The musician to the musician vol.9 MIHO KOMATSU
「すべて有名な方ばっかりなんですけれど…」と断りながら彼女が持参したのは、どれもがポピュラー・ミュージックの永遠の金字塔ともいうべき名作ばかり。どちらかというと彼女自身がリアルタイムで経験した音楽というよりは、時代を越えて残り、今も新鮮さを失っていないスタンダードなナンバーに彼女の音楽の興味は集中しているようだ。
■THE BEATLES(ザ・ビートルズ)
小松:私が今回持ってきたアルバムの中でリアルタイムで聴いていたのはワムくらい。あとはどちらかというとみんな後追いなんです。だからベスト・アルバムで聴いていた作品の方が多いかもしれませんね(笑)。
私がポピュラー・ミュージックを意識して聴くようになったのは、多分、小学生の低学年頃。その頃私はエレクトーンを習っていて、教材の本にビートルズの「レット・イット・ビー」と「イエスタデー」が載っていたんです。その時に弾きながら歌うということの気持ちよさを初めて意識しました。これが今思えばポピュラー・ミュージックとの最初の出会い、という感じ。ここに挙げさせていただいたビートルズの作品は、今でもよく聴きます。やっぱり今でも私は「イエスタデー」と「レット・イット・ビー」が収録されている作品は手放せないですね。
3歳からエレクトーンを始めた小松未歩。兄がエレクトーンを3歳の時から習い始めていたので、当然自分も3歳になったらエレクトーンを始めるものだと幼な心に思い込んでいたそうだ。小松未歩の音楽的環境を窺い知る意味で、この兄の存在は大きな影響力を持っていたようだ。後述するキャロル・キングやスティーヴィー・ワンダーの音楽も彼女は兄というフィルターを通して接点を見つけ、様々な海外のポピュラー・ミュージックに馴れ親しんでいった。
小松:ビートルズもビリー・ジョエルもスティーヴィー・ワンダーも兄の影響で聴くようになっていったのはあると思います。兄に薦められて、私ははじめ何か分からずに聴いていたのが、たまたまビートルズだったり、ビリー・ジョエルだったりしたんです。いいなと思って聴いていたのが、段々自分でもCDで聴くようになって、結局今でも聴いている愛聴盤になっていきました。どちらかというと、私は聴いている音がどんなアーティストによるものか知らないうちから音に魅せられて、音ばっかり聴いていたという感じです(笑)
そんな彼女も、自らの耳が肥えてくるにつれ、リアルタイム世代のアーティストの中にも優れたソングライティング能力を発揮しているグループを発見する。それが80年代の音楽シーンの代表格ともいえるワム!だ。
■WHAM!(ワム!)
小松:自分がレコードを買おうと思って、最初に買ったのがワム!のアルバム。ラジオで「バッド・ボーイズ」を聴いて、「いいな」と思って。ワム!は、私にとってはリアルタイムで経験したアーティストだったので、それなりにミーハーに聴いていたかもしれません。「ラスト・クリスマス」のストーリー性のあるビデオクリップもすごく綺麗で今でもその映像は鮮明に覚えています。「フリーダム」も風を受けて元気な感じが好きでした。
ワム!は最初は「バッド・ボーイズ」というシングルの音から入ったんですけども、ビジュアルもカッコいいし、そういう意味では当時、私の中ではアーティストを意識しながら聴いていた数少ない音楽の一つでした。もちろん今でも「ケアレス・ウィスパー」や「フリーダム」は曲自体も好きだし、おすすめしたい作品です。
小松未歩が、リアルタイムで聴いていた音楽は、ワム!を筆頭に80年代のポップス・サウンドだ。それが彼女のソングライティングのバックボーンにも成りえる。また、当時の彼女は洋楽ばかり聴いていたタイプではなく、日本の音楽、例えばユーミンやオフコースも聴いていたそうだ。その世代はアイドル全盛の時でもあったので、音楽のジャンルの分け隔てなく、いろいろな感性に訴えかける優れた音楽に触れるチャンスはことのほか多かっただろう。そして、彼女はエレクトーンを習い、兄からの影響の洋楽を聴くだけでなく、自らもソングライティングを始めるようになる。中学時代、そんな活動を始めていた小松未歩の作曲方法に少なからず影響を与えたアーティストがいた。それがビリー・ジョエルだ。
■BILLY JOEL(ビリー・ジョエル)
小松:ビリー・ジョエルのアルバムの中で一番好きなのはこの「イノセントマン」。どちらかというと、私はアーティストのパーソナリティや生き様というよりは、曲を聴いていいなと思うタイプだと思うんです。ビリー・ジョエルの曲はまさしくそれ。彼の音楽を聴いた時に曲全体が理屈なく好きになれたんです。
ソングライティングに関してはここで紹介させていただいたアルバム全てに影響を受けていると思いますけど、特にビリー・ジョエルの作品はピアノの音がすごく気持ちいいなと思って聴いていました。「イノセントマン」や「アップタウンガール」「リーブア・テンダー・モーメント・アローン」が私のお薦めです。
