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The musician to the musician vol.9 MIHO KOMATSU

1997年5月28日リリースのデビューシングル「謎」がスマッシュヒットを放ち、その後も「チャンス」や「氷の上に立つように」など数々のヒット曲を世に送り出したシンガーソングライターの小松未歩。待望のサブスクが解禁となり、再び注目を集める彼女だが、自らの作品以外にも、FIELD OF VIEW「この街で君と暮らしたい」、辻尾有紗「青い空に出逢えた」、DEEN「君がいない夏」、WANDS「錆びついたマシンガンで今を撃ち抜こう」など数々のシングル楽曲を提供し、当時、新進気鋭のシンガーソングライターとして一躍脚光を浴びた。
そんな小松未歩が2ndシングル「輝ける星」をリリースした直後、music freak magazine vol.35(1997年10月10日号)に掲載した、自身の音楽ルーツを語るコーナー『The musician to the musician』を紹介する。

「すべて有名な方ばっかりなんですけれど…」と断りながら彼女が持参したのは、どれもがポピュラー・ミュージックの永遠の金字塔ともいうべき名作ばかり。どちらかというと彼女自身がリアルタイムで経験した音楽というよりは、時代を越えて残り、今も新鮮さを失っていないスタンダードなナンバーに彼女の音楽の興味は集中しているようだ。

 ■THE BEATLES(ザ・ビートルズ)

小松:私が今回持ってきたアルバムの中でリアルタイムで聴いていたのはワムくらい。あとはどちらかというとみんな後追いなんです。だからベスト・アルバムで聴いていた作品の方が多いかもしれませんね(笑)。
私がポピュラー・ミュージックを意識して聴くようになったのは、多分、小学生の低学年頃。その頃私はエレクトーンを習っていて、教材の本にビートルズの「レット・イット・ビー」と「イエスタデー」が載っていたんです。その時に弾きながら歌うということの気持ちよさを初めて意識しました。これが今思えばポピュラー・ミュージックとの最初の出会い、という感じ。ここに挙げさせていただいたビートルズの作品は、今でもよく聴きます。やっぱり今でも私は「イエスタデー」と「レット・イット・ビー」が収録されている作品は手放せないですね。

●『LET IT BE』/THE BEATLES
ポップスロック史上最も偉大なる業績を残し、1960年代を代表する英国のバンド。1962年シングル「ラヴ・ミー・ドゥー」でデビューし、1970年に解散するまで多数の名曲を残す。1966年頃までは熱狂的なアイドル的現象で人気を博していたが、1966年以降ライブ活動を停止し、よりレコーディングに集中した密度の濃い作品をリリースし続ける。
ビートルズの最後を飾った本作は、同名のドキュメンタリー映像のサウンドトラックにもなった。500万枚以上の売り上げを記録している。

●『HELP!』/THE BEATLES
5枚目にあたる本作は、2作目の主演映画のサウンドトラック。全英No.1を11週連続で記録。全世界での売り上げは当時300万枚を越えた。

3歳からエレクトーンを始めた小松未歩。兄がエレクトーンを3歳の時から習い始めていたので、当然自分も3歳になったらエレクトーンを始めるものだと幼な心に思い込んでいたそうだ。小松未歩の音楽的環境を窺い知る意味で、この兄の存在は大きな影響力を持っていたようだ。後述するキャロル・キングやスティーヴィー・ワンダーの音楽も彼女は兄というフィルターを通して接点を見つけ、様々な海外のポピュラー・ミュージックに馴れ親しんでいった。

小松:ビートルズもビリー・ジョエルもスティーヴィー・ワンダーも兄の影響で聴くようになっていったのはあると思います。兄に薦められて、私ははじめ何か分からずに聴いていたのが、たまたまビートルズだったり、ビリー・ジョエルだったりしたんです。いいなと思って聴いていたのが、段々自分でもCDで聴くようになって、結局今でも聴いている愛聴盤になっていきました。どちらかというと、私は聴いている音がどんなアーティストによるものか知らないうちから音に魅せられて、音ばっかり聴いていたという感じです(笑)

そんな彼女も、自らの耳が肥えてくるにつれ、リアルタイム世代のアーティストの中にも優れたソングライティング能力を発揮しているグループを発見する。それが80年代の音楽シーンの代表格ともいえるワム!だ。


■WHAM!(ワム!)

