OIから相場の流れや価格の歪みを読み取る
仮想通貨、特にビットコインの証拠金取引をしている、もしくはしたことがある方はOI(未決済建玉(たてぎょく))という単語を一度は聞いたことがあるかと思います。しかし、OIがどうして、そしてどのように価格に影響を与えるのかを正しく理解しているでしょうか。もしかしたらOIという言葉自体初めて聞くという方もいらっしゃるかもしれません。
本記事では、OI分析によって仮想通貨市場における価格変動の内部要因の変化から大衆心理を読み解き、スキャルピングからスイングまで幅広いトレードスタイルに活用する方法を解説していきます。
※本記事についての注意書き
・本記事はビットコイン及び仮想通貨への投資勧誘を目的とするものではありません。投資やトレードに関するご決定は、リスクを考慮した上で自らのご判断と責任によって行っていただただくようお願いいたします。
・内容の正確性には細心の注意を払って作成しましたが、正確性、適時性、有用性等に関しては保証致しかねます。
・予告なく内容の修正や有料部分の価格変更を行う可能性があります。
本記事を執筆するにあたり、下記の記事を参考にさせていただきました。
https://note.com/skycloudspring/n/n0aec3ed0ec9f
https://note.com/skycloudspring/n/nfa51ed19aec3
価格変動のメカニズムやOIの読み方についてはこちらでより詳しく解説されていますので先にご覧になっていただくことをお勧めします。
そもそもファンダメンタルズ分析とは
相場の分析手法は大きくテクニカル分析とファンダメンタルズ分析の2つに分かれています。
チャート上に表示される値動きを分析し将来の価格を予測するテクニカル分析に対して、ファンダメンタルズ(基礎的条件)分析では需給バランスなど価格変動における根本的な要素に着目して相場分析を行います。
以下はそれらの具体例です。本記事で触れるOI関連以外の事柄の詳細な説明は割愛させていただきます。
これらのうち、ファンダメンタルズ分析における内部要因である建玉状況、すなわちOI(未決済建玉)を分析することで短期だけでなくある程度中長期的な流れやマーケットの価格推移の健全さを推し測ることができるようになることが本記事の目的です。
OIとその増減
OI(Open Interest)/未決済建玉とは、デリバティブ取引(≒信用取引)において決済されていないポジションの数量のことを指します。すなわち、証拠金取引で建てられたポジションがどのくらい決済されずに残っているかを示すのがこのOIの値です。
ここで重要になるのが、BitfinexやTAOTAOで採用されている相対取引(OTC(店頭)デリバティブ)を除き、市場デリバティブ取引(≒板取引)においては必ず建玉、すなわちロングポジションとショートポジションの数量は常に等しくなるということです。
この認識を間違えると正しく内部動向を読み取れなくなってしまいますので注意が必要です。
どういうことか図を用いて分かりやすく説明します。
そもそも取引売買は、買い手と売り手がいないと成立しません。極端な話ですが例えばあなたが$100000で1BTCを買いたいと思ってもその価格で売りたいという人が1人もいなければ買うことはできないのです。注文が成立し値段がつくのはその価格で需要と供給のバランスが釣り合っているからです。
デリバティブ取引の場合は証拠金を担保にして空売りしショートポジションを建てることができます。
そこで、下図のように、今後価格が現在の価格よりも下がると判断した投資家はショートのエントリーをすることで「現時点と将来の価格の差額を受け取る(または支払う)権利」と「買い戻しの義務」を得ます。
状況を分かりやすくするために価格が上昇している場面について考えます。
この場合、価格が上昇しているのですから指値の売り注文と成行の買い注文が次々と成立していき価格が押し上げられていることになります。
本来ならできるだけ安く買いたいはずなのに、今よりも価格は下がらない、この価格でいいから買いたいと判断したトレーダーが成行で買いの注文を入れ、その価格の売り指値が全て成立すると、価格は次の売り注文があるところまで上昇するのです。
ビットコインfxにおいては一部取引所の現引き、現渡しを除き(詳細な説明は今回省略します)原則は差額決済ですからロングもショートも利益や損失を確定させるためには反対売買によって転売や買い戻しをする必要があります。
これはOIと価格変動について考える時に非常に重要なことです。なぜなら、価格が上昇する時に成行買いの注文を入れているのは新しくロングポジションを持つトレーダーだけでなく、それまでショートを持っていてそのポジションをクローズするために反対売買を行っているトレーダーも含まれているからです。また逆に、指値で売り注文を出しているのも新規にショートポジションを建てるためだけでなく既にロングポジションを持っているトレーダーの決済のための注文である可能性があります。