中学時代、このビリー・ジョエルのアルバム全曲をコピーし、毎日エレクトーンの前で歌を練習していたという彼女の経験が、現在のソングライティングの姿勢にも表れているようだ。彼女の曲の持つポップなメロディ・ライン、しっかりした構成はすでにその頃から培われていたに違いない。
■Carole King(キャロル・キング)
小松:これ(『Tapestry』)はとても好きなアルバム。聴くたびに新しい発見があります。キャロル・キングも元々はソングライターですし、この作品も今聴くと他人事としては聴けなくなってしまいました(笑)。これは、彼女が自分の作品を作り上げた時に、なんだか好きで歌っているという姿勢がすごくナチュラルに伝わってきて、“このアルバムは、彼女自身の心の流れの音楽なんだな”というのがよく分かって、こういう姿勢ってすごく大切だなと思うんです。単純にリスナーの方に“聴いて“っていう感じじゃなく、すごく自然な感じで彼女のフィーリングがこちら側に伝わってくるというか・・・飽きないんです。だから、私も目指すところは、彼女のようにずっと語り継がれるような曲、メロディが残る曲を作っていきたいですね。なかなか思うようにはならないんですけど・・・。
年代に関係なくメロディがしっかりしている音楽が好きだという小松未歩。今でも自らのソングライティングに迷った時には、このアルバムを取り出して心を癒すそうだ。
■STEVIE WONDER(スティーヴィー・ワンダー)
小松:私は、以前はよく勉強しながらラジオの深夜番組を聴いて、ポップな曲を覚えていくような生活をしていた学生だったのですが、そんな時代にスティーヴィー・ワンダーの「イズント・シー・ラブリー」がよくかかっていて、試験勉強がはかどった相性の良い曲だったような記憶があります。もちろん、スティーヴィーの曲はどれも素敵な曲ばかりなのですが、今、冷静に考えてみると、私はスティーヴィー・ワンダーの自然な展開の曲調や、リズム感がとても居心地よく自分の中に入ってくるのを感じていたんですね。そういう心地よさが耳からすんなり入ってくる曲というのは、これからの私の作品作りの上でもすごく勉強になるし、目標にもなります。スティーヴィーみたいに愛のある歌が歌えるようになりたいし、詞にもメロディにもそういうフィーリングが自然に表せるようになれればなと思っています。
キャロル・キングやスティーヴィー・ワンダーの曲を聴きながら、現在の彼女はさらにそれらの作品を鑑賞用としてだけではなく、目標としての視線を覗かせながら、これらの作品に敬意を表しているようだ。そこには自らもシンガー・ソングライターとしてプロになった自覚と責任が垣間見える。そういえば彼女はこう言っていた。
「以前は自分が納得できる良い作品を作ろうと考えていたんです。今でも曲を作る姿勢は変わらないけれど、やっぱりプロとしてやるからにはみんなに知ってもらいたい、みんなに聴いて口ずさんで欲しいと思います。シンガーソングライターとして歌いたい音楽を歌って、作りたい音楽を作りながらも、みんなが“いいね”と言ってくれて、ずっと語り継がれるような音楽を作り続けていければいいな」と。
■LOVE NUT(ラブ・ナット)
小松:これは最近タワーレコードで衝動買いしたアルバムです。まず、ジャケットに魅かれて、試聴サービスで聴いてみたら、想像通りのギター・ポップ・サウンドだったので即気に入って購入してしまいました。全体的にすごくカッコいいギター・サウンドで、特に二番目の「スター」という曲は、すごく単純な音なのにここまでカッコよくギターサウンドで聴かせられるんだということにひどく感心してしまいました。日本人ではこういう風にまとまらないんだろうなって、少し悔しく思いながら、でも今後はいつかこういうサウンドにも自分も挑戦してみたいと思いました。
最後に、最近のお気に入りの作品を一つ紹介してもらった。どうもこの頃はシンプルで激しいギターサウンドにも開眼しつつあるようだ。
ジャンルや年代に関係なく幅広く音楽をとらえ、自分のアンテナに引っかかるCDを探し求めるシンガーソングライター、小松未歩。シンガーソングライターという職業ゆえ、さぞかしCDコレクションを膨大にし、通常のリスナーとは違ってCDを衝動買いしたり聴き漁っているのでは?と推測した。が、さにあらず。実際の彼女の風景は、なかなか微笑ましきエピソードに包まれていた。彼女は今でもCDを購入する時は、試聴サービスで音を聴き、それも例えば聴き方でもイントロからちょっと聴いて、いいと思ったら一応全部聴いてみて、「あっ、いいんだ」と思ったら大切に選んで一度に1~2枚買ってくるそうだ。そうやって音楽を愛し、慈しみながら聴いてきた彼女は、これまで、多くのアーティストの作品によって感動や影響を与えられてきた。今度は彼女自身が愛される音楽を伝える側として、より多くの人々から感動や共感を得る作品を生み出してくれることを願いたい。
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