応:『窓ガラスに君がいた』の続きを書いてみました

 どうもMr_noiseです。
いつも通りnoteのコラムの新着を流し読みしていたら、恋愛小説の続きを書きませんか?という企画をuraraさんという方がやっていたので面白そうだなと思い、参加してみることにしました。

ある冬,疲れた夜,電車に乗って家に帰る.
冬の電車は厚手のコートに押し付けられて,空気は淀んでるし,ものすごく熱気がある.外気との気温差を考えて冷房を入れてほしいと願ったのは何度目だろうか.

満員電車になんとか身体を押し込み,一息ついて窓ガラスを見ると,君がいた.

「「えっ!」」

お互いに目が合って,振り向くと君がいた.

周りの人混みなんかは消え去って,心臓が止まりそうになり,高鳴る身体は暖房に負けないくらいの熱を帯びた.

 この続きを書いてみてくださいとのことらしい。
いくつか続きは思いついたのだけど、他人様の文章の続きなので、失礼のない様に縛りをくわえて書こうと思う。こういうの決めないと妄想が暴走して大変なものを書いてしまいそうだからね。

縛り内容

①あくまで恋愛小説を書く
 別ジャンルに逃げない。主軸は恋愛小説。

②なるべくuraraさんの文章の文体及び情報を活かす
 
文章を全部無視してシチュエーションだけ残すとか主人公を変えるとかしない。

③あくまで短編小説を書く
 
短編小説の設定らしいし、長々と書くと始まりの文章から遠くへ行きすぎてしまう。今回はnoteの企画だし、1000字から5000字くらいで納めるのが読みやすそう。

 では、この三つの縛りで書いていく。恋愛小説とか書いたことがないけど、まあ何とかなるだろう。こういうの見切り発車でないと書きはじめられないからね。前置きが長くなりましたが、始めますね。

『窓ガラスに君がいた』

ある冬,疲れた夜,電車に乗って家に帰る.
冬の電車は厚手のコートに押し付けられて,空気は淀んでるし,ものすごく熱気がある.外気との気温差を考えて冷房を入れてほしいと願ったのは何度目だろうか.

満員電車になんとか身体を押し込み,一息ついて窓ガラスを見ると,君がいた.

「「えっ!」」

お互いに目が合って,振り向くと君がいた.

周りの人混みなんかは消え去って,心臓が止まりそうになり,高鳴る身体は暖房に負けないくらいの熱を帯びた.

 時は1分ほど遡る。 
その冬の夜、俺は帰宅の電車の座席に座り、スマホでパズルゲームをしていた。
コンボが上手く繋がらずに飽きて、目を上げ、周りを見回す。
どいつもこいつも最寄り駅への到着を拷問の執行中みたいな時化たツラで待ってやがる。そういう俺も同類だ。満員電車はただの移動手段で、それ以上のことは期待できない。ひとつ望むことがあるとすれば、エアコンの設定温度を下げて欲しいくらいだ。暑いし、誰かの香水の匂いが熱と合わさって気分が悪い。

 「「えっ!」」

 男女の声が重なって聞こえ、目をやると若い男女が驚いた様子で見つめ合っていた。互いに次の言葉をためらいながらも、何かを期待する空気がそこにはあった。俺の座る座席は入り口近くの端っこなので、すぐ隣には入り口近くで向かい合う二人がいることになる。

 沈黙、緊張する顔、沈黙。何か言えよ若人よ。ええい、何で独り身のおっさんがこんな若者の甘酸っぱい空気にさらされないといけないのだ。もう次の駅が降りる駅だし、ここは早めに退散しよう。俺はパズルゲームのアプリを閉じて、立ち上がった。

