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アニメ『ダンス・ダンス・ダンスール』感想

『ダンス・ダンス・ダンスール』
2022年4月に放送開始されたこのアニメ、絶対ハマるだろうととっておいたのですが、ようやく見始めたら2日で一気に全11話見てしまいました。

おもしろい!!!

スポ根ではないけれど、構造がスポ根である王道バトル少女漫画のレジェンド『ガラスの仮面』などと少し比較しながら書いていこうと思います。

王道スポ根漫画だ!

いや、王道スポ根少女漫画だ。
『ガラスの仮面』や『SLAM DUNK』、『ハイキュー』のような読みはじめたら止まれない中毒性がそこにある。
次々と起こってくる問題や難関をどんどん乗り越えていく。問いがあって答えがある。大きな問題、小さなつまづき。それを重層的に解決していく気持ちよさ。
要するに「次、どうなっちゃうの???」をバンバン入れてくる。その「次どうなるか」が知りたくて、やめれない止まらないのである。
そこへ、少女漫画の繊細な心理描写が入ってくる。
具体的な問題の解決と、心の成長も丹念に描かれるのだ。

主人公の潤平は完全に陽キャ

陽キャ、かつ、自分の父親の思いも家族も友だちも全部大事にしようと、自分の「本当はバレエがしたい」気持ちを封印している、他人を思いやれるやさしい子だ。
その上、「見る目」のあるバレエのプロ達が全員「そうだ」と見て取れるバレエの天賦の才がある。
完璧だ。
パーフェクト野郎なのに視聴者が潤平にノれるのは、「いいヤツ」で「誰よりも努力するヤツ」で「8年も自分の気持ちを抑えてきた、苦しみを知ってるヤツ」だからですね。
あとは、バレエ界という特殊オブ特殊世界を、外側から視聴者と共にツッコんでくれる役割もある。
潤平が好きだ。
応援したい。
トップの中のトップになってほしい。
まず、そう思わせてくれる主人公だ。
すごい。

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王道スポ根漫画というのはすごい

王道作品というのはすごい。
視聴者の「気持ちよくしてくれるだろう」期待に応えていかねばならない。
問題が解決すること、主人公がランクアップしていくこと、やきもきする恋愛の成就。
どれも「気持ちいい」。それを与えてくれるのがエンタメな漫画アニメ作品とも言える。
しかし最大の快感は「ライバルと快感レベルのバトルを繰り広げること」だ。
「勝つこと」ではない。
「闘いそのもの」が「気持ちよさの絶頂」なのである。

そのための必須要素、それがライバル。
おそらく生涯ライバルとなるだろうキャラが流鶯だ。
流鶯の経歴は傷だらけだ。
(今のところ)父親が誰かもわからず、母親に捨てられ、育ての祖母には虐待を受けて育つ。母親はお騒がせアイドルであり、幼少期からそのことでイジメを受け、学校にもまともに行っていない。日本語を読むのさえ難しいほど。
唯一まともにコミュニケーションできるのが、ヒロインの都だけ。
ダーク過ぎる。
しかし流鶯には、祖母から虐待かつ徹底的なバレエ指導を受けたゆえの(プラス遺伝の)、圧倒的なバレエの才と技術がある。
(これは山岸凉子『舞姫テレプシコーラ』で、家庭に恵まれず、だが天賦の才があった空美が、海外バレエに夢破れ精神的に病んだ伯母から、虐待に近いキツいレッスンを受けるのとほぼ同じだ)
しかし、これもまた王道だ。
初回で流鶯は嫌なヤツ、だ。
しかし、なぜそんな嫌なヤツになったのかが物語が進むに連れて見えてくる。そして、そうなるのも仕方がないと思いやれるようになっている。
応援したくなる完全陽キャの潤平を主人公も、最強ライバルである筈の流鶯もまた、しあわせになってほしいしバレエでも認められて欲しいと応援したくなってくるのだ。
バレエは舞台でありアートである。
しかし、アスリートでもあり、勝敗のある厳しい世界だ。
そこで潤平と流鶯はバトっていくのだろう、他のキャラも出てきて、いろんなバレエバトルがあるのだろうと予想される。この作品のずっと先も楽しみになる。
そして、ちゃんと、次々に応えてくれるのだ。
王道だ。すごい。

