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胸郭から考える!骨盤帯周囲の疼痛に対する評価とアプローチ

皆さん、こんにちは!^ ^
第4週目担当の塚田です。

先月のボクの投稿では仙腸関節障害について書きましたが、その中でLocal stability muscleが腹腔内圧を高め腰椎・骨盤帯の安定性に寄与することをお伝えしました。そしてこのlocal stability muscleの機能低下により、腹腔内圧が高まらなければ、抗重力伸展活動は困難となり代償的にglobal muscleを働かせ、腰椎の過剰な前弯が見られたり、上部体幹の後方偏位に伴う、骨盤の後傾などが見られることをお伝えしました。

それに対して骨盤帯周囲に付着する腹横筋、多裂筋、骨盤底筋群に対する評価とアプローチについては触れましたが、Local stability muscleの一つである、横隔膜については触れませんでした。

そこで今回は骨盤帯周辺に生じる疼痛に関連して生じている、胸郭の問題と横隔膜の問題について触れ、この胸郭や横隔膜の機能を向上することにより骨盤帯周囲の疼痛が軽減する方法について評価とアプローチの観点から述べて行きたいと思います。

●横隔膜と腹腔内圧(IAP)

横隔膜は吸気筋として重要な筋で、吸気活動の60〜80%を担っていますが、同時に体幹・骨盤の安定性にも寄与し、姿勢保持においても重要な筋です。

横隔膜は吸気時に腱中心に向かい収縮し、下降しながら胸郭を拡張させます。この拡張のメカニズムはinsertional componentappositional componentの2つがあります。

insertional componentとは腱中心が固定され、胸郭が拡張するメカニズムです。吸気の際に腱中心が下降しますが、腱中心に対して腹腔内臓器と腹腔内圧(IAP)が固定します。しかしまだ腱中心に向かい収縮は続くため、腱中心を支点としたテコとなり胸郭を上方に引き上げ拡張させます。


appositional componentとは上昇したIAPにより生じる拡張メカニズムです。横隔膜の下降によりIAPが上昇しますが、それにより横隔膜の胸郭内面に接している部分(zone of apposition)の下位胸郭が内側から外側の押されることにより拡張が生じます。

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すなわち横隔膜はIAPにより胸郭を拡張することが出来ると同時に、横隔膜自体がIAPを高める重要な働きをしていることがわかります。


●local stability muscleとして働く横隔膜

では、なぜIAPが重要であるかというと、脊柱の抗重力伸展において必要不可欠だからです。

脊柱の伸展活動というと脊柱起立筋をすぐに思いつきますが、脊柱起立筋による脊柱の伸展では椎間関節に対してモーメントが大きすぎる為、”鉛直方向に伸びる”というより”体を反らす”という意味の伸展になってしまいます。

僕たちが安定してより効率的に動作を行う為には、身体は鉛直方向に伸びることが必要です。それにより回旋や屈伸、側屈など体幹の偏位に対して局所的なストレスを生じることなく動作を遂行することが出来ます。

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横隔膜はこのIAPを高めて鉛直方向への抗重力伸展活動を引き出す上で重要な要素を担っています。実際にHodgesらは横隔神経を刺激することによりIAPの増加が見られ、それは脊柱の伸展モーメントと関連が見られると報告しています。(Hodges PW,et al:In vivo measurement of the effect of intra-abdominal pressure on the human spine. J Biomech 34 2001 :347-53.)

また上肢の挙上運動を急速に行った際は、上肢の筋収縮に先行して横隔膜や腹横筋が収縮することが報告されています。
(Hodges PW, Butler JE, McKenzie DK, Gandevia SC:Contraction of the human diaphragm during rapid postural adjustments.The Journal of physiology 502 2 1997:539-548)

このように上肢・下肢の運動においても体幹部の安定性が先行して働くことが重要であり、その為にはIAPが正常に保てることが必要となります。


●骨盤帯周囲の疼痛と横隔膜

下肢の自動伸展挙上運動であるASLR(active straight leg raise)は下肢運動における体幹・骨盤の安定性と負荷伝導が機能しているかを確認することが出来、これが困難である場合、骨盤周囲組織の疼痛との関連性があるとされています。
(Palsson TS,et al:Experimental Pelvic Pain Impairs the Performance During the Active Straight Leg Raise Test and Causes Excessive Muscle Stabilization. Clin J Pain.31 2015:642-51.)

またO'SullivanによるとASLRにおいて、仙腸関節痛を有する群は横隔膜の上下振幅運動が減少し、骨盤底筋群が下方へ偏位していると報告しています。
(Peter B O'Sullivan, et a:lAltered motor control strategies in subjects with sacroiliac joint pain during the active straight-leg-raise test.Spine 27:E1-8,2002.)

通常、下肢伸展挙上する際はlocal stability muscleが適切に働くことにより、IAPが先行的に高まり、腹部・腰部・骨盤帯が安定することで腸腰筋の筋発揮が可能となります。しかしlocal stability muscleが適切に働かない場合は、代償的にglobal muscleを働かせ、骨盤のforce closureが過剰となり筋スパズムや骨盤帯周囲の靭帯に対するストレスを増長させ、疼痛を引き起こします。

ではなぜIAPが働きづらくなってしまうのかを横隔膜と胸郭の関係性から紐解いていきます。


●IAPが働きづらくなる胸郭の状態

IAPが高まる為には先述したように、横隔膜がしっかりと上下振幅を行い、下位胸郭が拡張することが重要です。

下位胸郭に関しては吸気の際、肋椎関節の向きが比較的矢状面を向くことから横径拡張します(上位胸郭は前額面を向く為、前後径拡張)

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この横径拡張が出来ない場合、横隔膜は適切に収縮するもしくは弛緩することが困難になり、横隔膜の平坦化や振幅の減弱を生じIAPを高めることが困難となります。ではこの横径拡張が出来ない理由は何なのでしょうか?


自分は以下の2つにタイプを分けて考えています。

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①のタイプは下位胸郭が外側に開いてしまっている状態です。この状態であれば横隔膜は弛緩しても元の位置に戻ることが出来ず、ドーム形状が平坦化します。これにより横隔膜の振幅は小さくなりIAPを高めることは困難となります。

②のタイプは下位胸郭が内側に閉じてしまっている状態です。これにより吸気の際に横径拡張は困難となり、横隔膜は十分に下降出来ずIAPを高めることが困難となります。

この2つのタイプのどちらが当てはまるのかは肋骨下角の角度を見ることで判断することが出来ます。肋骨下角とは剣状突起を中心とした胸郭下部の成す角度のことでこの角度をみることでどちらのタイプかを判断します。

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この評価にて
◯45°より鈍角 → 胸郭が外方化(タイプ①)
◯45°より鋭角 → 胸郭が内方化(タイプ②)

と判断して、その後の詳しい評価と治療に進んでいきます。

ただ臨床上、肋骨下角のみでみるとタイプ①とタイプ②が左右で混同している症例も多く見られます(例:左タイプ① 右タイプ②)
この場合は深呼吸の吸気において、下部胸郭の横径拡張の動きを評価し、横径拡張が少ない側がどちらのタイプかで判断し、そちらを優先的に評価・治療を勧めます。(例:左の横径拡張が少なければ、左側のタイプに適した評価・治療を行う)

では次の章からタイプ①とタイプ②それぞれについて評価と治療のポイントについて述べていきます。


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