小松:自分がレコードを買おうと思って、最初に買ったのがワム!のアルバム。ラジオで「バッド・ボーイズ」を聴いて、「いいな」と思って。ワム!は、私にとってはリアルタイムで経験したアーティストだったので、それなりにミーハーに聴いていたかもしれません。「ラスト・クリスマス」のストーリー性のあるビデオクリップもすごく綺麗で今でもその映像は鮮明に覚えています。「フリーダム」も風を受けて元気な感じが好きでした。
ワム!は最初は「バッド・ボーイズ」というシングルの音から入ったんですけども、ビジュアルもカッコいいし、そういう意味では当時、私の中ではアーティストを意識しながら聴いていた数少ない音楽の一つでした。もちろん今でも「ケアレス・ウィスパー」や「フリーダム」は曲自体も好きだし、おすすめしたい作品です。

●『THE FINAL』/WHAM!
中学校の同級生だったジョージ・マイケルと、アンドリュー・リッジリーがコンビを組み、1982年5月「ワム・ラップ」でデビュー。2ndシングル「ヤング・ガンズ」がスマッシュヒッツを放ち、一躍ポップシーンに躍り出る。その後も順調にヒットを飛ばし、イギリス本国はもとより、ヨーロッパ、アメリカでも大ブレイク、デビューから僅か2年足らずでスーパースターの座を射止める。しかし、デビューして4年目に解散を発表。1986年6月、ロンドンのウェンブリー・スタジアムで世界中のファン達に惜しまれながら解散コンサートを行なった。本作はそんな彼らの最後にリリースされたベスト・アルバム。

●『MAKE IT BIG』/WHAM!
ワムの2作目で、彼らの大出世作とも言える。「ウキウキ・メイク・ミーアップ」「ケアレス・ウィスパー」「恋のかけひき」と3曲連続全米NO.1を獲得。続く「フリーダム」もヒットを飛ばし、ヒットシングル満載のアルバムとなった。

小松未歩が、リアルタイムで聴いていた音楽は、ワム!を筆頭に80年代のポップス・サウンドだ。それが彼女のソングライティングのバックボーンにも成りえる。また、当時の彼女は洋楽ばかり聴いていたタイプではなく、日本の音楽、例えばユーミンやオフコースも聴いていたそうだ。その世代はアイドル全盛の時でもあったので、音楽のジャンルの分け隔てなく、いろいろな感性に訴えかける優れた音楽に触れるチャンスはことのほか多かっただろう。そして、彼女はエレクトーンを習い、兄からの影響の洋楽を聴くだけでなく、自らもソングライティングを始めるようになる。中学時代、そんな活動を始めていた小松未歩の作曲方法に少なからず影響を与えたアーティストがいた。それがビリー・ジョエルだ。


■BILLY JOEL(ビリー・ジョエル)

小松:ビリー・ジョエルのアルバムの中で一番好きなのはこの「イノセントマン」。どちらかというと、私はアーティストのパーソナリティや生き様というよりは、曲を聴いていいなと思うタイプだと思うんです。ビリー・ジョエルの曲はまさしくそれ。彼の音楽を聴いた時に曲全体が理屈なく好きになれたんです。
ソングライティングに関してはここで紹介させていただいたアルバム全てに影響を受けていると思いますけど、特にビリー・ジョエルの作品はピアノの音がすごく気持ちいいなと思って聴いていました。「イノセントマン」や「アップタウンガール」「リーブア・テンダー・モーメント・アローン」が私のお薦めです。

