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TKAのSKGに対する評価とアプローチ

こんにちは!
LOCO LAB.の塚田です。

タイトルから略語ですいません!皆さんはSKGという言葉は聞いたことがありますか?

TKAはよく聞く人工膝関節置換術のことです。SKGはTKA術後の異常歩行としてよく見られるStiff-Knee gaitのことを言います。

このTKA術後のSKGは意外と問題になることが多く、難渋する例もしばしばいます。今回はこのTKA後のSKGに対する評価とアプローチについて述べていきたいと思います!


●TKA後のSKGとは

Stiff−Knee gait(SKG)はもともと脳血管疾患患者の遊脚期の膝関節屈曲角度の減少のことを指していました。しかし近年では膝関節疾患における同様の異常歩行に対してもSKGという言葉が使われています。

少しわかりづらいですが、患側下肢では膝関節の屈曲が生じづらく立脚中期の延長と早期の踵離地が見られます。

正常歩行では、遊脚期の大腿と下腿は股関節・膝関節を中心とした二重振子運動が生じます。

どういうことかというと、遊脚初期に股関節屈筋により大腿が前方に振り出されます。しかしこの時、下腿遠位部は足底が床から離れたばかりなので後方に慣性が働いています。この大腿・下腿の逆方向への運動により、膝関節は勝手に屈曲します。

また遊脚後期には股関節伸展筋により大腿の前方回転が制動されますが、下腿には遊脚により生じた前方回転が慣性として残っているため、膝関節は勝手に伸展し、立脚初期を迎えます。

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このように遊脚期における膝関節は、股関節の動きにより制御されており、受動的に屈曲−伸展を行っています。TKAにおけるSKGではこの受動的な屈曲−伸展が生じず、足部クリアランスの問題や歩行エネルギー効率の低下、Double Knee action消失による異常バイオメカニクスの発生などが生じ、疼痛増悪や転倒、インプラントの早期摩耗などのリスクが考えられています。


●なぜSKGが生じるのか?

ではなぜSKGが生じてしまうのでしょうか?
TKA後の歩行を対象に調べた報告では以下のような報告が上がっています。

・TKA患者は歩行速度の減少とSKGが見られる
・代償的に両側の脊柱起立筋に活動が見られ、立脚期で大腿直筋、ハムストリングス、前脛骨筋の活動延長が見られた。
・特に大腿直筋の筋活動は前遊脚期だけでなく遊脚初期まで持続する。
Benedetti MG , Catani F et al:Muscle activation pattern and gait biomechanics after total knee replacement.Clin Biomech (Bristol, Avon)
. 2003 Nov;18(9):871-6.
・TKA術後の歩行において立脚期中に大腿直筋が持続的に活動し、前遊脚期ではハムストリングスが持続的に活動する。
Wilson SA,McCann PD et al:Comprehensive gait analysis in posterior-stabilized knee arthroplasty.J arhroplasty.1996 Jun;11(4):359-67.  

このようにTKAの歩行においては大腿直筋、ハムストリングスの過剰な活動や同時活動が報告されています。
これらは不安定な関節を安定させる代償機構として生じていることや、手術侵襲や関節内腫脹により膝関節安定化を図る単関節(大腿広筋群)の活動低下の代償として生じていることが考えられます。

これらをまとめるとTKA後の歩行において代償として過剰に働いている大腿直筋やハムストリングスの影響によりSKGが起きているのではないかということがいえます。

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●SKG改善の為のポイント

ではこのSKGを改善する為にはどうしたらよいのでしょうか。

いわゆる正常歩行での遊脚期の股関節屈曲は、股関節屈筋である腸腰筋が立脚中期から後期にかけて股関節伸展により伸張され、対側下肢のInitial Contactにより荷重が対側下肢に乗ることで、解放され生じます。
例えれば伸ばしたバネを離すと一気に縮むことと同じです。

また膝関節の屈曲に関しても同様の現象が生じています。
立脚中期から後期にかけて下腿が前傾し、足関節は背屈することにより下腿三頭筋が伸張されます。Pre swing期にて足関節が底屈し重心が上方へ移動し、対側下肢のInitial Contactで荷重負荷が解放されると、そこまで伸張され蓄積していた張力により足関節の底屈と膝関節の屈曲が生じ、遊脚期でのクリアランスが可能となります。

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このように歩行の場合、筋の求心性収縮により運動をコントロールしているわけではなく、受動的に筋や軟部組織の伸張により得られた張力(弾性エネルギー)を利用することで効率よく動作を遂行しています。
その為立脚中期以降に股関節の伸展が出ない、足関節背屈が生じない、Pre swingに踵離地が生じないなどが見られる場合、腸腰筋や下腿三頭筋の受動的弾性エネルギーが利用できず、努力的で非効率な歩行となりSKGにつながります。

これらのことからSKG改善の為には以下のポイントが必要です。

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この3点のポイントについて、重要性を説明しながら評価方法とアプローチについて述べていきます。


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