価格が上昇している場面(指値売り、成行買い)では、次の4通りのパターンで売買が行われています。
①新規ロングと新規ショート
ロングポジションとショートポジションが同じ数量だけ増加します。
②新規ロングとロング決済
既にあるロングポジションは減少しますが同じ量のロングポジションが増加するためOIは増減しません。また、ロングポジションとショートポジションの数量の差も変わりません。
③ショート決済と新規ショート
②とは反対に既にあるショートポジションは減少しますが同じ量のショートポジションが増加するためOIは増減しません。また、ロングポジションとショートポジションの数量の差も変わりません。
④ショート決済とロング決済
ロングポジションとショートポジションが同じ数量だけ減少します。
これらのパターンを1つの表にまとめると次のようになります。
ここから分かるのは、OIが増加するのは新規の買いと新規の売りが成立した時だけで、反対にOIが減少するのは既存の買いポジションと売りポジションが共に決済された時だけです。
また、いずれの場合もロングポジションとショートポジションは同じ数量だけ増減し、どちらか一方が多くなるという状態はありません。
実際には価格が上昇している場面でも成行の売り注文は行われてますが、その場合もOIの増減に関しては同じことが言えます。
これらをもとに、価格が上下した時に裏でどういった売買行動が起きているのかを分析し大衆心理を読み取り相場の流れを掴むのがOI分析になります。
なぜOIが価格に影響を与えるのか
前述の通り、未決済のポジションはいずれ決済しなければいけません。その際の反対売買を行う必要があるため、OIは未来の買い圧・売り圧という表現をされることがあります。特に大量のストップロス注文や強制ロスカットが引き起こされると成行注文が殺到し、急激な価格変動を起こすことがよくあります。
OI分析を始める前に
OIの増減とチャートを照らし合わせるだけでは果たして市場参加者がどちらの方向を向いているのかを見極めるのは難しいです。
そこでOIをベースにして出来高(売買出来高)や価格帯別出来高、清算データ、現物デリバ価格乖離などの指標を見つつ分析していくのです。
・売買出来高(BuySellVolume)
出来高は1日、1時間など、ある一定期間内に成立した売買の数量のことを指しますが、出来高の場合はその期間内に成行買いが多かったのか成行売りが多かったのかを知ることはできますが実際にどの程度成行買い・成行売りが行われたのかは分かりません。
そこで、売買出来高を使って詳細に分析します。これにより、例えばOIが増加しながら価格が上昇している場面でも、新規の買いが多いのか、もしくはある程度ショートの決済も含まれているのかを大体把握することができます。
上がBuySellVolume(売買出来高)、下がBuySellCount(売買注文数)です。
・清算(Liquidations)
清算とは、証拠金維持率が一定以下になった時にトレーダーのポジションを強制的に決済するプロセスのことです。強制ロスカットとも言います。
デリバティブ市場では高いレバレッジをかけることができる代わりにこのシステムが採用されています。(多くの仮想通貨取引所ではゼロカットシステムです。)
極端に加熱した相場または極端に弱気な相場ではしばしばハイレバレッジのポジションが清算を起こし急落や急騰につながることがあります。天井ロングや底ショートなどいわゆる突っ込みロング・突っ込みショートが強制的に決済されることにより反対方向の売買注文が短期間のうちに大量に発生し瞬間的に大きな値動きになることが多いです。これが連鎖的に起こることで2021年4月や5月のような暴落につながることもあります(下図)。
Liquidationsの指標を見ることによりどの程度の成行売買が強制ロスカットによって行われたのかを確認することができます。主にリバ取りのスキャルピングなどで使用します。
・デリバスポット乖離、資金調達率(Funding Rate)
デリバティブ市場価格と現物市場価格の差のことです。先物市場においてはレバレッジをかけて証拠金以上の資金を動かすことができます。通常はそこまで気にならないですが、局面では過熱感や清算などを理由に過度な買い・売りが発生しデリバティブ価格が”行きすぎ”になることがあります。
0より高い時:無期限先物価格の方が現物価格よりも高く、買いが加熱
0より低い時:無期限先物価格の方が現物価格よりも低く、売りが加熱
詳しい説明や使い方は以下の記事を参考にして下さい。
https://note.com/memenote/n/n34c6301c39bf
https://note.com/banekichi/n/n2eafac097761