「次、降ります」

 俺が動いた分だけ、人の波が動き、見つめ合う男女も波に巻かれて、はぐれることになるかもなと意地悪な狙いもあった。どうなるかわからんが、若人らよ、恨むなよっと。

 仕事帰りの電車で今日の晩御飯を何にしようと考えているといつの間にか立ったままうつらうつらしていたようだ。吊皮を持つ手がしびれて痛い。そんなとき耳にした「次、降ります」といった声は聞き覚えがあった。俺の主張は聞き入れられて当然と言った含みのあるひねくれた調子。別れた理由の一つだ。聞き間違えるわけがない。次の駅で開く扉は目の前にある。窓ガラスにちらちらと映る男はこの5年で老けていたが間違いなく彼だった。会いたくない。もう息子にも5年ほど会わせていない。彼に見つかればそのことをネチネチ責められるだろう。

 目の前のガラスには自分がいた。化粧をしてタイトスカートを履いて、愛する息子のために保険の販売員として働く自分。家庭のことを何にもしない彼と住みながら専業主婦をやっていた5年前よりは幸せだが、その分疲れていて、その分老けた。こちらにもネチネチ言いたいことは溜まっている。昔の様に友達として一緒に飲んで、悩みを聞いて欲しい。今の自分はどんな風に見えるのか、遠慮を知らない彼の口から聞いてみたい。そんな考えが頭をよぎった。自分から別れてもらったのに甘い考えだ。今顔をあわせたら、彼にすべてを見透かされる気がする。とっさに逃げねばと思い、「通してください」とその場を離れようとした。

 お母さんくらいの人が「通してください」と言って、人と人との間に割り込むようにして近づいてくる。眼の前に足が迫ってくる段になってようやく危ないと気づき、狭い空間で体をひねってよけようとしたが、背負った教科書でパンパンのリュックが重く、重心をひっぱられる。こけると思った瞬間、「あぶないよ」と手を引かれた。

 同じ塾の男の子がこけそうになっていたので、思わず「あぶないよ」と声をかけ、手を引いてしまった。同じ小学校だけど別クラスで話したことがない。男の子と手をつないだのは幼稚園以来だ。彼は不思議そうな顔でこちらを見ている。つないだままだった手を慌てて放す。急に恥ずかしくなって、「ごめん」とだけ言って、カバンと脚の間から何とか隙間を縫って逃げた。黒いコートの群れが私が動いた分だけずれる。背の方から「ねえ待ってよ」と声がした。

 満員電車の中で誰かが動いたせいか、人の動きに合わせて人が動き、空いた隙間に誰かがまた動き、目の前にいた人物が入れ替わった。必ず返すと言って10万円借りたきりの友人だった。「てめえ」と言うと、友人の顔が青ざめる。彼はもがき、逃げようとして、また人の列がずれる。

 出張に行っていると言っていた彼女が目の前に現れた。

 恩師のすがたが見えて、ひさしぶりに近況を話したくなった。

 あれは追っかけをしているバンドのキーボードの人ではないか、声をかけたい。できればボーカルとの飲み会をセッティングして欲しい。

 たまたま友人が同じ車両に乗っていたらしい。試験前だし、ノートをコピーさせてほしい。

 ちらっと見えたあの子、推しのキーホルダーをつけている。先月のライブ限定のやつだ。同世代で話せる友達作りたい。

 やべえ、前の職場のババアじゃん。あんな辞め方して、顔をあわせたら何て言われるかわからん。逃げよっと。

 繁忙期に突然やめやがったクソガキがまた私の前から逃げようとしている。逃がさん。

 5年前に別れた女房がいる。なんか彼女泣いてないか。疲れてんのかな。ちらりと顔は見えたがこちらに気づいているのか、人の群れの中に入り込んでいく。息子はどうしてんだろ。彼女の顔を見て久しぶりに子供を思い出すなんて俺は本当にダメな父親だ。彼女と話してえな。酒飲みてえなと思い、手を伸ばし、彼女の腕をつかむ。「おい」

