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Andante Favori WoO 57 L.v.Beethoven


ぼくの好きな曲。
以前からいつか弾きたいなと思っていました。

「お気に入りのアンダンテ」なんてベートーヴェンらしくない、可愛らしいタイトルが付いていて(自らの発案かはわかりませんが)、曲も終始穏やか。特に何かドラマが生まれるわけでもなく淡々と同じメロディが繰り返されます。

でもはじめて弾いたときから「いいなぁ」とぼんやり感じていました。

あとでこの曲があの「ヴァルトシュタイン」ソナタ に組み込まれる予定で作曲されたという事実を知り、更に興味をそそられました。

全体が長くなりすぎてしまうという理由でこのアンダンテはソナタから外されますが、ソナタの出版から4ヶ月後、単一の独奏曲として発表されました。「また他の機会に…」と机の奥にしまわずに、ベートーヴェンはこれを出版した。それほどこの曲に愛着があったんでしょうね。

この曲は、「散歩」のようです。
目的があるわけでもなく、何か劇的なドラマを求めるでもなく、ただ歩き、呼吸し、自然を感じている。鳥の声もそこかしこに聞かれます。

終わりの方、細かな和音の連なりのような部分が現れます(167〜178小節)。メロディや拍感もぼやかされていて、弾きながら、この部分は一体なんだろうと少しわからずにいました。

ぼくは実際にこの曲を聴きながら散歩してみました。耳にワイヤレスイヤホンを付けて。ベートーヴェンに見られたらびっくりされそうですが。

「ああ、風だ」

と歩きながら思いました。
この唐突な転調で、風が新しい空気をさっと運んでくる。森の木々が揺れ、葉がざわめいています。2度目はもっと強く大きくやってきて、空高く舞い上がり、やがて何事もなかったように去っていきます。

ベートーヴェンは、散歩しながら何を考えていたんだろう。


ただそこにじっと佇んでいるだけ。
でもこれは愛すべき音楽。


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