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アガサ・クリスティー『忘られぬ死』ドラマ+漫画作品 紹介と感想

過去に3本の映像化がありましたが、どれもミステリー部分は原作を踏襲しながら、肉付けに独自の味付けをし過ぎており、原作の魅力を映像化できたものは無かったと思います。

特に、第一の殺人から現在進行形のドラマとして描いてしまい、登場人物描写をドラマの狙いに収まる形で簡略・改変していることが、原作の良さを損なっている要因だと考えられます。


『忘られぬ死』Sparkling Cyanide(1983/米)

陽気な音楽と街並みで始まる本ドラマは、原作から感じる印象と大分変っています。
舞台は80年代の米国カルフォルニア州に変更され、キャラクターのイメージもザ・アメリカドラマな雰囲気になっています。

原作の第1部を現在進行形のドラマとして描いており、原作のシナリオに沿いながら大分違った印象になっています。
ローズマリーの死後から警察が本格的に動き出しており、ジョージによるパーティーの再演も事件後の早い段階で行われます。

また、映像化の際にミステリー的にキモとなる第二の事件の描き方は、かなり分かりやすいものになっていたので、もう少し工夫が欲しかったところです。

なんか違うという印象は最後まで持続し、原作からエピソードは大きく離れていない中で、ドラマの舞台、演出、役者の見た目など、全てが合わさって原作とは別物と行っても良いドラマ作品になっていました。

時間の都合上、各キャラクターの掘り下げがあっさり気味なのも物足りなさの一因になっています。

この当時のアメリカ2時間サスペンスドラマが好きであれば楽しめる作品ではあります。

ドラマ概要
脚本:ロバート・M・ヤング、スー・グラフトン、スティーブ・ハンフリー
演出:ロバート・M・ルイス
時間:96分

キャスト
 アイリス・マードック/デボラ・ラフィン
   トニー・ブラウン/アンソニー・アンドリュース
  ルース・レッシング/パメラ・ベルウッド
  ルシーラ・ドレイク/ナンシー・マーチャンド
  ジョージ・バートン/ジョセフ・ソマー
ローズマリー・バートン/クリスティーン・ベルフォード
ステファン・ファラデー/デビッド・ハフマン
 サンドラ・ファラデー/ジューン・チャドウィック
       エリック/バリー・インガム
        ケンプ/ハリー・モーガン
 ヴィクター・ドレイク/マイケル・ウッズ


『忘られぬ死』Sparkling Cyanide(2003/英)

事件の骨格は原作のものを使っていますが、肉付けはかなり違います。

主人公であり視点人物はキャサリンとジェフリーの秘密捜査官夫婦になり、時代は制作当時の英国、捜査にパソコンも登場します。

登場人物周りは原作を踏襲していますが、その性格付けはかなり違います。
特に、ジョージ、アイリス辺りは現代ドラマ的な味付け過ぎて違和感が強かったです。
また、視点人物が事件外の探偵役になったことで、ローズマリーの印象も弱くなっていました。

ジョージはサッカーチームのオーナーで、一代で成り上がった人物となっているため、性格もそれに合わせたものとなっています。
アイリスも悪い子ではないのですが、原作のイメージを持ってみると違和感が強い性格付けでした。

ミステリーの描き方としても、効果的な演出とは言い難いところがあり、もったいないなと思いました。

夫婦探偵の二人が良いキャラをしており、単発の捜査物サスペンスドラマとしては楽しめますが、期待していたドラマとは違う感が残ってしまうのも事実です。

ドラマ概要
脚本:ローラ・ラムソン
演出:トリストラム・パウエル
時間:96分

キャスト
キャサリン・ケンドル/ポーリーン・コリンズ(藤田淑子)
ジェフリー・リース/オリヴァー・フォード・デイヴィス(滝口順平)
ジョージ・バートン/ケネス・クラナム(三木敏彦)
マーク・ドレイク/ジョナサン・ファース(平川大輔)
ルシラ・ドレイク/スーザン・ハンプシャー(泉 晶子)
アレクサンドラ・ファラデー/クレア・ホルマン(宮寺智子)
スティーブン・ファラデー/ジェームズ・ウィルビー(岩崎ひろし)
ルース・レッシング/リア・ウィリアムズ(大西多魔恵)
ローズマリー・バートン/レイチェル・シェリー(樋口泰子)
アイリス・マール/クロエ・ハウマン(渡辺 梓)


『アガサ・クリスティーの謎解きゲーム』Les petits meurtres d'Agatha Christie(仏)
 シーズン2 第2話『忘られぬ死』Meurtre au Champagne(2013)

あらすじ
大人気女優のエルビール。多くの男と浮名を流したエルビールだったが、パーティーの席で青酸カリが入ったシャンパンを飲み死亡する。
警察の自殺との決定に納得できないロランスは捜査を開始する。
そして、エルビールが死んだ現場に居たアリスは、取材に来たと思ったらなぜだかエルビールの代わりに主演を務めることになった。
エルビールを中心に不穏な人間関係が漂う中、エルビールの夫・ジョルジュは、事件当日の人たちを集めた夕食会を開くことにした。
しかし、それは新たなる悲劇の幕開けだったのだ。


紹介と感想
アリスが主演女優を務めるドタバタも楽しめる今作は、原作のプロットを使いながら、映画業界を舞台に展開していきます。

時系列的に展開するのは他のドラマ化と同じですが、要所要所で関係者達がエルビールとの関係を振り返るシーンを入れることで原作における第一部を再現していました。

また、第二の事件が起こるまでに60分以上と尺を長めにとっているのも特徴になります。
そのため、第二の事件後は怒涛の展開で解決までなだれ込みます。

オリジナル色が強く原作の映像化としては求めている作品ではないですが、全体の空気感など総合的に観た場合、ドラマ化3作品の中で一番好きです。


ドラマ概要
脚本:シルヴィー・シモン、ティエリー・デブルー
演出:エリック・ウォレス
時間:93分

キャスト
   スワン・ロランス/サミュエル・ラバルト
   アリス・アブリル/ブランディーヌ・ベラヴォア
  マルレーネ・ルロイ/エロディ・フランク
      マーティン/エリック・ボーシャン

エルビール・モレンコバ/ エロディ・ナヴァール
  ジョルジュ・リロイ/ ジャン=フィリップ・エコフェ
 ダニエル・ハートマン/アントワン・オッペンハイム
  クロード・ケリガン/クロード・ペロン
 ビクトール・ルブラン/ルイス・イナシオ
      ビオレット/ヴァレンティン・アラキ


漫画『追憶のローズマリー』(2006/日)

榛野なな恵『アガサ・クリスティー作品集 チムニーズ館の秘密』集英社, 2006, p.69-135

榛野なな恵さんが『コーラス』2006年月号に掲載し、『アガサ・クリスティー作品集 チムニーズ館の秘密』に「チムニーズ館の秘密」「ソルトクリークの秘密の夏(原作:ゼロ時間へ)」と一緒に収録されています。

ページ数の関係で全体的に簡素になっており、ミステリーとしての溜めもありませんが、上記の映像化より原作の空気感を漫画で表現できていると感じるため、結構好きな作品です。



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