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NIMS 見てきた

2024年5月26日に茨城県つくば市の物質・材料研究機構通称(NIMS ニムス)の一般公開に参加した。NIMSでは年に一度一般公開され、普段は一般人が見ることができない最新の研究所内を見学できるほか、研究者からの研究内容のレクチャーを直に受けることができる。

NIMSの一般公開は当日研究所に向かえばいいだけではない。1ヶ月ほど前から戦いは始まっている。
一般公開当日は参加者が自由に見学できるほか、特別ラボツアーが開催される。

実際のツアー例

これがあまりにも予約が取れない。
5月26日の開催前に5月1日から予約が始まったのだが、1週間ほどで20ツアー全ての枠が埋まってしまうったのだ。
そもそも1ツアーあたりの参加可能人数が少なかったのだろうが、私が以前参加した高エネルギー加速機研究機構の一般公開では学生のための特別枠があったため比較的参加予約が取りやすかった。

私と同行者は無事にツアー予約が取れなかったわけだが、それでも面白い体験ができることは間違いないのでとにかく会場に向かうことにした。

遠すぎ

宇都宮からつくば市まで車で約1時間半強。電車で約3時間。なんとまあ栃木の学生に優しくない立地だ。幸いにも私は車の運転には慣れていた。

9時頃宇都宮を出発し、11時頃につくば市にたどり着いた。研究機構であるから当然なのだが入り口がわからなくて周辺の道路をぐるぐるしてしまった。
会場に到着すると10時からの開催だがあまり人影が見えず心配になった。
受付に向かうとチラホラと人影が見えてきた。親子連れが多い。この時点ですれ違った人の7割程度は小学生ほどの子供を連れた家族連れだった。
個人的にはそういった家族の休日にはとても憧れがある。

おなかすいた

到着が11時ということもあり、12時までしか公開していない無機材料系のラボを見学してからお昼ご飯を取ることにした。

食堂がある建物に入るとちょっとした研究紹介コーナーがあって大きいポスターと映像が展示されていた。
映像ではNIMSの公式YouTubeチャンネル「まてりある’s eye」が放映されていた。

デザインあなどの映像制作を手掛けるユーフラテスとコラボした科学の解説動画、「未来の科学者たちへ」。
私は高校生の頃この動画を知った。10年ほど前から制作されていた未来の科学者たちへは難しい科学の内容を模型を使って子供にもわかりやすく解説している。わくわくするような動画構成は当時(今も)数学が苦手だった私が理系を選択する一助となった。
実力と希望進路はさておき、私も未来の科学者になってしまったわけだ。科学に興味がある人もない人にも自信を持ってこのYouTubeチャンネルをおすすめしたい。

一般公開ではNIMS内の食堂も開放される。特別メニューでの営業だ。700円のカレーとあんかけ固焼きそばの2種類。私はあんかけ固焼きそばを選んだ。
私は大食いの方で焼きそばの量には不満だったが、さほど食べる方でない同行者も言及するほどだったからやはり少ないのだろう。
食堂の隣には売店があったが、店舗改修のための臨時営業中で参加者全体に対してあまりにも商品の量が少なかった。おにぎりを追加で買おうかと悩んだが学生にしては少ないわりに高額の700円をお昼ごはんに使ってしまっていたため諦めた。

お腹を満たし(?)2階へと上がるとこんな掲示が。

いいね

「研究成果は会話の数に比例する」
かっこいいー!

だれか偉人の名言なのかはわからないが the fruits ofという表現には痺れる。欲を言えばもう少し日本語訳にひねりが欲しかったが、この掲示の前に数台の机があったこともあり、私たちもぜひとも会話しなければいけないと、直前に見つけた不二家の冷凍ケーキ自販機でチョコケーキを買って休憩することにした。

国を代表する研究所にケーキ自販機がある。頭脳フル回転の研究者には糖分が必要なのだろう。宇都宮大学も導入検討を切に願う。

地元山形県の東北芸術工科大学という芸大には「愛が足りない、だからこの大学がある」と掲げられているのだが、そんな目立つかっこいいスローガンがあることがうらやましい。こちらもぜひ宇都宮大学に導入検討してもらいたい。正直なところ、そんなものを気にして勉学に励む学生がいるのかは疑問だが。

5分待てば解凍されてふわふわのスポンジが食べられる技術もすごい。

授業でやったところだ!

はじめに、分析・解析装置公開エリアへと向かった。
そこでは一つの広めの部屋に5つほどの研究チームが研究紹介を行っていた。その中で一つを選んで数人ずつの話に参加したのだが、私はX線回折装置のグループを選んだ。ちょうどその次の日に大学の学生実験でX線回折の実験をすることもありタイムリーだった。

女性の研究者が仕組みを解説したあとは装置の見学に行かせてもらえることになった。解説会には5人ほど参加していたが、装置見学は私と40代くらいの男性の2人だった。私も、その年になってもひとりでふらっとこういう公開に行けるようでありたいなと思いつつ立ち話をしていると、研究所の女性と結婚していた。奥さんの仕事を見にきていた。

いかつい

大きい機械が6台ほど並んだ部屋にあるX線回折装置を見せてもらった。この時点ではあまり原理を理解していなかったが、授業を終えた今思い返すと大学にある装置とほぼ一緒で、大学の研究とNSの研究が繋がっていることに感動した。
この機械は湿度と温度が設定できるらしく、そんな細かいところまで注意を払って研究するのかと驚いた。

実際にサンプルを使って装置を動かし数値を測定してもらった。X線を使うことで機械の目の前にいるわたしが被爆することはあるのかと質問すると、なぜか男性が「鉛ガラスを使った機械なら問題ないよ」と答えてくれた。男性も研究者だった笑

