「旅館じゃないんだからさ」の外側
9/23の昼公演を現地で見ました。
劇場は大阪の近鉄アート館。天王寺の近鉄百貨店の中にある。天王寺は通っていた高校が近く、放課後に遊ぶ場所だったし、予備校も天王寺だったし、何より近鉄百貨店は小さい頃から祖母と何度も買い物をしていたとても思い出深い場所。7階で服かおもちゃを買ってもらって、改札前にある551で豚まんを買って帰るのが恒例だった。
ダウ90000のことは上京してから知り、下北沢の本多劇場で昨年の演劇公演と今年の単独ライブを観た。
上京してきた者からすると下北沢で観たことがあるということに少し優越感があって、東京での自分だけの生活の中で見つけたということが宝物だから、敢えて地元で観る必要があるのかな…と少し思ったけど、コントライブを見せた東京の友だちが興味を持ってくれて、どうしてもすぐに生で演劇公演を見てほしかったから考える間もなく大阪行きを決めた。友だちが大阪まで同行してくれたのもありがたすぎる。
演劇好きの友人も大興奮だったこのセット、せり出している部分に棚を置いてTSUTAYAにしてしまうのが大発明すぎる。私だったらこれ思いついたらもうこの先何も作れなくていいなと思うかもしれない。
近鉄アート館を見つけたから再演を決めたのか、再演したいからこのセットが組める会場を探したのかどっちなんだろう。
私が観た回はお父さんと一緒に来た小学生の男の子がいて、ストーリーはどこまで理解出来てるのか分からないけど、上原と吉原が走り回ったり園田の変顔で笑ってる声が響いてすごく良かった。小学生でダウ90000観てるの将来有望だな。劇場がデパートの中にあるから連れて行きやすかったのだとしたら大成功だよね。
一応どんな話か説明しておくと、
千葉の国道沿いにあるTSUTAYAが舞台で、TSUTAYAあるあるから店員3人、客5人のいろいろな過去が芋づる式に明らかになり物語が進行するコメディ。(あらすじ紹介苦手)
TSUTAYAカードの更新は一年おきに発生し、必要な本人確認書類はみんな忘れがちってことで会場全体が笑ってること自体凄いことだと思う。これが世の中のあるあるだということに気づいたのも結構発明なんだよなぁ。
TSUTAYAの店員さん、一日に何回カードの更新で本人確認書類忘れる人の応対してるんだろう。
カードの更新のシーンを見て私もTポイントカード更新してないことを思い出した。
劇場で観た日のちょうど一年前くらいに結婚と引越しをして、ありとあらゆるものの苗字と住所を変えた。一年経ってもまだ変更できていないものがたびたび見つかって辟易するのだけどまさか観劇中に気づくことになるとは思わなかった。
それから園田が演じる片山のセリフが刺さりすぎて受け流そうと思っていた感情が戻ってきてしまった。
特に主義主張があるわけでもないけど27年も名乗ってきたのにいきなり変わって嬉しいわけがないし東京での一人暮らしは忘れられない元カノのように今でも思い出して少し泣きそうになるくらい思い入れがある。
苗字も住所も違っている免許証や通販の明細を見て、どこの誰なんだよと未だに思う。
私のTポイントカードの中にいる小さい私はまだ旧姓で練馬に住んでいる。
アプリに登録している最寄りの店舗も練馬区役所前のままになっている。
片山の、思い出と共に生きていたいって気持ち、めちゃくちゃ共感できてトータルで一番感情移入できるんだよな…。
普通にめっちゃキモいところもあったのに…。
「つまんない映画って最近見れないし」って何気ないセリフだったけど真理だな。
大学の時、ゼミの先生に「自分でお金出してつまんない映画を観て何故つまらなかったのか考えなさい」って言われたことあるけど、そんなこと余程エンタメが好きな人しかしないだろうし、サブスクですらレビューを読んで面白そうなものしか観ない人が大半だから、この作品の中で一番芯食ってる名セリフだと思う。
一番ネタバレしたらいけない部分だと思うから伏せるけど、元彼・元カノの口喧嘩を一発で終わらせる痛いところを突くトドメの一言が2回出てくるんだけど2回ともちゃんと面白いしドカンと笑いになるくらい若者にとってあるあるなことにびっくりする。
私の友だちにも2人いるから世の中にこれやってる人間マジで多いんだな、蓮見さんは同じ話何回聞いたんだろう。
蓮見さんの役、めっちゃ早口で口悪いしコスいのに元カノに名前を教えられた花を見かけたらちゃんと元カノのこと思い出すの可愛い。
私は現在進行形でCDを買ったり借りたりしている人種だから、片山が元カノに放った「形に残るものが一番いいってわかるでしょ?!」って叫びに、全力でありがとう……!!と思ってしまう。本、CD、DVD、形に残るカルチャーを作っている全ての人に届いてほしい。
そのあとの元カノの反論も含めて人間ってそんなものだよな、って感じで本当に人をよく分かってるなぁと思う脚本だった。
爆笑に次ぐ爆笑の中に「エンタメってただの作品というだけではなく、それを観たときの個人の状況が思い出として紐付くことで大切なものになっていくよね、そしてパッケージとして残っていてほしいよね」というメッセージを入れて描くことを自分の同世代やっていることがとても嬉しかった。
本人も自分で声を大にして言っていたから言うけどこの公演は再演で、初演は2021年で24歳でこれを書いてるの本当に凄すぎる。
東京でできた友だちを連れて、地元の思い出が詰まった場所にある劇場で観たということが、思惑通り(?)この作品に紐付いていて、これからもタイトルを聞くたびに思い出すと思う。