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(気楽に読むと色々とえぐられる珠玉の名作『舞姫 テレプシコーラ』)

天才キャラと努力キャラ

個人的な話だが、バレエではないがダンス世界に長年関わっている。
ダンスの世界というのはバレエが頂点、ダンスと言えば正式にはバレエを指す、みたいな空気がある。実際にバレエ関連の知人も多い。
だから、わかるのだ。

バレエというのは努力だけでは無理ゲー世界なのだ。

圧倒的に「持って生まれた才能」が必須である。
長い手足、首、骨格、筋肉の質、容姿、柔軟性、リズム感。さらには表現者として演技者としてのセンスと頭の良さも必要。
圧倒的な才能も、圧倒的な努力も必要。
しかも努力も並大抵ではない。プロを目指すなら小さい頃からバレエ用へと身体を作り変え、他のことをすべて捨てるような生活をしなければならない。
つまり、流鶯のような経歴は漫画的な「盛り」でもあり、極端で犯罪級ではあるけれども、ある意味バレエのリアルな厳しさも表している。あれほどまでに、全生活時間を費やさねば、プロの頂点を目指すことさえ許されない。とも、言える。

つまり、天才キャラvs努力キャラとならないのだ。
全員、天才&努力キャラなのだ。
努力を努力とも思わない「努力の天才性」も必須。

また、必要な要素はそういったバレエに関連する身体性だけではない。
「舞台は皆で作る仕事」であるから、コミュニケーション能力、常識も必要。そこも、きちんと描かれており、その点で流鶯は劣り、潤平はコミュ強で素直ですぐに行動するキャラで優れている(とは言え、「自分」を優先して他の団員の出番を奪う暴走をしちゃうけど)。
二人は簡単な明暗キャラではなく、いろんな面で反転するライバルなのだ。

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少女漫画であり少年漫画であり、青年漫画であり

そのキャラ設定の深さと絶妙さ、心理描写の繊細さが少女漫画であり。
かつ、主人公がガンガン行動して周りを巻き込み、困難を克服していく少年漫画であり。
そして媒体がスピリッツという青年誌であることで、今後の大人になっていく主人公たちの展開に重厚さが増していくのだろう。
期待値がすごい。

『ガラスの仮面』北島マヤと淳平の天才性の違い

軽く説明すると『ガラスの仮面』の主人公:北島マヤは、貧乏な演劇バカで天才だ。そしてライバルの姫川亜弓は、大富豪令嬢で努力型の演劇バカだ。
先に天才型と努力型キャラと書いたのは、ガラスの仮面がそうだからですね。
(もちろん姫川亜弓にもスターになる才能があるのですが長くなるので割愛)
序盤、貧しいけれどひたむきに演劇の道を進むマヤに思い入れ、がんばれ!となっているのだが、だんだんとマヤの狂気じみた演劇バカっぷりに、共演者も読者も少々引きはじめるのである。
まさに「おそろしい子……!」となるのだ。
引きはじめたとは言え、マヤはいい子なので応援はするのだが、その圧倒的な神がかり演技に「紅天女はもう絶対マヤじゃん」となり。途中からは亜弓さんが気の毒になってくるというか、なんだかいたたまれなくなるというか。
ライバルと主人公の逆転現象になってくるのである。

さて。
じゃあ潤平はどうでしょう。
アニメの中では潤平の天賦の才も、努力の天才性も、とてもすごいが地に足がついた描写だ。
潤平の性格が庶民的なのもあり、視聴者から「離れた存在」にはなっていない。
マヤに紅天女が確定しているように、潤平もまた、トッププリンシパルになることは漫画としてほぼ確定した要素だ。
そこに行くには「狂気」とも言えるものが必要だろう。
果たしてどんな描写になるのか……「結果」がわかっていて、その「過程」が死ぬほど楽しみになる。
それぞ、王道の物語だと思うのです。

