てて生きていくことは出来なかった
ただの人間として愛される幸せを知ってなお、音楽を捨ててまでそれを掴むことは出来なかった。
だから、秋彦を振った。

しかし、自分から振ったにもかかわらず、完全に突き放すことは出来なかったのが雨月の弱さであり人間らしさだと思う。
雨月はただの人間ではなく天才であることを選んだけど、秋彦の前では、結局最後まで人間である自分を捨てきれなかった。
振っておきながら家から追い出すことはできないし、家を出ると言う秋彦に思わず反発してしまうし、離れていく秋彦を引き止めたくて振り向いてしまう。
雨月は、秋彦に愛された自分を捨てられなかった。自分では捨てられなかったから、他でもない秋彦に捨てて欲しかった。

もしもの世界


ではもし、雨月が音楽ではなく秋彦を選んでいたらどうなっていただろう。
雨月と秋彦はとても相性が良いが故に、2人だけで完結してしまって、外の世界を必要とせず内に篭ってしまうところがあると思う。あの地下室のように。
その狭い世界の中で、2人が音楽を続けていくことは、とても難しいと思う。
雨月は秋彦といるとただの人間になってしまうし、秋彦は雨月といると才能の差に打ちのめされてしまう。
2人が一緒に生きようと思ったら、2人とも音楽を捨てる必要がある。

しかし、2人は音楽を捨てた相手のことを、捨てる前と同じように愛することが出来るのだろうか
私は難しいと思う。
特に秋彦は、村田雨月に惚れたというより、村田雨月の才能に惚れたという面が強いように思う。
秋彦はセックスのシーンで雨月の手を辿り口に含んでいる。美しい音を奏でる手を。
おそらく秋彦は雨月の才能が妬ましく、同時にどうしようもなく魅せられ焦がれている。
秋彦は雨月のヴァイオリンを聴いて、その才能に音楽への夢や自信を一瞬にして砕かれてしまった。それは、秋彦の人生の中で1番の衝撃だったのではないだろうか。
その衝撃を与えた相手が雨月であるということと、その後愛した相手が雨月であるということは無関係ではないだろう。
秋彦は雨月の才能を愛していた。

秋彦は、ヴァイオリンを辞めた雨月を同じように愛せるのか?音楽よりも自分を選んでもらえて嬉しいなんて思えるか?
思えないが私の答えだ。
それに、雨月は例えヴァイオリンを一度辞めたとしても、絶対また弾き始めると思う。
音楽よりも秋彦を選ぶ選択肢なんて、本当は初めからなかったのだ。

終わりに


どれだけ相手のことが大好きでも、その気持ちだけではどうにもならないことがあるのが大人の恋愛の辛いところだ。
それでも、そんなどうにもならない恋愛でも、愛し愛された記憶は、心の背もたれになりその人のこれからを支えるから、決して無駄ではない
雨月と秋彦は道を違えたが、一緒に過ごした季節はなくならない。
全部背負って歩いていくのだ。
そして今度振り向くときは、手でも振って笑い合えたらいいな。



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