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『巨人と共に』 後編

Scene21:湖のほとりで
崖から歩くこと数時間、森の中に湖を見つけた。
「ここで少し休憩しよう!」
「喉も渇いているから丁度いい」
そう言うと巨人はゆっくり少女たちを地面に下ろした。
「だけどこの辺りには食べ物はなさそうね、、」
お腹が空いた少女は小さな声でつぶやいた。


Scene22:空腹
冷たく澄んだその水は喉を潤し疲れを癒してくれた。
しかし昨晩から何も食べていない。
少女はお腹を押さえ「魚はいるみたいだけどずっと底の方にしか見当たらないわ」 じっと湖の底を見つめながら言った。
「よしっ僕が湖に入って捕まえてくるよ!」 と巨人は立ち上がった。


Scene23:湖の主
湖に足を踏み入れようとした瞬間 湖面が盛り上がり、次第に大きな人型になった。
巨人も少女も驚き、口を開けたまま声が出ない。
湖の巨人はこちらの様子を伺っているようにじっと見下ろしている。


Scene24:無言
襲ってくる様子はないが、万が一に備え少女たちをすくい上げ両手で守る。
その後も無言のまま対峙していたが、巨人はたまらず口を開いた。
「僕たちは水と食糧を求めて寄っただけだ。邪魔してしまったのなら直ぐに去るよ!」
その途端、主のまとう水の流れが勢いを増した。


Scene25:主のもてなし
いよいよ襲われる!と巨人はたじろいだ。
水の勢いに乗り魚が次々と落ちてくる。
そして大量の魚をばら撒いた後、何故か主は湖の中へと消えていった。
「きっと私たちに魚を分けてくれたのね!」
少女は気づき、涙と笑顔を浮かべ叫んだ。
「主さんありがとう!」

Scene26:魚三昧
空腹だった二人と一匹。 あれだけ大量にあった魚も一匹残らずたいらげた。 陽も落ちかけ、「今日はここで休ませてもらって、朝早めに出発しよう」
そう言うと巨人は横になり、少し早めに眠りにつく。
少女と猫もそのかたわらに腰を下ろし目を閉じた。


Scene27:湖をあとに
主のお陰でお腹も満たされ満たされ、安心してぐっすり眠れた。
朝日が昇る頃、二人は湖に向かい「素敵な時間をありがとう!」
と感謝を伝える。
それに答えるかのように水面に波紋が現れた。
二人は顔を見合わせ微笑む。
「よし、出発だ!」また先を目指し歩き始めた。


Scene28:山越え
早朝から歩き進め昼になる頃、岩山のふもとに辿り着いた。
「さあ、この山を越えれば目的の場所も近いぞ!」 そう張り切る巨人だったが、頂上のかすむ岩山を見上げ、少し不安げな表情に変わった。
ここを越えるには恐らく3日はかかるだろう。


Scene29:雨と洞穴
その岩山は想像以上に険しく、まだ3割に満たないところで巨人の体力も尽きかけていた。
そしてやっと途中の岩棚に到達した頃、陽は沈み雨が降り始める。
洞穴を発見し今夜はここで休むことにした。
しかし洞穴はとても巨人が入れる広さではなかった、、


Scene30:やまない雨
雨足はしだいに強くなり、洞窟にも雨と時折冷たい風が吹き込む。
巨人は洞窟を塞ぐように腰掛けた。
「これではあなたが風邪をひいてしまうわ!」
その声に巨人は、「平気だよっ僕はいつも森でも外で寝ているんだ」
「だから心配せずゆっくりおやすみ」


Scene31:落盤
数時間経ち洞窟の中と外で眠る二人。
その時大きな音をたて入り口が崩れ始めた!
長年の風雨とこの雨で一気に地盤が緩んだようだ。
入り口を挟み見つめ合う二人。
とうとう完全に塞がってしまった。
どうにか掘り起こそうとするが益々崩れるばかり。
なす術を失った。


