私のこれまで 12

家に居ることが多くなった兄は、私のとって邪魔以外の何物でもなかった。母が家に居るのは寝ている時くらい。何かあって起こしても不機嫌で取り合ってくれることはあまりない。私が学校から帰ると、「真美ちゃん着替えたらマッサージして。」と言われるが、やっているうちに寝てしまう。寝るまでマッサージを続けさせられるか、家事を思い出してやらされるかどちらかだ。マッサージをすると100円くれる。それが私のお小遣いだった。私の母は気分で家事をする。それでも夜の食事は用意してくれていた。が、気分が乗らないと洗濯もしない。してあったとしても、取り込んでたたみ、しまうのは私だ。それはお手伝いさんがいなくなった時から変わらない。家事は女の私がする事で、兄は何もしない。部屋が散らかっていたり、洗濯物がそのままになっていると、「この家に女はいないのか!」というのが母の口癖のようになっていた。そして、母を除くと私しかいないので、必然的に私が家事をしなければいけなくなる。家事もしない私は家の中では存在価値がないのだ。

転校して、私の学校生活は少し変わった。真面目に学校へ行くようになったのだ。家に居るより学校に行く方が楽だったからにすぎないのだけど。それでも、その頃はまだ学校へ行くことで何とか心の平均が保てていた。兄は引きこもりになり、部屋の襖を締め切って、私はテレビもろくに見られない生活になった。夜は母はいない。兄の天下だ。機嫌が悪ければ何か物が飛んで来たり、罵声を浴びせられる。何か気に入らないことがあれば殴られる。逃げ道なんてなかった。勉強していても邪魔される。音楽を聴きたくてもうるさいと言われ消されてしまう。段々とモヤモヤした物が蓄積されていく。日々積み重なっていくそのモヤモヤの解消法は見つからず、私は昼間学校にいる時だけが私の平穏な時間だと思っていた。この頃は夜遊びはしなくなっていた。学校が変わり、愛達と連絡を取る事が少なかったからだ。夏休みに入る終業式の日、一人の男子から「今日の夜7時、公園に一人で来て。」と言われた。「何で?」と聞いても答えずに「絶対来いよ。」とだけ言って、帰ってしまった。(なんなんだ???)と思いつつ、夜出掛ける格好の材料ができたと思った。そして、母に「夜、友達に呼ばれたから出掛けて来るね。」と言って、母が仕事に行った後で出掛けた。

公園に着き、辺りを見回してみる。誰もいない。住宅地の中にあるそんなに大きくない公園。誰かが来ればわかる所に座った。帰れば良かったのだろうが、私は1時間ほど待ってみた。結局呼び出した本人は来なかった。待っている1時間の間、私は(喧嘩売られるのか?何だ?集団でリンチとか?)と色々考えていたのに、来ないことで拍子抜けし家に帰ることにした。帰ろうと公園を出て歩いていると、「お姉ちゃん何してんの?」とどこからともなく男性の声がする。見回しても誰もいない。きょろきょろしているとまた、「こっちこっち。」と言われる。どこ?と探していると「上だよ!うーえ。」と言われ、声のする方を見上げると家の二階の窓から若い男性が3人こちらを見てニヤニヤしている。「待ってて、すぐ降りていくから。」と言われ、3人は本当にすぐに降りて外に出て来た。「こんな所でこんな時間に何してたの?」と聞かれ、素直に呼び出されてかなり待ったが相手が来なかったので帰る所だと説明した。男性の一人が「それならもう用事ないんよね?俺らと遊ぼうよ。」と言われた。「何して遊ぶの?」と聞くと、「とりあえず、それを考えるためにもう一度公園に行きましょ~!」と言って一人が歩き出してしまった。私はあとの二人に促されながら公園に向かって歩き出した。公園に着くと、まずは彼らの自己紹介から始まった。3人は同級生なのだという。私が通う学校の3つ年上の先輩だった。一人は優しそうな顔の優しい声で伊能浩司と名乗った。もう一人は目が吊り上がっていて、かなりモテそうな感じの人で都築正司。最後の一人はちょっといかつい感じだけど、笑うと優しい顔になる滝野剛。私は学校の先輩なので上の名前で先輩と呼ぶ事にした。この出会いが、また私の運命の大きな起点になるなんてその時は全く考えもしなかった。

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