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『銃』~『文体の舵をとれ』練習問題① 文はうきうきと 問2

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 風が吹かないから太陽は容赦なく照り付けてくる。額を半袖にこすりつけて、滲んだ汗を拭った。少年たちはストレッチをしたり、走り出しのフォームを確認したりしている。館内放送が種目の始まりを告げると、観客の声が収まり、沈黙の時間が始まる。誰かの生唾を飲む音が聞こえる。「位置について」私の声で私は言う。選手たちに私の緊張がうつらないように、私は私の声で機械のように告げるのだ。私は腕を天に挙げ、彼らは呼吸と姿勢を整える。スパイクとスターティングブロックが擦りあい、カツリと音を立てる。挙げた腕から脇へと汗が垂れてくる。私は左手で耳を塞ぎ、選手らは音を逃さまいと、聞き耳を立てる。銃を持つ右手の人差し指にゆっくりと力を込めていく。吐息すら漏らさぬように歯を食いしばえて備えた。爆発音は私の実感よりも早く鳴る。連動した時計はタイムを刻む。凪いでいた観客がいっせいに声を上げる。私の視線の先に少年たちの顔が入り、あっという間に背中しか見えなくなる。私はゆっくりと呼吸を再開する。百メートル先で決着がついたようだ。勝者が歓喜し、敗者が泣き崩れている。私は黙って銃を仕舞い、スターディングブロックを取り外しに行く。

『文体の舵をとれ』という本の課題に沿って書いた文です。
一段落で動きのある出来事を書くみたいな課題で、書けそうなアクションシーンが他に何も思いつかず、オリンピックやってたなあと思って書きました。

 はてな匿名ダイアリーに載せてみましたが反応がもらえなかったので、こちらに移しています。 感想や誤表現等のご指摘をいただけたら幸いです。

#小説 #文体の舵をとれ #文はうきうきと #問2  

サポートしていただいた場合、たぶんその金額をそのまま経費として使った記事を書くと思います。