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フリック入力ができない

先日、衝撃的な事実が発覚した。
先に申し上げておくと、わたし個人にとって衝撃的だっただけで、これからわたしがしたためるのは、全く役にも立たないどうでもいいことである。どうでもいいことなのだけど、まあ、聞いてほしい。

わたしは長いことガラケーを使っていた。正確に言うと、ガラケー、iPod touch、ポケットWi-Fi、の三台持ちだった。つまり電話機能のないスマホ的なものを持ちつつ、電話やメールはガラケーで行っていたのだ。いま使っているスマホのメッセージを遡ると、完全にスマホ一台にしたのは2019年のGW頃らしい。まあまあ最近である。

iPod touchを持ち始めたのは2011年の夏頃。震災を機にSNSユーザーが増え、iPod touchを使ってのSNSが捗ったのでよく覚えている。震災の当時はまだガラケーしか持っておらず、震災情報をガラケーをポチポチ押しながら頑張って見ていた。ツイートすると「Keitai Web」と下に出る。iPhoneからツイートすると「Twitter for iPhone」と右下に出るやつ、あれね、ガラケーだと「Keitai Web」だったんですよ(インターネット老人会)。ケイタイウェブて。もっと他になかったのかと思わなくもない。

わたしが頑なにガラケーを手放さなかったのは、ひとえにフリック入力がうまくできなそうだったからである。iモード!16和音!ケータイ小説!魔法のiらんど!な時代に女子高生を過ごした身としては、ガラケーをポチポチ押すことこそが華だったのだ。…でも、別に周りの同い年はさっさとiPhoneにしていたので、わたしがのっそりモタモタ腰が重かっただけなんですけどね。

時はSNS戦国時代に突入。一日に500回はTwitterのアプリを開くようになり、ガラケーのポチポチではないタッチパネルの文字入力も自然と早くなっていった。

でも結局、ガラケー、iPod touch、ポケットWi-Fiの三台持ちは8年も続いた。iPod touchでサササッと文字を打ちながら、「フリック入力が」とわたしは言い続けた。
普通に打っとるやん、と今なら思う。人は渦中にいるとかようにも気付けないものなのか。愚かなり。

その間、今思えば不便なことも多々あったのだ。例えば結婚式の二次会に呼ばれたとき。三台もの電子機器はドレス用の小さながま口バッグに入るわけもなく、サブバッグにミチミチに我が三種の神器を詰めていたこともあった。
またあるときは、LINEでかかってきた電話に出られないこともあった。iPod touchには音を聞く機能はあっても、喋る機能はないのである(今は知らないけど、当時のは)。LINEのアプリはiPod touchに入っているのに、そして電話を取ると向こうの声は聞こえるのに、こちらの声が向こうに届かない。LINE電話をそっと切り、「iPod touchなので通話ができないのです…」とわけのわからないことを言って謝ることが何度もあった。iPod touchでLINEを使ったことがないとピンと来ないかもしれないので、相手からしたら本当にわけのわからない理由だったのではないかと思う。
また、シンプルに三台は数が多い。手に持ちきれないがゆえに(と元来のそそっかしさとで)、とにかくめちゃくちゃ落とした。iPod touchの画面は何度もバリバリになり、ポケットWi-Fiは落としすぎてついに壊れた。ちなみに、iPod touchを落として画面がバリバリに割れるたびに、やっぱりガラケーだよな!割れないし! と悦に入ってもいた。

ともあれ、ポケットWi-Fiの故障でスマホに変えることになる。

この頃には当然、フリック入力もできるようになっていた。

はずだった。

先日、知人らとフリック入力の話になってわたしは気づくことになる。
「長いことスマホにしたくなくてさー。ガラケーとiPod touch使ってて、でもよく考えたらiPod touchで SNSやってたらフリック入力すぐできるようになってたんだよねー」
とフリック入力を画面で試みようとした。普段やっている通りに打ち込んでみると……。
なんとわたしは、母音の「え」と「お」だけをフリック入力していたのである。つまり、「け」や「の」のような“遠い”文字だけをフリックし、母音が「い」と「う」の文字はタタタッとガラケーのときのあの感じで、押していた。それはもう、画面を叩きまくっていた。

え、iPod touch時代含めて、40%しかフリックせずに8年もやってきてたの……?

わたしの画面、人よりもめちゃめちゃタップされてるやん……。

「寿司」なんか最悪である。さ、し、す、と打ってから、さ、し、と打っている。画面タップしすぎである。

おそらく、フリック入力に苦手意識があった当時、まずは「え」と「お」だけでも覚えよう、と練習し、そのままになったのではないかと考えられる。まあ…2回や3回タタタッて押すくらい、いいか、と。愚かなり。

ちなみに、この長い文章も、そのやり方ですべてスマホから打った。
画面をそれはそれは叩きまくって書き上げた。
フリック入力ができない、と言い続けたことで生まれた悲しき怪物。40%だけフリックの体を持つフリックキメラ。それがわたしである。

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