Scene32:僅かな希望
経ち尽くす少女。 その時猫が急に奥へと走り始めた。
「待って!」
止まることなく更に奥へと 微かだが奥から空気の流れを感じた少女は
「猫が洞窟の奥へ、きっと出口があるんだわ!」
「山の裏側で落ち合いましょう!」 そう巨人に告げ猫の後を追いかけた。


Scene33:不甲斐と断崖
そう聞いてすぐさま巨人は岩山を登り始めた。
守れなかった自分を責めながら、少しでも早く彼女の元に行き不安を取り除こうと急いで裏側を目指す。
容赦無く打ちつける雨、濡れた岩に時々滑り落ちそうになりながらも休むことなく登り続ける。


Scene34:光
もう何時間歩いただろうか。
先の見えない洞窟の中をただひたすら猫の後を追いかけた。
すると猫の歩みは止まりこちらを見ている。
そしてその向こうには微かだが光が差している!
「やったぁ出口だわ!ありがとうっ!!」 そう言って猫を抱きしめた。


Scene35:届かぬ光
疲れ切った身体に再び力がこもる。
少女は走って出口へ。 しかし、出口を目の前にして愕然とした。
とても飛び移れそうにない大きな穴が出口への道を断っていたのだ。
力果て座り込む少女。
慰めるように猫は側に寄り添った。


Scene36:救いの手
巨人の到着には後2日はかかる。
それまで待つしかないのだと不安に震えた。
すると突然「そこにいるのかい?」と巨人の声。
まさかあの険しい岩山をこの短時間で!?
「ここにいるわ!」そう返すと大きな手が入り口から、、
その手は激しい道のりを物語っていた。


Scene37:安堵
巨人は少女たちを抱え、無事であってくれたことに声をあげて泣いた。
そしてあの時救えなかったことを詫びた。
「あなたは何も悪くない!」
「あんなに険しい岩山を乗り越えて、こうして助けに来てくれたじゃない」 その言葉に一層涙が溢れ出す、、


Scene38:濃霧
雨も上がりそろそろ陽も昇る頃。
しかし濃い霧のため辺りの状況が全くわからない。
霧の中動くのは危ないので晴れるまで岩棚で休むことに。
当然巨人は疲れ果て腰を下ろすや否や深い眠りにつく。
そこに寄り添うように少女たちも眠った。


Scene39:輝
まだ眠り間もない時、その瞬間は訪れた。
今まで濃く覆っていた霧が嘘のように消え去り、辺りに美しい光が放たれる。
眩い光に少女は目を覚まし、その先に見たものに驚き声を上げた。
少女の声と光に巨人も目を覚ます。


Scene40:輝きの源
目の前に広がる海に陽が昇ったかと思うと、その光はみるみる高く登り、やがて美しい女性の姿になった。
巨人、いや神なのだろうか、、
全てを包み込むような暖かく優しい光の前に二人はひざまずいた。


Scene41:共に願う
正しくこれまでに見たことのない美しい光景。
ここが約束の地であった。
そして光の主に促されるかのように、二人は一心に願った。
ここまでの道のりで苦楽を共にした二人には強い絆が生まれ、互いにかけがえのない存在、これからも共に過ごしていきたいと願う。


Scene42:あなたと共に
その時巨人の体が光り始め、そこには小さくなった巨人の姿が。
大きさだけで無く若返り、傷まで治っていた。
互いを想い愛する気持ちが奇跡をもたらしたのだ。
これなら一つ屋根の下ずっと一緒に暮らせる、二人は光の主に感謝し手を取り合いその場を後にした。


Scene43:家族と共に(完)
森へ帰り、共に暮らし始め数年が経った、、
以前と変わらず動物たちと共存し、二人の子供も授かった。
少女は母となり、祖母と同じように幼い娘に巨人と共に過ごした日々を語った。
今度は素敵な物語の終わりを聞かせることができるだろう。


最後までご覧いただきありがとうございました。



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