『赤かった繭』 脚本冒頭公開

はじめに

3月11日(土)・12日(日)の演劇空間ロッカクナットさんの企画「屋根上の庭、いつか」にて上演する『赤かった繭』の脚本冒頭部分になります。もしご興味持ってくださったら、以下より公演詳細ご確認いただけます。

脚本全編は当日会場にて販売予定です。あわせて上演されるスムっとさんの作品も掲載されますので、ぜひお楽しみに。

※著作権は作者に帰属します。許可のない複製・上演等はご遠慮ください。また、本作に関するお問い合わせは、mr000daydreamer@gmail.comまでご連絡ください。
※公演までに脚本の内容が変更されることがあります。

『赤かった繭』 脚本冒頭

作:沢見さわ

【登場人物】
住人

住人、アパートの屋上にいる
必死にTodoリストを書いている
そのリストには朝起きてから寝るまでにすべき行動の逐一や、自分の性格や生活の改善点、今後の人生でやらねばいけないこと、などが細かすぎるほどに書かれてゆく

繭、屋上にあがってくる
繭が通ったあとにはするすると糸が残される
観客をはじめとし大勢の人がいることに少し驚くが、あいさつをする

繭:さよなら

繭は、その場に大勢の人間がいることが嬉しい

繭:こんにちは
おはよう
こんばんは
いってらっしゃい
ただいま
さよなら
こんにちは
おはよう
こんばんは
いってらっしゃい
ただいま
さよなら
こんにちは
おはよう
こんばんは
いってらっしゃい
ただいま
ただ、今
たった今

繭、時計をみる

繭:17時○分(※そのときの時刻)
15時から18時が夕方 だからいまは夕方
夕方のつぎは 夜のはじめ頃 18時から21時
21時から24時は 夜遅く
0時から3時が 未明
1日24時間を8等分にして3時間ずつに名前がつけられている
もうすぐ夕方はおわって 夜のはじめ頃になる
今日の日の入り時刻は18時○分
この場所にはいくつの時計があるんだろう
私は数字の時計より、丸い時計が好き

繭、空を見上げる

繭:○色(※そのときの空の色を丁寧に説明する)

繭、自らから糸を引き出しながら観客に手渡す

繭:ちょっと持っといてくれます?
持つの面倒だったら、手首とか椅子とかそのへんに結んでもいいので

繭、あちこちに糸を手渡したり結んだりしながら、縦横に糸を張り、まるで巨大な布を織っていくかのよう(以降この作業はずっと続けられる)

繭:あなたも

繭、住人にも糸を差し出すが、住人はTodoリストを書いているため受け取ることができない

繭:もー

繭、糸で住人の腕をしばる
住人、少しじたばたとするが、諦めて口でTodoリストを話しはじめる

住人:朝 起きる 目を開ける ねこのポーズ 手と足をゆらゆらする 体に血をまわす 代謝 血圧 リンパ なんかそういうめぐり みたいなもの めぐれ 起き上がる 違う 起き上がろうとする
あああああああああ
起き上がる 起き上がる 起き上がる 起き上がる 起き上がれる 起き上がれるから

住人、もう二度と起き上がれないような状態になる
しばらくするとあっさりと起き上がる

住人:トイレに行く スマホを見る ブルーライトには目を覚ます効果があるらしいから朝見るのは良いこと ということにしとく まあ深夜にも見るけど 深夜にはスマホは見てはいけない と思いつつ暗闇の中で見れるものはスマホくらいしかない 顔を洗う タオルで拭く 化粧水をつける 昨日剃った眉毛がもう青い カバンに入りっぱなしだった飲みかけのペットボトル それは 紅茶 ジャスミンティー ポカリ 緑茶 ゼロコーラ いずれか 飲む 買ったのは夜中の1時とかだから昨日の飲みかけではない あくまで 今日 キンと冷たい 深夜をそのまま閉じ込めた温度 こんなものじゃなくて白湯を飲むといいんだろうなと思う 「思う」ことがルーティーンであって実際に飲んだことはない 「白湯、飲むといいんだろうな〜」 今日のTodoを書いていく 朝 起きる 目を開ける ねこのポーズ 手と足をゆらゆらする 体に血をまわす 代謝 血圧 リンパ なんかそういうめぐり みたいなもの めぐれ 起き上がる 違う 起き上がろうとする
あれ?
……化粧 下地を塗る ファンデを塗る それからポーチの上のほうにあるものから順に塗っていく 毎日毎日ぐるぐるとポーチの中身は混ざる 上から下 下から上 ぬか床 みたい 化粧は義務 勤労・納税・化粧 化粧をしないと勤労もできないから 正しい順番は 化粧・勤労・納税 そうだ アクセサリー でもつけとくか あのチラチラと細い 光の紐 あ

ひさびさに取り出したネックレスは酷くからまっている

(続く)

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