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Tuyu について

 自分は基本晴れの天気が好きだ。青空を見ると外に出掛けたくなる。それと比べてなんだ雨のあのジメジメのした感じ。外に出るのも濡れるのが面倒だし。そんなのだからシンプルにテンションが下がる。従って梅雨の時期などテンションはダダ下がりしており、やる気も何も出ない。
 窓の外。雨。カレンダーを見る。6月。梅雨真っ盛りではないか。また忌々しい時期が始まる。外に行ってリフレッシュしたいが雨が降ってるし怠い。結局YouTubeを観始める。すればほら、気づけば2時間も経っているではないか。また時間を無駄にしてしまった。しかし外に出るのもな…。かと言って家でできて、尚且つ有意義な時間が過ごせそうなものがない。いや、そんなことを思っているから家でYouTubeばかり観ることになるんだ。
 そこで俺は、何もせずYouTubeでショート動画をスクロールする日々からの脱却を目指した。

 まず、本を読もう。YouTubeのショート以上の知や有意義な情報がそこにはあるはずだ。本読んでると頭良くなった気がするし。俺は読書を始めた。BGMにアンビエントミュージックを流し、文章を読み込んでいく。すると、なんだか気持ちよくなってくる気がした。本を読んで気持ちが落ち着いてきたのもあるだろうが、今ここで流れているアンビエントミュージック。その曖昧で絶妙なサウンドが、梅雨のハッキリとしないジメジメした感じとマッチしている。これだ。俺はこれがあれば梅雨を乗り切れる。
 そうして、俺は梅雨の時期、アンビエントをたくさん聴くようになった。俺の部屋では何時間もアンビエントミュージックが流れている。幸運なのは、最近音楽業界でアンビエントが盛り上がっており、毎日のように新しいアンビエントの曲やアルバムがリリースされることだ。直近で発売されたミュージックマガジンの7月号も、アンビエントミュージック特集である。もともとアンビエントミュージックは好きだったし、聴いていたが、ここまでずっと聴いていたことは少ないかもしれない。「今ハマっているし、音楽業界の流れにも乗って、アンビエントミュージックを作るか」という思考が、アルバム「Tuyu」を作るきっかけになった。


 今までもアンビエントミュージックは結構な量を作って出してきていたが、アルバムとしての単位でリリースしたことはなかった。最近はサブスクリプションの普及で、世界的にもアルバムを通して聴くという行為は少なくなってしまったが、俺はアルバム至上主義であり、アルバムを通して一つの作品が成立しているものが好きだ。自分が作るアルバムもそうでありたい。今回のアルバム「Tuyu」は、タイトル通り梅雨のサウンドトラック。梅雨に聴いて心地の良いアンビエントミュージックを目指した。
 作品にもよるがアンビエントは一曲が長い場合も多く、今回の「Tuyu」に収録されている曲も例外ではない。一曲目の「Tuyu」は19分、2曲目の「To the time that seems to be a waste」は6分である。主流のJ-POP等と比べるとやはり長めの尺取りだ。アンビエントに於いての話にはなるが、一曲が長いとその分聴いていてゆっくりと体や精神がチューニングされていく感覚がして気持ちが良い。短いアンビエントミュージックにも傑作は多いが、ここでは長い時間を使って表現をすることにした。


1.Tuyu

 ここからは収録曲の解説をしていこうと思う。まず1曲目の「Tuyu」。19分の中で少しずつ景色が変わっていく様な曲だ。左右から流れてくる音の粒子がリズムを作り、そこにやがてビートが入る。最後はドローン(持続音)だけの展開になっていき静かに終わりを迎える。というのがおおまかな構成。たくさんのサウンドエフェクトを使用しており、波の音や左右に振り分けられた音達で絶妙な雰囲気を作りだせていると思う。

2. To the time that seems to be a waste

 続いて2曲目の「To the time that seems to be a waste」。和訳は「無駄と思える時間に」。冒頭にも書いたが、2時間ぶっ通しでYouTubeを観たり、なにごとも中途半端で無駄な時間を過ごしてしまう時が誰にでもあると思う。"YouTubeばっか観てた"なんてのは軽い出来事に見えるが、その後悔の重さたるや。
 "無駄な時間"。その時間は2時間かもしれないし、10日かもしれないし、もしかしたら50年かもしれない。時間はいくらでも構わないが、その失った、既に過ぎてしまった時間に対する肯定、或いは弔いの気持ちでこの楽曲を制作した。それぞれ違う生活音が右と左から流れ、ドローンが現れては消える。それを繰り返し、これもまた静かに終わっていく。


 音楽を制作する人々が度々行う議論に、「誰に向けて音楽を作っているか」というものがある。特定の誰かにかもしれないし、自分の為にかもしれない。この音楽は完全に自分が自分に向けて作った音楽であり、それ以上のことは起こらないと思っていた(再生数はそれなりに稼ぎたいけどね)。だが、YouTubeの「Tuyu」のコメント欄に、
 "no way I found these gems with so little popularity through YT Recommended, nice songs!"と記入してくれた人物がおり、「ああ他人が聴いても良いと思える音楽を作れてるんだな〜」と良い気分になった。
 まだ自室ではアンビエントミュージックが流れ続けている。良い気分のままでベッドに寝っ転がっていたら、風呂に入るタイミングを逃した。

YouTube↓

soundcloud↓

 音を左右にめちゃくちゃパンさせているので、イヤホンやヘッドホンで聴くと楽しいかもしれない。是非。

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