次のラボに向かう途中、廊下の掲示にこんなものがあった。

かわいい

あまり詳しく見ていないが、きもかわいい。japanese eel。こんな遊び心をもった大人になりたいと思った。

廊下にはまだまだ面白いものがある。

研究者は休憩中でも研究するのか。
意味がわかるようなわからないようなこのホワイトボードにロマンを感じるのは一般人だからだろうか。研究室配属されたらふとした瞬間に拙くともこんな話ができるようになりたいなとも思う。

個人的目玉①

私には目当ての研究が2つある。1つ目が超高圧でつくる結晶だ。
まてりある’s eye でこの動画を見てから、ずっと実際に見たいと思っていた。

3万トンプレス機で作る世界でここでしか作ることのできない材料がある。
私は個人的に全国の町工場の工場見学をしているのだが、それもあって大きいゴツめな機械は特にかっこよさを感じる。

会場では動画内で紹介されていたグラフェンよりも人工ダイヤモンドの紹介が多かったが、実際に見ることができて満足できた。
テレビでしか見たことない有名人にリアルで会うようなものだろうか。

挟まれたらひとたまりすらない

個人的目玉②

NIMSでは長い間じーーーっと待つ研究も行っている。材料は生み出すだけでは実社会に役立たせることは難しい。日本の平均住宅寿命は30年らしいが家の柱が10年で潰れてしまってはとてもこまってしまう。
材料の耐久性を試すためにクリープ試験がおこなわれている。

壮観

最長40年のクリープ試験はギネス世界記録にも認定されるほどだ。
研究者に聞いたところ、もともと東京にあった研究所を移設するタイミング2011年3月ごろで試験をやめる決断をしたそうだ。これ以上研究を続けても利益が少ないと判断したそうだ。より多くの研究結果を得るためには限られた装置で効率よく研究するために必要な決断だと思うが、40年も研究していた人の中はあまりにもわが子のように愛着が強い人もいただろうなと思う。

材料の破断はなにも私たちの身の回りだけではない。発電所や宇宙船などにも大きく影響する。
説明展示ではそういったものがなぜ、どうやって壊れたのかを研究しているとあったが、こんなにも詳しく原因究明をしているなら安心だと思った。

日本代表

ノートに有機物のメモをとる小学生に先を越されて研究者の説明は聞けなかったが、ナノカーレース日本代表のトロフィーも見ることができた。

背景めっちゃ研究室っぽくて良い

どのYouTube動画で知ったのか忘れてしまったが、ナノカーレースの世界大会を見たことがある。原子レベルで作成したナノカーを電気信号を与えてどれだけ走れるか(コースの上を何周できるかだったはず)競う競技だ。これって動かせるの!?と衝撃を受けてかなり覚えていた。
流石に目を凝らしてもナノカーは見ることができなかった。

水素を見る

水素には物質を壊してしまう水素脆化の性質がある。東京などでは水素バスが街中を走っていて、水素で動く自動車なんてワードもよく聞くようになったがこれから水素がよく使われるようになるのに水素脆化が作用してしまっては大変なことになってしまう。しかし、金属の脆化は目で確認することが難しい。

そこで行われているのが、水素の動きを可視化する研究だ。水素の動きがわかれば水素がどのように物質をもろくしているのかがわかる。
研究では、物質を透過してきた水素の位置を電子顕微鏡で画像として見て、時間と共に透過してきた水素の位置が変化していく様子を観察している。
見学では実際に測定した画像を見せてもらったが、人間の細胞の写真みたいに何がどういう様子であるか、色が付いているにも関わらず素人目には判別が難しかった。

マシュマロとスカスカのやつ

案内地図の「マシュマロゲル」の文字に惹かれゲルの研究ラボを訪れた。
見せてもらったのは、マシュマロの形の材料。触ってみると。ベタベタしなかったので多分マシュマロではない。
さわりごごちもふわふわして食べたら溶けそうだったが、そこは我慢した。

エアロゲルも見せてもらった。
イメージは、極限までスッカスカに、かつめちゃめちゃきめ細かいこんにゃく。触り心地は繊細な発泡スチロールのような感じ。指でつまんだら少しの力で潰れてしまうその材料は、手のひらに乗せて観察した。限りなく透明なものも見せてもらったが、容器に入った状態でほとんど目に見えなかったものがレーザーを当てるとコロイドのチンダル現象のおかげでよく観察できた。

研究者はずっと喋っていて咳き込むほど辛そうだったが、見学者の長蛇の列ができていた。飲みものを差し入れようかと思ったが辞めた。マシュマロの広告効果は大きかったようだ。

もこもこ

モコモコ

こちらもエアロゲル。ゲルといったらみかんゼリーしか思い当らない私だが、これはなんというか、乾いていて細かい。布団屋さんで布団の中の「こんなにふわふわなんですよー」と展示している羽毛を極限まで細かくして、ふわふわ感をそのままにした感じ。
これは断熱効果が高く、住宅の断熱材としての利用が検討されているんだとか。
アスベストのように人体に影響がないのか尋ねると、「塗料として使用するので問題ない」とのことだった。

材料で、世界を変える

去年の一般公開は夏休みの集中講義とブッキングしていたため来ることができなかった。つくば市にあるものに限らず、博物館や科学館などを訪れるのは私の趣味だが、高校生の私の進路選択に影響を与えたNIMSへの思い入れは強いのでようやく来ることができて本当に良かった。
見学で何を言ってるのか、難しくてわからない部分もたくさんあったが、知識欲を満たされる感じがして高揚感を覚える。

研究にもっとたくさんのお金をかけられる社会であったらいいな。

かっこいい1
かっこいい2

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