●『AN INNOCENT MAN』/BILLY JOEL
1949年、ニューヨーク生まれのシンガーソングライター。1988年「ハッスルズ」というバンドでデビューし、1971年にソロとなる。1973年「ピアノ・マン」がヒットし、1977年「ストレンジャー」が大ブレイク、1978年アルバム『ニューヨーク52番街』ではグラミー賞を獲得し、名実ともにビックアーティストとしての地位を揺るぎないものとした。
本作はソロとして10枚目に当たる作品。50年代のソウル、R&B、ロックンロールを今に焼き直した作品集。全曲オリジナル曲が収録されている。

中学時代、このビリー・ジョエルのアルバム全曲をコピーし、毎日エレクトーンの前で歌を練習していたという彼女の経験が、現在のソングライティングの姿勢にも表れているようだ。彼女の曲の持つポップなメロディ・ライン、しっかりした構成はすでにその頃から培われていたに違いない。


■Carole King(キャロル・キング)

小松:これ(『Tapestry』)はとても好きなアルバム。聴くたびに新しい発見があります。キャロル・キングも元々はソングライターですし、この作品も今聴くと他人事としては聴けなくなってしまいました(笑)。これは、彼女が自分の作品を作り上げた時に、なんだか好きで歌っているという姿勢がすごくナチュラルに伝わってきて、“このアルバムは、彼女自身の心の流れの音楽なんだな”というのがよく分かって、こういう姿勢ってすごく大切だなと思うんです。単純にリスナーの方に“聴いて“っていう感じじゃなく、すごく自然な感じで彼女のフィーリングがこちら側に伝わってくるというか・・・飽きないんです。だから、私も目指すところは、彼女のようにずっと語り継がれるような曲、メロディが残る曲を作っていきたいですね。なかなか思うようにはならないんですけど・・・。

●『Tapestry』/Carole King
1942年ニューヨーク生まれ。ニール・セダカの紹介で作曲家としてデビュー。最初の夫ゲリー・ゴフィンと共に「ロコ・モーション」など数々のヒット作を生む。1968年にバンド「シティ」を組み、ボーカル、ピアノを担当。アルバム1枚を残し、その後ソロ活動に入る。ソロ2作目に当たる本作は、発表以来5年間にわたって全米アルバム・チャートにランクインされた超ヒット作。シンガーソングライター時代の幕開けを告げた作品とも言える。

年代に関係なくメロディがしっかりしている音楽が好きだという小松未歩。今でも自らのソングライティングに迷った時には、このアルバムを取り出して心を癒すそうだ。


■STEVIE WONDER(スティーヴィー・ワンダー)

小松:私は、以前はよく勉強しながらラジオの深夜番組を聴いて、ポップな曲を覚えていくような生活をしていた学生だったのですが、そんな時代にスティーヴィー・ワンダーの「イズント・シー・ラブリー」がよくかかっていて、試験勉強がはかどった相性の良い曲だったような記憶があります。もちろん、スティーヴィーの曲はどれも素敵な曲ばかりなのですが、今、冷静に考えてみると、私はスティーヴィー・ワンダーの自然な展開の曲調や、リズム感がとても居心地よく自分の中に入ってくるのを感じていたんですね。そういう心地よさが耳からすんなり入ってくる曲というのは、これからの私の作品作りの上でもすごく勉強になるし、目標にもなります。スティーヴィーみたいに愛のある歌が歌えるようになりたいし、詞にもメロディにもそういうフィーリングが自然に表せるようになれればなと思っています。

●『A GREATEST HITS COLLECTION』/STEVIE WONDER
1950年ミシガン州に生まれる。生まれて間もなく盲目になったにもかかわらず、8歳頃までにはピアノ、ドラムス、ハーモニカ、ボンゴをプレイするようになり、13歳の時にレコーディングデビューを果たす。
1963年「フィンガー・ディップス」が大ヒットを飛ばし、盲目の天才シンガーとして一躍有名になる。20歳になった1970年を境にプロデュース、演奏、作曲に至るまで全てこなすマルチアーティストとして話題作を次々に発表。圧倒的評価を確立する。本作は1996年にリリースされたスーパー・ベスト・アルバム。

