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信玄餅に見るエコ商品の本質

信玄餅の容器をプラスチックから「もなか」に変更した新商品が発売されたというニュースを見て、感心してしまいました。

この商品そのものはエコとか環境への配慮は謳っていないのですが、こういった商品こそが本当の意味でのエコな商品なのだと思います。消費者が表面的に感じていることと本当に望んでいるものの両方を提供できる商品だと思います。

例えばミネラルウォーターの「いろはす」について考えてみます。発売当初は植物由来のペットボトルで環境にやさしく、飲んだあと手で絞れるので省スペースとプロモーションしていたと思います。当時のミネラルウォーター市場は既にエビアン、クリスタルガイザー、サントリー天然水など、既に競合がひしめいていたのですが、いろはすは後発ながらも急成長を遂げました。

この商品は環境にやさしいから”だけの理由”で売れたわけではありません。当時も既に消費者の環境意識は高まっていたのですが、環境意識だけで商品が売れるのであれば世の中のエコグッズみたいなものはバカ売れしているはずです。なぜ売れないかというと、消費者のメリットがないからです。人は表層と深層で考えていることが違います。表層では環境にやさしい方がいいと考えていながらも、深層では自分にどのようなメリットがあるか考えるものなのです。

いろはすが深層心理で刺さったのはなぜか。それは、ボトルを絞ってゴミを小さくできるという価値が画期的だったのだと思います。この価値は実際にやってみないとわからないものです。でも、実際にやってみるためには少なくとも一本は手にとってもらわないといけません。ミネラルウォーターは差別化が難しい商品ですから、たいして違いがなければ、ユーザーは「すぐ手に入って」「なおかつ安い」商品を優先的に手に取ります。そのため、コカ・コーラは大型の販促費で競合商品よりも安く買えるようにして、トライアル購入してもらえるような環境を整えました。その結果、ボトルがやわらかくて手で絞れるということを実感してもらえたことで、競合商品にはない付加価値を理解してもらうことができたのだと思います。そして、いろはすの絞りの価値を理解して購入するようになった結果として、環境にやさしい設計であることに対する価値も認識してもらえるようになったのだと思います。

今回の信玄餅も、いろはすと同じようなアプローチであると感じました。仮に環境を意識してプラ容器から紙容器に切り替えて「エコです!」とアピールしたとしても、消費者にこれといってメリットがありませんので、あえて選んで買う人は少ないと思います。でも、今回の商品はプラ容器から「もなか」への変更です。テキストで見ただけでもビビッドにイメージがわきますし、一度は食べたてみたいと思えるものです。プラ容器だとどうしても余ってしまう黒蜜ときなこが、もなかの容器に染み込ませることで余さず食べることができるという素晴らしい発明です。単純に食べ物としても優れていて、それでいてプラ容器の使用量が減るという一石二鳥の商品です。

環境にやさしいと謳う商品は世の中にたくさんありますが、大別すると以下3種になると思います。

■環境に優しい商品
1.付加価値あり
2.付加価値なし・既存製品から価格変動なしでリプレイス
3.付加価値なし・値上げ

1は従来商品以上の付加価値を提供していることで、環境に配慮した上で販売数を伸ばせるやり方です。今回のいろはすや信玄餅のような例です。2はスタバのストローのように、従来のプラスチックストローを紙ストローに置き換えるというものです。これまでと値段が変わらないので、短期的な販売数の増減はありません。長期的には環境配慮によるブランド価値向上で、リピート利用は徐々に増えていく可能性があります。3は環境によくても消費者メリットが薄く、同等商品よりも値段が高くなってしまっているものなどが該当します。こういった商品は「環境にいいものを作った」というアナウンスメント効果だけはあるかもしれませんが、セールス的には成功につながりにくいです。

環境にやさしい商品を作ることはとても大切なことです。でも、せっかく作っても売れなければ「環境をよくする」という本来の目的は果たせないのではないかと思います。環境にいいというだけでは消費者センチメンツを動かすことはできず、結果選んでもらえず売れなくなります。そうなると、せっかく環境にやさしい商品を作っても市場に広がっていきません。一方で消費者にとってわかりやすい付加価値があると、その価値を目的とした購買が増えていって、結果的に環境にやさしい商品が市場に広がっていきます。

環境への配慮という崇高な理想は大切ですが、理想だけでは消費者は動きません。環境保護のために今求められているのは、消費者真理を理解した上で、消費者の心を掴めるだけの付加価値のある商品なのではないかと思います。

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