こういった”行きすぎ”の状態を抑制し、デリバティブ市場における無期限先物価格と現物価格の乖離を是正するために導入されている仕組みがスワップ金利手数料とも呼ばれる資金調達率です。
このFunding手数料は相場状況により随時変動し、特定の時間にポジションを持っている場合、手数料の支払いや受け取りが発生します。
FRがプラスの時:ロングポジション側がショートポジション側に支払う
FRがマイナスの時:ショートポジション側がロングポジション側に支払う
https://help.bybit.com/hc/ja/articles/360039261114-
資金調達率は先物価格の乖離状況に加えて板の偏りによって自動的に算出されるものなので純粋な乖離率ではないのですが、いわゆる相場の過熱感は資金調達率を見ることによって測ることができます。
注)この資金調達率の解釈は以前にショウさんという方にご回答いただいた際の表現を引用させていただいております。Bybit公式の説明だと複雑で少々分かりにくいと思います。
画像は今年4月から8月までの価格と資金調達率の推移ですが、ひどく加熱した相場または弱気な相場では資金調達率が極端な値を取ることが多いと分かります。
・価格帯別出来高(VPVR)、Orderflow
横軸(時間軸)的見方をする出来高に対して縦軸(値段軸)的見方をするのが価格帯別出来高です。Orderflowではより詳細にどの価格帯でどの程度注文があったのかを知ることができます。
価格帯別出来高が多いところでは過去にそこで売買したトレーダーが多かったことを意味し、意識されるラインになることが多いです。また、反対方向にポジションを取ったトレーダーの決済の動き(同値撤退など)が発生するため一旦反発するポイントになることが多いです。
OIの増減に価格帯別出来高と出来高を組み合わせたりOrderflow分析を加えたりすることによってどの位置からどの程度のポジションが掴まっているかがより分かりやすくなると思います。
こちらも本記事の主題ではないため、より詳しい解説をお求めの方は以下の記事を参照して下さい。
https://note.com/sen_3377/n/n5bc03bb6d44f
こちらのクソポジチェッカーでは価格帯別のポジションをより視覚的に把握することができます。ただデータの更新がリアルタイムではないため注意する必要があります。
http://ludwig.s602.xrea.com
これらのデータが見れるサイトはいくつかありますが自分はよく次のサイトやツイッターアカウントで確認しています。
・Coinanlyze
UIが見やすく使いやすいです。無料版でも様々なデータが取得でき、多くの取引所や通貨に対応しています。
・Bybt
取り扱っているデータの種類が豊富で、日本語にも対応しています。たまにデータの更新が止まることがあるのでリアルタイムのトレードに使うのはやや不向きだと感じています。
・BTC情報アラート
無期限先物OIに限らず資金調達率やオプションOI、取引所Inflow Outflowなど多岐に渡る有料級の情報をTwitterで得ることができます。OI分析をするかに関わらず相場環境を把握するために非常に有効です。
https://twitter.com/btc_status
余談ですがOrderflow分析ではこちらのExochartsを使っています。
OIから相場環境を把握する
それではここから実際のチャートを用いて具体的にOIと価格変動について見ていきます。
チャートはBybit、OIは赤がBitMEX、オレンジがBybit、黄色がBinance、水色がFTXです。
【価格が上昇している時】
・価格上昇↑ OI増加↑
新規買いの動きです。トレーダーが次々に新たなロングポジションを建てるために成行買いを行い価格が上昇していることが分かります。また価格が上昇していくに従い出来高が増加している場合は相場基調は強気であると捉えることができます。
ただし天井圏で短期的にこの動きが見られた場合、突っ込み買いによって無理矢理価格が押し上げられている可能性があるため注意しなければなりません。特にデリバティブ価格がプラス方向に乖離を広げている際は急落に警戒が必要です。
通常は成行買いに通常新規のポジション構築の他に既存のショートポジションの決済も含まれているため売買出来高は買いの方が売りよりも多くなります。しかし売りの方が買いよりも多い場合には、少ない成行買いでも価格が上昇する程売り板が薄い一方で買い板が厚く価格が下がりづらい堅調な相場であることが分かります。
・価格上昇↑ OI減少↓
買い戻しの動きです。トレーダーが既存のショートポジションを成行買いで次々とクローズすることで価格が上昇していることが分かります。また価格が上昇していくに従い出来高が減少している場合には相場基調は弱気であると捉えることができます。