キャロル・キングやスティーヴィー・ワンダーの曲を聴きながら、現在の彼女はさらにそれらの作品を鑑賞用としてだけではなく、目標としての視線を覗かせながら、これらの作品に敬意を表しているようだ。そこには自らもシンガー・ソングライターとしてプロになった自覚と責任が垣間見える。そういえば彼女はこう言っていた。
「以前は自分が納得できる良い作品を作ろうと考えていたんです。今でも曲を作る姿勢は変わらないけれど、やっぱりプロとしてやるからにはみんなに知ってもらいたい、みんなに聴いて口ずさんで欲しいと思います。シンガーソングライターとして歌いたい音楽を歌って、作りたい音楽を作りながらも、みんなが“いいね”と言ってくれて、ずっと語り継がれるような音楽を作り続けていければいいな」と。


■LOVE NUT(ラブ・ナット)

小松:これは最近タワーレコードで衝動買いしたアルバムです。まず、ジャケットに魅かれて、試聴サービスで聴いてみたら、想像通りのギター・ポップ・サウンドだったので即気に入って購入してしまいました。全体的にすごくカッコいいギター・サウンドで、特に二番目の「スター」という曲は、すごく単純な音なのにここまでカッコよくギターサウンドで聴かせられるんだということにひどく感心してしまいました。日本人ではこういう風にまとまらないんだろうなって、少し悔しく思いながら、でも今後はいつかこういうサウンドにも自分も挑戦してみたいと思いました。

●『Bastards of Melody』/LOVE NUT
メンバーは、Andy Boop(Vo, & G)、Dave Vespoint(B)、Max Muelier(G & Vo)、Tom Sabie(Dr)の4人で構成されている。1990年初頭、現在の前身バンドとなったNew Allianceで2、3年活動した後、バンド名をLOVE NUTに改名。1996年5月に本作で念願のデビューを果たす。
本作はタイトルが示唆するように、パンク、ロック、ジャズなど全ての音楽エッセンスをミックスし、彼ら独自の感性で作り上げた、新しい感覚の作品に仕上がっている。また、ギャグセンス溢れるユニークな個性も一つの売りになりそうな注目のニューカマー。日本デビュはまだ未定。

最後に、最近のお気に入りの作品を一つ紹介してもらった。どうもこの頃はシンプルで激しいギターサウンドにも開眼しつつあるようだ。
ジャンルや年代に関係なく幅広く音楽をとらえ、自分のアンテナに引っかかるCDを探し求めるシンガーソングライター、小松未歩。シンガーソングライターという職業ゆえ、さぞかしCDコレクションを膨大にし、通常のリスナーとは違ってCDを衝動買いしたり聴き漁っているのでは?と推測した。が、さにあらず。実際の彼女の風景は、なかなか微笑ましきエピソードに包まれていた。彼女は今でもCDを購入する時は、試聴サービスで音を聴き、それも例えば聴き方でもイントロからちょっと聴いて、いいと思ったら一応全部聴いてみて、「あっ、いいんだ」と思ったら大切に選んで一度に1~2枚買ってくるそうだ。そうやって音楽を愛し、慈しみながら聴いてきた彼女は、これまで、多くのアーティストの作品によって感動や影響を与えられてきた。今度は彼女自身が愛される音楽を伝える側として、より多くの人々から感動や共感を得る作品を生み出してくれることを願いたい。

※上記は、music freak magazine vol.35(1997年10月10日号)に掲載した内容になります。なお掲載上の理由により一部割愛、編集している箇所がございます。


■INFORMATION

2022年5月28日、小松未歩メジャーデビュー25周年を記念し、各音楽サブスクリプションサービス & ダウンロードサービスで一挙配信開始!
「謎」、「願い事ひとつだけ」「チャンス」「氷の上に立つように」などの代表曲の他、「錆びついたマシンガンで今を撃ち抜こう」などの提供曲セルフカバー、アルバム未収録のカップリング曲やリアレンジバージョン、リミックスまで余すことなく網羅!
色褪せないメロディーをこれからもどうぞお楽しみください。
http://miho-komatsu.com/


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