 転びそうになったのを助けてくれたから、あの子にお礼を言わないと彼女を追いかける。

 エトセトラエトセトラ。

 電車が駅に着いた。別れた夫婦はひさしぶりに再開し、息子に会うために駅を降りた。借金の借り手が降りたので貸し手も追いかけるように降りた。出張にいっていたはずの彼女の言い訳を聞くために彼は一緒に降りた。恩師と同窓会の日程を練るために二人は恩師の最寄り駅で降りた。声をかけるよりもこのまま行動を見張った方がボーカルと近づけるチャンスが増えるのではと、キーボードが降りたのでファンも降りた。とりあえずファミレスで過去問とノートを共有することになった大学生二人も降りた。無言でファンアイテムを見せ合い、そのまま二人で降りた。首根っこ捕まえられた若いサラリーマンが年上の女性に引きつられて降りた。思わず最寄り駅でない駅で降りてしまった女の子を心配して、同じ塾の男の子は追いかけて降りた。あとのみんなもそれぞれの理由で降りた。

 パズルゲームで同じ色が連鎖して消えるように、車両から黒色ばかりのコートがいなくなった。周りの人込みが本当に消え去ってしまった。駅に着くまでの車内での人の動きで彼女も僕も押し動かされ、彼女は目の前からはいなくなっていた。彼女は僕ら以外誰もいなくなった車両で向かい側の席に座った。入り口近くのポールの隣の席。僕も彼女の向かい側に座る。僕らの間の偶然はもうそこにはなかった。あと数秒したら、降りようとしている人の移動が終わり、乗客がどかどかと乗り込んで彼女の姿も見えなくなるのだろう。

 彼女の顔を覗く。残念そうな顔に見えるが、こちらに何か合図をくれるわけでもない。もう目が合うこともない。それでもまあいいかと思えた。同じ沿線を使っているのがわかったし、また会えるだろう。もしかしたら同じ駅で降りるかもしれない。その時声をかければいい。そう思ってた。

 窓ガラスに自分が映ってた。偶然が無ければ好きな子に話しかけられない、情けない、そのくせ意識してしまって前髪を触っている、うすら寒い自分。そんな自分が嫌で変わろうとして染めた茶髪の前髪。結局みんなと同じ黒の厚手のコート。その隣に彼女がいた。

 僕は立ち上がった。どかどかと歩き、彼女の隣に座る。彼女は驚いた顔でこちらを見ている。心臓が止まりそうになる。嫌われないかなと思うと怖い。でももう動いてしまった。今度は偶然じゃない。口は乾いて気の利いた言葉は出てきそうにない。でも彼女はこちらを見ていて、目があって、可愛くて、好きで、それをそのまま伝えるには早すぎて、「なんか、なんかさ、さっきさ、すごかったね」とたくさん人が降りたことを身ぶり合わせて伝えようとして、うまくできずに、彼女の顔を見てられなくて、目をそらした。

乗客が次々に乗り込んでくる。

窓ガラスに映る彼女が笑う姿が見える。
「なんかすごかったね」彼女もそう言った。
僕はもう窓ガラスは観ずに、次の言葉を探した。
見なくてもどうせ二人とも笑っているから。

所感

 すぐ書けるだろうと思い、書き始めたが1週間経ってしまった。実際、書いたのは一週間前の今日と今日の二日間だけだが、間が空きすぎてしまった感がある。とりあえず満員電車と窓ガラスと二人の情報が何も出てこないことを利用し、そこから着想を飛ばして、満員電車の乗客を本当に全員消す方向で話を進めた。主人公は変えないけど、主人公を増やそう。偶然二人が出会うなら、乗客全員になんか偶然が起きて、降りることもあるだろうと考えた。恋愛小説がこれでいいのかは初めて書いたのでよくわからん。uraraさんに失礼にあたる文でなければいいが。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
不出来な部分はたくさんあると思うので、ご指摘含めてご感想をコメントでいただければ幸いです。

#小説 #恋愛小説 #リレー小説 #窓ガラスに君がいた

 

 

 

サポートしていただいた場合、たぶんその金額をそのまま経費として使った記事を書くと思います。