ショートカバーや踏み上げと呼ばれ、短期では突発的に清算を巻き込んで急騰することがあります。新規の買いが続かないとその後じわじわと下げる展開につながりやすいです。下落相場で短期的にこの動きが見られた場合、突っ込み売りをしていたトレーダーが慌ててポジションをクローズした結果価格が上昇し、買い下がっていたトレーダーのロングポジションも同時に減っているため再度下落しやすいです。特に売買出来高が売りの方が買いよりも多い場合には、ロングポジションの決済に加えて新規のショートポジションが構築されているので弱含む動きであることが分かります。
・価格上昇↑ OI横ばい→
不安定な動きです。新規ポジションの構築、既存ポジションの決済が交錯していて方向感なく上昇している可能性があります。一連の上昇の中でも売買出来高は買いが多かったり売りが多かったりと不安定であることが多いです。その後どちらの方向に動くか予想が立てづらいので新規でポジションを建てるのは控えた方がいいと思います。
【価格が下落している時】
・価格下落↓ OI増加↑
新規売りの動きです。トレーダーが次々に新たなショートポジションを建てるために成行売りを行い価格が下落していることが分かります。また価格が下落していくに従い出来高が増加している場合は相場基調は弱気であると捉えることができます。
ただし底値圏で短期的にこの動きが見られた場合、突っ込み売りによって無理矢理価格が押し下げられている可能性があるため注意しなければなりません。特にデリバティブ価格がマイナス方向に乖離を広げている際は急騰に警戒が必要です。
通常は成行買いに通常新規のポジション構築の他に既存のロングポジションの決済も含まれているため売買出来高は売りの方が買いよりも多くなります。しかし買いの方が売りよりも多い場合には、少ない成行売りでも価格が下落する程買い板が薄い一方で売り板が厚く価格が上がりづらい軟調な相場であることが分かります。
・価格下落↓ OI減少↓
転売の動きです。トレーダーが既存のロングポジションを成行売りで次々とクローズすることで価格が下落していることが分かります。また価格が下落していくに従い出来高が減少している場合には相場基調は強気であると捉えることができます。
投げ売りと呼ばれ、短期では突発的に清算を巻き込んで急落することがあります。新規の売りが続かないとその後じわじわと上げる展開につながりやすいです。上昇相場で短期的にこの動きが見られた場合、突っ込み買いをしていたトレーダーが慌ててポジションをクローズした結果価格が下落し、売り上がっていたトレーダーのショートポジションも同時に減っているため再度上昇しやすいです。特に売買出来高が買いの方が売りよりも多い場合には、ショートポジションの決済に加えて新規のロングポジションが構築されているので強含む動きであることが分かります。
・価格下落↓ OI横ばい→
不安定な動きです。新規ポジションの構築、既存ポジションの決済が交錯していて方向感なく下落している可能性があります。一連の下落の中でも売買出来高は買いが多かったり売りが多かったりと不安定であることが多いです。その後どちらの方向に動くか予想が立てづらいので新規でポジションを建てるのは控えた方がいいと思います。
【価格が横ばいの時】
・価格横ばい→ OI増加↑
拮抗している動きです。レンジ相場で頻発し、新規買いと新規売りが交錯している状態です。天井圏や底値圏では反転の初動の値動きのエネルギーを貯めていることが多いです。
売買出来高が買いの方が売りよりも多い場合は売り板が厚く上値が重いと考えられます。反対に売りの方が買いよりも多い場合は買い板が厚く下値が堅いと考えることができます。
・価格横ばい→ OI減少↓
拮抗している動きです。レンジ相場で頻発し、決済買いと決済売りが交錯している状態です。天井圏や底値圏ではトレンド転換につながることが多いです。
売買出来高が買いの方が売りよりも多い場合は売り板が厚く上値が重いと考えられます。反対に売りの方が買いよりも多い場合は買い板が厚く下値が堅いと考えることができます。
・価格横ばい→ OI横ばい→
不安定な動きです。新規ポジションの構築、既存ポジションの決済が交錯していて方向感なく上下している可能性があります。一連の値動きの中でも売買出来高は買いが多かったり売りが多かったりと不安定であることが多いです。その後どちらの方向に動くか予想が立てづらいので新規でポジションを建てるのは控えた方がいいと思います。
OI分析の実践的な活用
それではこれまでの価格変動とOI増減の関係性を実際にトレードに生かす方法を例をとって紹介していきます。
今後本記事の内容通りに値動きが推移することを保証する訳ではありませんのでご注意下さい。
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