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1983年問題(ムラヴィンスキーのチャイコフスキー交響曲第5番の録音データの問題)

皆さんは「1983年問題」をご存じでしょうか?

これは、ムラヴィンスキーが指揮したチャイコフスキー作曲の交響曲第5番の録音データの問題です(私が勝手に命名しました)。

ムラヴィンスキーは録音データが不正確なものが多いことでも有名な指揮者です。何年何月の録音かわからなかったり、演奏記録が存在しない日の録音が存在していたり、同じ日の録音のはずなのに演奏内容が明らかに違うものであったりと、ムラヴィンスキーの録音を収集するマニアたちを困らせてきました。

今回取り上げる「1983年問題」は、ムラヴィンスキー指揮、レニングラードフィルによるチャイコフスキーの交響曲第5番の「1983年3月19日」に行われたとされるライブ録音についての問題です。

この「1983年3月19日」のライブ録音とされる音源は、1989年に日本のビクターから初めて発売されました(VDC25024)。「新ムラヴィンスキーの芸術」というシリーズ名で発売された中の一枚で、ムラヴィンスキーの指揮したチャイ5の中でも人気の録音となっています。この音源は、エラート、ヴェネツィア等のレーベルからも発売されています。

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ところがこの「1983年3月19日」という録音データは誤りであることに数年前気が付きました。この演奏が録音された正しい日付は「1982年11月5日」で、しかもライブ録音ではなく、リハーサルのゲネプロの録音なのです。

↑上に表示されている動画は、1982年の映像としてドリームライフから発売されたDVDの映像と同じものです(DLVC8089)。

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ビクターの「1983年3月19日」盤と聞き比べてもらえればわかるように、まったく同じ演奏です。このDVDに収録されているインタビューでは「演奏会の前日に収録した」という趣旨の発言があり、この「演奏会」とはAlutusから発売されている「1982年11月6日」の演奏であると推測されます。よって、この映像、そしてビクターから発売された「1983年3月19日」という録音は「1982年11月5日」のゲネプロの模様であると考えられます。

では「1983年3月19日」のライブ録音は存在しないのか?実は存在します。それは、ロシアンディスクというレーベルから発売された「1983年3月19日」と記載されているものがそれです(RD CD 10 905)。

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この音源はビクターの演奏とは異なるため、「1982年11月5日」の演奏ではありません。そして、Toritonから発売された「ムラヴィンスキーの至芸」というVHSに収録されている「1983年3月19日」とされる演奏会の映像とこのロシアンディスク盤の演奏が全く同じであることがノイズなどから確認できます。よって、真の「1983年3月19日」盤は、このロシアンディスクから発売されたCDであると考えられます。

また、iconeというレーベルから「1983年3月11日」というデータの録音が発売されています(ICN9404-2)。こちらは上記ビクター盤、ロシアンディスク盤とも違う演奏です。このiconeの録音データは、演奏のテンポ設定や解釈から推測するに1983年ではなく1980年~1982年ごろの録音であると思います。

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以上長々と書いてきたものをまとめると

・ビクター盤「1983年3月19日」のライブ録音→「1982年11月5日」のゲネプロ録

・ロシアンディスク盤「1983年3月19日」のライブ録音→正しい。ビクターとは異なる演奏

・icone「1983年3月11日」のライブ録音→1980~82年の録音?

となります。

このように、日本の大手レコード会社から発売されたものでも、録音データが間違っていることもまれにあるので、購入する際には注意が必要になります。

ほかにもムラヴィンスキーの録音データには誤りが多数あるので、また別の機会に紹介していきたいと考えています。

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