疑った手で掴んで 大切に信じるしかなかったグライダー

今日は私にとって重大なイベントがあり、昨夜は不安でよく眠れなかった。これほど緊張したことはここ二、三年では記憶にない。
恐らく私が人生でもっとも緊張したのは、大学受験のときだ。前夜の焦り、会場に向かう電車からの眺め、席についてからのことなど、ここまで子細に思い出せる一日は私の人生にそう多くはない。
何か緊張することがあると、その日のことを思い出す。特に克明に思い出すのは、その日に聴いていた音楽だ。

不安を解消するために何かをするのは、却ってそれを増長させてしまう気がするので可能な限り避けるのだが、それでも手に負えない時にはいっそ開き直って音楽を聴く。
あの日も、英語を残して他の科目が全て終わった時、あと一つだけいつも通りに解ければ大丈夫そうだと思いながら、いつも通りの自分を再現しようとイヤホンをつけた。
少し考えて選んだ曲はBUMP OF CHICKENのbeautiful glider。バンドは中学生の頃から一番好きだったが、この曲を特に好んで聴いたことは、実はこの時までにはなかった。
BUMP OF CHICKENにはよくあることだが、この曲は努力をする人を応援していながら、無闇に背中を押すことはしない。ただ一人で雨雲の中へ飛び立つ相手の無事を、後方で手を振りながら祈るだけである。


もう答え出ているんでしょう どんな異論もあなたには届かない
もう誰の言う事でも 予想つくぐらい長い間 悩んだんだもんね

いつだってそうやって頑張って考えて 探してきたじゃないか
いっぱい間違えて迷って でも全て選んでいくしかなかったグライダー
雨雲の中


この曲には、公開から二年後に歌詞が訂正されるという異例の出来事があった。細かいところまでは言及しないが、それはほとんど最後の重要な部分であって、この変更によって私はこの曲がずっしりと腹の奥に落ちた気がした。


ぶつかってぐらついてパラシュート引っ張って 絡まっていたりしないか
キリ無い問答不安材料 でも全て抱いていく墜ちられないグライダー
誰にも見えないさ

いつだってそうやって頑張って考えて 探してきたじゃないか
疑った手で掴んで 大切に信じるしかなかったグライダー
雨雲の中

夜明け前


自分ならきっと成功できると、胸を張って思い込むことは私にはできない。できるのは、せめてこの時のために払ってきた努力を思い出し、それを無駄にしないよう、最後の瞬間まで全力を振り絞ることだけである。
実は私は今、緊張の根元であるイベントを目の前にして、beautiful gliderを聴きながらこの文章を書いている。書いても不安が和らぐわけではなさそうだが、少なくとも自分のやるべきことだけははっきりした気がする。

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