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お金持ちの姫乃小路寿くん

バレエ界の暗黙の了解。
本人に才能はないが「お金持ち」というアイテムを持つ人の大事さ。
バレエはとにもかくにもお金がかかる。普通に習っていても、靴、レッスン着、衣装代、発表会代、その他諸々、非常にお金がかかる。
そこで、家が金持ちのレッスン生の親は、お教室の子たち全員分の衣装を作ったり、舞台にかかる経済的援助をしてくれるのである。もちろん、その分、うちの子もひとつ……というわけだ。
パトロンだ。
そういう存在がないと、そもそもバレエというお金のかかる表現を存続させることは困難なのだ。
そんな不可欠なキャラが、姫乃小路寿くんだ。
最初は、いわゆるそういった金でポジションをつかんだキャラなのかなと思っていたが、違った。
一番泣ける!
だって彼は、自分が才能がないことを「しっかりわかっている」のである。むしろ同年代の誰よりもわかっているのかもしれない。
だってバレエが大好きだから!バレエを見る目があるから!
悲しい!
でも人生ってそういうものだ。自分が好きなことに才能があるとは限らない。
だから、寿くんにも幸アレ!と思う。
プロになれないとわかっていても、出来るところまでは行きたいと思っているのだろう。親の金の力であることもわかっているのだろう。それでも……と思っている。
けなげ!
しかも、性格が良い。
親も愛情を注いだのだろうとわかる、性格の良さだ。
プロになれずとも、バレエを後ろから支えていく立場になるのだろう。そうして自分の自分らしい道を見つけていくのだろう。そんな寿くんを応援せずにはいられない。

夏姫が好き!

好きだ!夏姫!
名前もいい!顔もいい!小学生なのに気が強いのもいい!
夏姫と潤平の跳ぶシーンに、見てる方もキラキラわくわくどかーんですよ。
すごいよMAPPAさん。
(MAPPAさんはずっとすごい)
潤平は都と両想いにはなったけど、この先は夏姫と歩んでいくのでは?と思わせるシーンでした。というかそうなって欲しい。二人で踊ってるの早く見たい。
気が強くて自分に厳しいツンデレなカワイ子ちゃんと、潤平みたいなあったかいキャラの組み合わせ、いいですよね~。

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すごすぎるよMAPPAさん

MAPPAさんの作品、毎度毎度おかしいくらいにアニメ技術が上がっていくのですが、この『ダンス・ダンス・ダンスール』の情感や揺れ動きでキラキラする目、そしてバレエダンスシーンのすさまじい美しさ!
びっくりしました。
どこまで行くんですかMAPPAさん。
ダンサーそれぞれの身体の特徴や動きも丁寧に描かれるが、特に「足」ですよ。潤平の「膝の逆側に反る足」は100年に1人と言われたシルヴィ・ギエムを彷彿とさせるし。

特に流鶯と潤平の「白鳥の湖」で流鶯がロットバルトと化すところ。
すすすすすすごい………………!
ふわぁぁぁああああ!
と感動して口が空いたままになりました。
すごい。
すごいよ。

ディズニープラス独占の弊害

『ダンス・ダンス・ダンスール』革新的なアニメのすばらしさなのに、あまり話題になってない?と思ったらディズニープラス独占配信。
勿体ない。
あのなめらかで華麗なMAPPA渾身のダンスシーンだけでも、もっとたくさんの人に見てほしい。

実際のバレエより伝わりやすいかも?

語弊があるかもだけど、バレエの身体表現のすごさも、チケットが高額だったりして本物を近くで観るハードルが高い本物講演より、伝わりやすいと思う。
実際に自分もバレエは、ものすごいダンサーでないとピンとこないところもあり。しかも安い席で遠目で見てもわからなかったりするし。ハードル高いんだよ。
そんなわけでバレエを観る方の底上げも、なかなかに難しい。
この点は前々から日本バレエ界でも言われてることで、生川綾子の野望もとてもリアル。

OPもEDも素晴らしい!

OPのYUKI「鳴り響く限り」は高揚感とキラキラの青春。そしてそれゆえの、青い春の儚さや、流れていく時間のもの悲しさも含んでいる。YUKIは少女漫画によく似合いますね。
EDのヒトリエ「風、花」も男子中学生の思春期感を表してるのもいい。

男らしさとは

今どき、で片付けたくはない「ジェンダーの役割」要素。
まず最初のハードルをここに持ってくることは、もちろん「今どき」ではあるわけだけど。これは少女漫画がずっとやってきたことでもあるし、あらゆる抑圧からの「開放」は創作物が担う責任みたいにも思える。
だから、大げさかもですが、ちゃんと「王道漫画を背負う」ジョージ朝倉先生の決意表明とも感じた。

あと、主人公の名前「潤平」には「JUMP(EI)」が込められてるのかなとかね。

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最終回、中学生ながら、生き方の覚悟を決めた都と潤平

都と潤平が両想いになった。
しかし、もはや大人になった自分には「違うのではないか」と思ってしまう。
キュンキュンしながらも、だ。
よかったねぇ、なんて思いながらも、だ。
「好き」だけじゃなく、生き方が添わないと一緒にはいられないのだ。
そんなこと、中学生には言いたくない。思いっきり「好き」だけで恋愛してほしい。むしろそれができるのが学生時代だ。
夏姫の髪をおろした姿に、無自覚に、うっとりした潤平。
そっちが、進むべき方向なのだという示唆を感じるシーン。

だから最終回。
都の決意は尊い。
「恋」より、「好き」より、「守るべきもの」を取った。
その、決意の表情とバレエ。
一歩、誰よりも先に大人になった都。
都というキャラを本当に好きになった瞬間だった。
人を押しのけて高みを目指したりする気持ちも、そもそも目指すものもない都。プロには不可欠な我の強さはない。けれどバレエやピアノが好きな気持ちは本物だし、流鶯をなんとかしないとと助け続けた自主性も慈愛も都の強さだ。
尊い。
流鶯も都の助けを借りながら、ちょっとづつ、がんばるといいな。

そして潤平は、他者への思いやりを優先して、自分の「やりたい気持ち」や直観を封じていた頃から、抜け出る。
千鶴は、そういった潤平の特性を見て取って、巣立たせる。
第一の指導者が千鶴であったことは潤平のバレエ人生に起こった、最大のハッピーだ。

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ライバルも先生も、良くて悪くてズルい

海咲のキャラ、よかったですね。
ズルさも性格の悪さも「バレエに本気」であることの証として、丁寧に描かれる。だから、いいヤツな大和とも友だちだ。
前述した寿も大和も、バレエ界にいるいるキャラでもあり、愛されるキャラであり。

先生たちもいい。
生川綾子はまるで京都の伝統芸能師範かのような(語弊)底知れぬ陰険アート勘違いキャラかと思わせておいて、ちゃんと見る目があって、利があればすぐに潤平を認めることもできる。
子安さんcvのサマースクールの男先生もフラットで安心。
最終回で綾子先生の肩握っちゃうのおもしろかったなー。

出てくる全員が「良い人」ではなく、悪いとこも良いとこも狡さもあって、それでも人間は活き活きとした存在だと描いてる作品だなと。
潤平が自分優先で舞台を荒らしたことなど、それでいいの?と思った点はちゃんと回収されるし。

潤平がバレエを好きになった舞台のダンサーは、あのタトゥーと言い、おそらくセルゲイ・ポルーニン。クラシックバレエのお固い感じが苦手な人にもカッコいいと思わせる「自由」や「自分の気持ち」を大事にしているダンサーです。日本でもドキュメンタリーが放送されたりしてますし、この映画も素晴らしかったです。

潤平の同級生とか、流鶯のお母さんについてとか細かい言いたいこともたくさんあるけど、この辺で。

全体として、見ることの快感がすごい、とても気持ちいい作品で、興奮しました。
いつもは録画したアニメを見たらすぐ消すんですけど、久々にまた全話置いてあります。

しかし、アニメの質はすさまじいが2期があるのか微妙だし(絶対に作ってほしいけど!)、あるとしても当分先だと思うので、原作行きますね……。

ついで布教:ダンス漫画が本当に好きなのです

『ダンス・ダンス・ダンスール』見ながら、走馬灯のように脳内を駆け巡った、これまで読んだダンスだけでなく、似たものを感じたスポ根漫画を羅列しておきます。
『ダンス・ダンス・ダンスール』がお好きなら、これらもお好きになるかもしれません。

アラベスク/山岸凉子

舞姫テレプシコーラ/山岸凉子

N★Yバード/槇村さとる

蝶の舞う日/牧村ジュン,佐和みずえ

ガラスの仮面 /美内すずえ

10DANCE/井上佐藤

ハイキュー!!/古舘春一

では、また!

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